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[特集]

御年86歳、サイゴン中央郵便局の代筆屋

2016/08/28 05:28 JST更新

(C) vnexpress, My Phuong
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 ホーチミン市1区中心部のサイゴン中央郵便局には、いつもこざっぱりした身なりで控えめながら、嬉しそうに旅行客にホーチミン市の話を聞かせるおじいさんの姿がある。このおじいさんが言わずと知れた、ベトナムで最も長い間英語やフランス語の手紙を代筆してきたズオン・バン・ゴさんだ。  ゴさんは86歳になった現在も、毎日ビンタイン区ティゲーから自転車をこいで中央郵便局まで通っている。1通あたり1万~1万5000 VND(約45~68円)程しか代筆料を取らないゴさんは、代筆は生計のためではなくベトナムの国のためにしているのだと語る。  ゴさんは、16歳だった1946年にティゲー郵便局に就職し、2年後にサイゴン中央郵便局に移った。36歳の時、語学力の高さを買われて郵便局の代表として語学学校に通い、英語とフランスを習得。その後、1990年に定年を迎えてから現在まで、26年間にわたり代筆屋を続けている。  郵便局には毎日国内外から数百人の客がやって来る。多くの客がゴさんを訪ねては記念写真を撮り、手紙の代筆を依頼する。ゴさんもまた旅行客にホーチミン市の歴史を語り、訪問すべきスポットを紹介する。ゴさんのこの謙虚で親身な姿勢が旅行客に美しいベトナム人像を与え、世界各国からゴさん宛てに写真や手紙が届く。  ゴさんにはこれまでに出会った人々との数えきれないエピソードがあるが、なかでも忘れられないものがある。それは、両親が1956年から1958年にかけて住んでいた家を探しにベトナムへ来たというフランス人夫婦の話だ。  夫婦はたまたま訪れた郵便局で、ホーチミン市の長い歴史に精通したゴさんに出会った。夫婦が事情を話すと、家の特徴を聞いたゴさんは夫婦を旧フランス大使館近くの場所まで連れて行った。

 夫婦はその場所を写真に収め親族に確認を取ったところ、まさに両親がかつて住んでいた所だったことが分かり、喜びと感謝の手紙が送られてきたという。手紙の最後には「あなたはベトナム人の優しさと尊さの象徴です」と書かれていた。  こんな感動のエピソードもある。ベトナム人とフランス人夫婦の間に生まれた息子が、終戦に伴いフランス人の父親についてフランスへ帰国したが、大人になってベトナム人の母親を探しに東南部地方ビンフオック省を訪れた。再会した母子は、ゴさんの代筆を介して文通をするようになったのだ。  再会から長い年月が経った今でも、母親は2~3か月に一度、息子宛てのフランス語の手紙を代筆してもらうためにビンフオック省からサイゴン中央郵便局へ来るそうだ。さらにフランスに住む息子は、母親宛ての直筆の手紙だけでなく、ゴさん宛てにも文通の手助けに感謝する旨の手紙を送ってきたという。  代筆することで人々の距離を縮め、幸せをもたらしているゴさんだが、「少しの手助けで私自身も皆さんからたくさんの喜びを得ています」と語る。毎日30~40人の客と記念撮影をし、語らい、たとえ疲れていても熱心に訪問客に対応する。  高齢のため、郵便局側もゴさんが昼休憩に涼める場所を設けたが、ゴさんは「職員に面倒はかけられない」と断り、昼になると近くの大衆食堂に行き1万VND(約45円)の食事を摂り、休憩するのだという。  御年86歳の代筆屋の信念はこうだ。「今日まで元気に人々のために代筆をしていられるのも神様のお陰なのだから、できる限りの謙虚さと道徳をもって生きなければならないのです」。 

[My Phuong , VnExpress, 18/8/2016 | 14:05 GMT+7, A]
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