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[特集]

医学研究を影で支えて30年、解剖用遺体処置のプロ

2016/06/12 05:48 JST更新

(C) vnexpress, Le Nga, ハノイ医科大学の遺体安置室
(C) vnexpress, Le Nga, ハノイ医科大学の遺体安置室
(C) vnexpress, Le Nga, ラムさん
(C) vnexpress, Le Nga, ラムさん
 医学を志す大学生の解剖実習のため、大学に運ばれた遺体を受け取り、洗浄した後に化学薬品を注入し、ホルマリンに浸ける。この遺体処置を専門とする職業に就く男性がいる。  ハノイ医科大学の解剖実習用遺体安置室は、ハノイ市ハイバーチュン区タンバットホー通りにある校舎の2階に位置する。階段を2階まで上って右に曲がると、学生の解剖実習室だ。学生の実習が終わった後、1人の男性がステンレス製の棺を一心不乱に磨いている。彼の名はズオン・ゴック・ラムさん。ハノイ医科大学の遺体安置室の職員だ。  ラムさんは50歳だが、実年齢よりずっと若く見える。遺体安置室で30年間働き続けている彼は、誰かに吐露したい多くの思いを抱えている。しかし、彼の話を聞いたことがある人はわずかだ。この仕事は人から批判され、軽蔑され、怖がられてしまうため、話すことができないのだとラムさんは教えてくれた。  彼は19歳の時に医科大学で働き始めた。主な仕事内容は、大学の教員や学生の研究と学習のために献体された遺体を受け取り、処置を行い、見守り、保管することだ。初めて遺体処置に参加した時、ラムさんはあまりの恐ろしさに手足が震え、まともに仕事ができなかったという。  家に帰っても何も食べることができず、寝ようとしてもぞっとするような画像が頭に浮かんで眠ることができない。そのような状態が2年ほど続いた。その間、何度も辞めようと心に決めたが、両親や親しい人たちから励まされた。3年目に入ると仕事にも慣れ、恐怖心も薄れていった。

 遺体処置の仕事は、誰にでもできるものではない。精神的な「中毒」以外にも、身体的な影響を及ぼしかねない。常に化学物質を扱うため、ラムさんは健康管理に気を遣っている。遺体処置の際はゴーグル、ブーツ、手袋を装着し、専用の衣服に着替える。処置の動作も、化学物質が人にかからないよう慎重に行う。  遺体が運び込まれると、ラムさんと他2人で遺体を洗浄し、血管内の血液を全て抜く。遺体がきれいになったら、あらかじめ調合しておいた化学物質を体内に注入し、2日間そのままにしておく。万が一まだ薬品が効いていない部分があれば、再び注入する。その後、解剖に使う時までホルマリンのタンクの中で遺体を保管するのだが、6か月経たなければ使用することができない。  1980年代は、数え切れないほど多くの遺体が解剖用に運ばれてきたという。そして、そのほとんどが引き取り手のない遺体だった。「1日に10体もの遺体の処置を行う日もありました。遺体の数が多過ぎると保管しきれなくなってしまうため、受け入れを断ることもありました」とラムさん。  これまでに処置した遺体の数は、多過ぎて覚えていない。2007年に遺体の提供などについて定めた臓器移植法が施行されてから、大学は献体された遺体しか受け取ることができなくなり、研究のための遺体はわずかになってしまった。彼が最後に遺体処置に関わったのは、2013年にハノイ市のある博士が献体に出された時だ。

 ラムさんによると、1980年代はこの仕事に対する批判が多く、周囲の人たちや親しい人たちでさえも嫌悪していたという。誰も彼に近付こうとせず、誰も彼と話そうとしない。彼は別世界から来た「不潔」な人間と見なされていたのだ。しかし、2000年以降になると人々の考えは変わり始め、遺体処置の仕事に対する悪いイメージも消えていった。  この職業に就いているがために、ラムさんにはまだ妻子がいない。たくさんの恋愛を経験してきたが、どの女性も彼の仕事を知ると去って行ってしまった。「あまり深くは考えていません。彼女たちが私の仕事を尊重できなかったということは、私への愛もそこまで深くなかったという証拠ですから」とラムさんは言う。  テト(旧正月)や重要な機会には、献体を希望した人たちの家族が遺体を訪ねに来る。夫に会いに来る妻もいれば、父親に会いに来る子供もいる。それ以外の日には、ラムさんが家族の代わりに周りを掃除し、ここに眠る多くの遺体に線香を手向けている。  ラムさんは今後もこの仕事と科学研究に貢献していくつもりだ。そして、結婚もしたいと考えている。ラムさんは、自分を理解し、この仕事を尊重し、心から愛してくれる女性に出会える日を待ち望んでいる。 

[Le Nga VNExpress, 18/5/2016 | 05:05 GMT+7, A]
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