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[特集]

死人に化粧を施して30年、ホーチミンの「おくりびと」

2017/03/12 05:38 JST更新

(C) thanhnien
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 ホーチミン市ビンタイン区に住む59歳のチャン・ゴック・アインさんは、30年間以上にわたり無償で死人に化粧を施してきた。事故や老衰で死んだ人、そして何年間も放置され腐敗した遺体にも対面してきたアインさん。この仕事を始めてからこれまでに、何人の死化粧を手掛けたのかは覚えていないという。  アインさんは15歳の時に、近所で誰か亡くなるといつもその家まで行き、死化粧の方法を見ていた。習慣のように毎回お葬式に顔を出して死化粧を見るうちに、いつの間にかこの世界に入っていた。この仕事には学校もなく、先生もいない。アインさんは自分で学び、実地での経験を積んだ。そんな彼のことを「プロの美容専門家」と呼ぶ人もいる。  アインさんは、思い出しながら教えてくれた。「以前、私は交通事故に遭い、ホーチミン市のチョーライ病院に入院していました。入院中は1人で寂しかったので、隣のベッドに入院していたおじいさんと話をして、とても仲良くなりました。退院後におじいさんの家へ遊びに行き、おじいさんの具合が良くないことを知りました。おじいさんには親戚がいなかったので、私は毎日家へ行き、お風呂に入れたり食事を食べさせたりしていました。以前から私はご遺体への死化粧の方法を勉強していたので、おじいさんが亡くなるとご遺体を布で包み、アルコールで体を拭き 、きれいにしてから死化粧を施しました」。  そして、1984年の仕事が一番印象に残っている、とアインさんは笑いながら続けた。当時、アインさんはフーニュアン区からチョーライ病院まで毎日歩いて通い、ある不運な人の世話をしていた。

 「彼は経済状況が苦しかったため妻に捨てられ、悲しみのあまり病気になってしまったのです。彼の紆余曲折な人生の話を聞き、私は放っておくわけにいきませんでした。毎日数十km歩いて彼の世話をしに行き、話を聞いて慰めました。彼が亡くなった時、私はまた死化粧を施し、葬式も手配しました」。  「なぜ生きている人ではなく、ご遺体へ化粧をする仕事を選んだのですか?怖くはないですか?」と聞かれると、アインさんは笑いながら、「もし怖くないといえば嘘になります。怖いですよ!でもこの仕事が好きなのです。交通事故死や水死によるご遺体、また腐敗が進んだご遺体はあえてあまり見ないようにしますが、やはり逃げ出したくもなります。それでも、仕事への愛と亡くなった方々の運命を思う気持ちから、死化粧を施さずにはいられないのです。私はその人がお金持ちか貧しいかを問わず、完全に無償で死化粧を行っています」と話してくれた。  死者の淡く青白い輪郭は、アインさんの手にかかると自然なピンク色になり、穏やかさを帯びる。アインさんは全ての作業を誠心誠意行う。アインさんにとって、人の喜びは自分の幸せなのだという。  アインさんの特殊な仕事は、日に日に多くの人に知られるようになった。はじめ、彼は自分の住んでいる周辺の地域でだけ仕事をしていたが、次第に評判が広がり、遠方の地域からも仕事を依頼されるようになった。  アインさんはどこに行くにも仕事カバンを相棒のように携えている。また、遠方の地域に仕事に出かけた時、貧しくてお葬式を上げることができない弱ったお年寄りを見かけると見過ごすことができず、その土地で少し足を止めることも多々あるのだという。

 昨年、母親のお腹の中にいる時から麻痺性の病気を患っていた19歳の子供の死化粧に立ち会った。子供は栄養失調で、遺体はほぼ骨と皮だけの状態だった。以前、子供の父親が亡くなった時もアインさんが無償で死化粧を行い、お葬式を行っていた。  「子供が亡くなった時、家族にはお葬式をあげるためのお金が少しもなかったので、 私は親戚たちからお金を集めて少しばかりのお金を恵み、お葬式を上げました。寄付してくれる家もあれば、私を疑って寄付を拒絶する家もありましたが、私は誰かを助けることができればそれだけで幸せなのです」とアインさんは語った。   無償で仕事を行なっているアインさんも、時に心ない言葉を浴びせられることがあるという。それでも、アインさんは誠心誠意、仕事を行う。夜中に電話が鳴ると、すぐ起きて古いスーツに着替え、仕事道具をバイクに乗せて急いで出かける。彼はいつでもどこでも躊躇うことなく人々を助けに向かうのだ。  アインさんが腰痛で出かけることができなかった日、ある家族がアインさんの家の前まで来て助けを求めていた。アインさんは痛みに堪え、仕事に向かった。遺体と一緒にテト(旧正月)を過ごしたこともある。  30年間以上にわたりこの仕事を続けているアインさんだが、その間どのように生計を立ててきたのかと尋ねられると、笑いながら教えてくれた。「貸し部屋をいくつか持っているので、家賃収入で食べていくことができます。人生において、人を思いやることが一番大切なことです。人のために何かすることがなければ、この人生が何のためのものかもわからないでしょう」。 

[Kham Cao, Thanh Nien, 09:44 AM - 21/02/2017, A]
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