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[特集]

ベンチェ省で日本の建設用防護ネットを修繕する人々

2016/12/04 05:46 JST更新

(C) tuoitre, Mau Truong
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 日本で建設工事が完了すると、セメントで汚れ、穴の開いた防護ネットは海を渡りベトナムに運ばれる。メコンデルタ地方ベンチェ省の職人たちの細やかな手作業により修繕され、綺麗になったネットは再び海を渡って日本に届けられる。  労働傷病兵社会省傘下のネット修繕技術訓練工場で第3グループ長として働くグエン・ティ・フィー・ニャンさん(女性・51歳)は、工場建設当初から22年間この仕事を続けている。硬くひび割れた手が、彼女の熟練さを物語っている。  この仕事を始めてからしばらくして、ニャンさんはネットの修繕技術の訓練のため日本に行く機会を得て、日本の建設現場を視察した。「一番印象的だったのは、規模の大小を問わず全ての建設現場で、高所で作業をしている作業員や資材の落下防止のために周囲が防護ネットで覆われていたことです」とニャンさん。  この仕事を始めた当初、ニャンさんにとってネットの修繕は穴の空いた部分やほつれた部分を縫い合わせるだけの単純な作業でしかなかった。しかし実際に日本の建設現場を視察し、防護ネットの重要性を実感したことで、ニャンさんの仕事の仕方は大きく変わった。  「彼らは指2本分ほどの小さな穴が空いた防護ネットを持ってきました。そして上から重りを落とすとネットは引き裂け、重りはものすごい勢いで地面に落ちていきました。彼らは、『もしこれが人だったら死んでしまう。もしくは建設用鋼材だったら下にいる人に当たって大怪我を負うだろう』と言いました」とニャンさんは話す。  それからニャンさんは、このネット修繕の仕事は日本の建設現場で働く作業員の命を間接的に守る仕事であり、また作業員の中にはベトナム人労働者もいるかもしれない、という考えを持つようになった。「現在グループのリーダーとして13人の作業員を管理していますが、皆に慎重に作業をしてもらうため、いつもこの話を聞かせています」とニャンさんは教えてくれた。

 ズオン・ティ・トゥイ・リンさんによると、この日本の防護ネット修繕の仕事は他の仕事に比べてきついものではないものの、緊張を伴うという。リンさんは45歳を超えており、人生の半分以上をこの仕事に費やしてきたことになる。仕事を始めたばかりの頃、リンさんの手は赤く腫れ上がったという。  「この仕事を始めたばかりの人が一番恐れるのは、仕事の間ずっと立ちっぱなしなこと。丸1か月続けてようやくこの仕事に慣れてきますが、ずっと立ちっぱなしで動き続けるので、慣れていないとものすごく疲れてしまいます」。リンさんによると、もし疲れていたり家庭の事情がある場合は仕事を休むことができるが、工場に来たら集中してテンポ良く作業をしなければならないという。  280人の作業員は、ネットに付いたセメントを落とす、ネットを洗う、乾かす、穴の空いた箇所を確認する、ネットを補修する、梱包する、という一連の作業を1つのライン上で行い、どの工程も手を抜くことはできない。1つでもミスがあれば他の工程にも問題を引き起こして不良品となり、パートナーの信用を失ってしまうからだ。  ネット修繕技術訓練工場で作業員の副監督を務めるチャン・ティ・トゥエット・ニュンさんによると、同工場は1994年に設立され、今日まで日本のパートナーからネット修繕の仕事を委託されている唯一の工場だという。設立当初は毎週コンテナ数台分の受注量だったが、現在は毎週40フィートコンテナ20台分ほどになった。ネットは日本からホーチミン市2区カットライ港に輸送され、それからコンテナトラックでベンチェ省の工場まで運ばれる。  「工場内は多くの小さなエリアに分けられ、各エリアに異なる作業が割り当てられています。はじめにハンマーやナイフを使ってネットについているセメントを落とし、それから綺麗に洗います。そして乾燥機にかけ、修繕工場に渡します。ここで作業員は修繕する必要のあるネットのほつれ箇所を確認します。修繕した後も見落としがないか2、3度再確認し、それから梱包して日本へ送ります」と、ニュンさんはネット修繕作業の各工程について教えてくれた。

 建設現場から取り外されたばかりのネットには、まだセメントとロープがついたままになっている。一部のセメントは硬い塊になってしまっているため、木製ハンマーを使って叩き落とす。叩く時は、ネットに傷をつけないようにちょうど良い力加減でなくてはならない。ロープにこびりついた頑固なセメントの塊はナイフを使って削ぎ落とす。  ネット洗浄エリアでは、かなりの重量になるネットを洗濯槽から引き上げ、乾燥機に入れていく。この工程が一番労力のかかる作業になるため、工場内のほとんどの男性がこの工程に集中している。  ネット修繕作業に使う道具は、ネットを縫うための針、糸、テープ、ライターとシンプルなものだ。これらの全ての道具は日本側から支給されている。余った道具や穴が多すぎて修復不可能なネットは破棄され、作業員が家に持ち帰ったりすることはできない。また、日本側は毎年、修繕技術を教えるため専門家を工場に派遣している。  副監督のニュンさんによると、この仕事は給与が1か月400万VND(約2万0300円)前後とあまり高くないが、安定しており、また日本の技術を身につけることができるため、応募する人はとても多いそうだ。求人を出した翌日にはすでに採用者が決定しているほどだという。  第3グループ長のニャンさんは、この仕事をしながらたった1人で2人の子供を養っている。ニャンさんの夫が亡くなった時、ニャンさんは2人目の子供を妊娠中だったが、1人で家計を支えなくてはならなかった。「安定した仕事のおかげで子供のためのお金を稼ぐことができています。現在、子供の1人は学校を出て働き始め、もう1人は薬学を勉強しています」とニャンさんは教えてくれた。  ベンチェ省労働傷病兵社会局のグエン・ミン・ラップ局長によると、ベンチェ省にあるこの工場は、ベトナムで唯一の日本向け建設用防護ネット修繕工場なのだという。ネット修繕工場は毎年300万USD(約3億4200万円)の売上高を出し、地域で300人程度の雇用を生み出している。これまで22年間の受注を通じて品質に対する信頼と保証を得ており、更に長年に及ぶ パートナー関係の構築により、ベンチェ省はベトナムと日本の友好関係の1翼をも担っている。 

[Mau Truong, Tuoi Tre, 01/10/2016 11:05 GMT+7, A]
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