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[特集]

炊飯器ブランドの社長になったレモン売りの少女

2017/07/16 05:51 JST更新

(C) vnexpress
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 家電業界で起業して20年近く。従業員10人と300m2の粗末な工場から始まった女社長の会社は、2つの工場で 毎年1兆VND(約50億円)の売り上げを上げる炊飯器ブランドへと成長した。

 紅河デルタ地方ビンフック省の農家に8人きょうだいの1人として生まれたコン・ティ・ミンさんは、米の配給票を得るため他の家族と同様に早くから働きに出ていた。

 家は貧しかったが、ミンさんには小さな頃から経営の血が流れていた。ミンさんが小学校5年生の時、家ではレモンを植えており、ビンフック省の省都ビンイエン市からハノイ市まで商売に行く人たちの多くがミンさんの家のレモンを買いに立ち寄っていた。高く売れると聞いたミンさんは父親に「彼らにレモンを売らないで」と言い、大胆な提案をした。「お父さん、代わりに私にレモンを売って。彼らが払っていた金額と同じくらい私も払うから」。

 有言実行。ミンさんはレモンを入れた2つの籠を背負い、ハノイ行きの貨物列車に間に合うよう家から30kmの炎天下の道のりを歩いた。初めは経験がなく、籠の中のレモンを一度に全て出し、買い手にとって有利になるように売ってしまったため利益が出なかった。

 父親に叱られ、売りに行かせてもらえなくなることを恐れた10歳のミンさんは、友人にお金を借り、さらに貯金を崩して父親にお金を払った。2度目は経験を生かして籠から少しずつレモンを出すことにした。一山がなくなってから次の一山を出すようにし、今度は利益を出すことができた。

 「家はとても貧しく、中学校2年生が終わる時に父から学校を辞めるように言われました。女の子が学を持つと結婚するのが難しくなるからという理由でした。私は本とノートを手放し、天秤棒を担いで働きに出ました」。ミンさんは思い出しながら、いつも裕福な家の前に立って、彼らが水運びと引き換えにお米や芋をくれるのを待っていたのだと教えてくれた。

 「私の住んでいた郡には38の村がありましたが、私は38全ての村に働きに出ました。当時、女の子は15歳になると結婚するのが普通でしたが、私にはそのような考えが全くありませんでした」とミンさん。

 さらに農村の少女の人生を一変させる転機となったのは、叔父から警察の奨学金の話を聞いた時だった。ミンさんは父親にお願いし、父親はすぐに承諾した。6か月間におよぶ挑戦の末、ミンさんは奨学金を得ることができた。1978年、ミンさんはホーチミン市の物流班に配属され、5年後に同じ部署の男性と結婚した。

 ミンさんは物流班の幹部として信頼を得ていたが、落ち着くにはまだ若く、人生に変化を求めていた。さらに、夫婦の稼ぎは今の生活を維持するだけで精一杯だった。そこでミンさんは、毎年1か月間の有休をとって経営を始めることにした。ミンさんは友人から200万VND(約1万円)のお金を借りて、水ポンプの事業を始めた。


 「当時、その機械の需要が高かったので、商売を初めてすぐに200万VND(約1万円)の利益を得ることができました。ゴールドが1匁(3.75g)あたり20万VND(約1000円)の時代に、私はこの商売で機械1台あたり毎回50万VND(約2500円)の利益を得ていたのです」とミンさんは誇らしげに教えてくれた。

 経営はうまくいき、1994年にミンさんは警察の仕事を辞め、自営業で生計を立てることに決めた。1980年代の終わりから1990年代始めの時期は、配給制からドイモイ(刷新)政策への転換期で、人々の家電製品への需要が高まり、特に中国製の家電がベトナム市場を独占していた。そこでミンさんは、正式に市場に参入し、東北部地方ランソン省や東北部地方クアンニン省モンカイ市などから中国製品を集め、南部へ運んだ。この商売はミンさんに莫大な利益をもたらした。

 経営が順調に進んでいたある時、ミンさんは全ての資金を不動産業に充てようと決意した。しかし騙されて土地を購入してしまい、資金を全て失ってしまった。そのため元の仕事に戻り、水道管や水ポンプ、家庭用品などを販売する小さなお店を開き、再び少しばかりのお金を貯めることができた。

 しかし当時のミンさんは、 ベトナム人が競って中国製品を購入していることに懸念を持っていた。特に中国製の炊飯器はとても人気があったが、まだベトナム製の製品を見かけることはなかった。

 1998年の始めにミンさんは炊飯器とドライバーを購入して持ち帰り、炊飯器を分解して研究を始めた。そして1年後には炊飯器の設計と仕組みを熟知した。

 「1台の炊飯器を見るととてもシンプルに見えますが、製造するには多くの工程があり、金型やケージなど42個におよぶパーツを買わなければいけません。この事業のために私は20億VND(約1000万円)の借金をしました」。

 ミンさんは1年後にミンコア電機会社を設立し、ベトナム人によるベトナム製の「カラフルな模様に溢れた」炊飯器を製造するという信念を掲げ、「キムクオン(Kim Cuong)」ブランドを立ち上げた。

 若き女社長は300m2の小さな工場を借り、10人の従業員を雇った。当時の1日あたりの製造数は30台だった。ミンさんによると「人々は売るために作っていましたが、私は…熟考するために作っていました。毎日炊飯器を抱えて綺麗に磨き、自分の子供のように撫でていました。そうして、 3か月後にようやく自分の商品を市場に出すことにしました」。

 メコンデルタ地方カントー市の顧客から12台の発注が入り、ミンさんは初めて自分の商品を出荷することになった。顧客がミンさんの商品を自分の店で販売すると、低価格かつ美しい製品だと評判になり、2度目の発注では100台、3度目の発注では300台と一気にミンさんへの注文が増え、製造が追いつかないほどになった。


 「でも、順調なことばかりではありませんでした。特にこの分野は競争が激しかったのです。市場の多くがラベルのない中国製品で溢れる中、私は自分の商品にしっかりとラベルを貼り、保証パッケージをつけて販売しました。それでも競合他社から偽造品だという噂を流され、ブランドは多大な影響を被りました。商品を市場に出してからわずか2か月後に市場管理当局が会社と販売店に抜き打ち調査に訪れたのですが、彼らはひどかった。全てにおいて横暴で、スタッフは監禁されました。私が有効な証明書類を提示してようやく彼らは謝罪し、事前報告が間違いだったと認めたのです」とミンさんは教えてくれた。

 市場に好意的に受け入れられ、2004年から今日までにミンさんはホーチミン市クチ郡に1兆VND(約50億円)の価値になる2つの工場を建設した。炊飯器の製造から始まり、現在では換気扇やコンロなど140種類にわたる様々なキッチン用品を展開している。

 「この分野への投資額は大きいですが、利益率は5~10%とそれほど高くありません。時にはわずか3%の時もあります。でも、成長率は+20~25%と高いので、楽観的に考えています。私の考えでは、利益は少しで良いのです。重要なことは、多くの雇用を生み出すことです」。

 ミンさんは事業を始めた当初から平均的な人々に照準を合わせていたのだという。商品価格は平均して20万VND(約1000円)余りと安く、一番高い商品でも100万VND(約5000円)を超えない。そのため、ミンさんの炊飯器は国内市場で高いシェアを占めている。

 「我が社の製品は主に農村部でのシェアが高いです。利益回収が見込めないので、都市部の家電量販店には商品を置いていません。通常、家電量販店では債務額が大きく、資金循環がとても遅いので、売買の機会損失が起きやすく、私たちのような小さな会社では耐えることができません」とミンさん。

 さらに、会社を設立してから今まで、ミンさんは経営からマーケティングまで行ってきたが、未だに顧客は自分自身で探しているため、機械部門はとても小規模で数人しかいないのだと教えてくれた。

 ミンさんには、多くの人が知らない習慣がある。毎朝5時に起床して市場に行き、料理をし、300人近い会社の従業員と一緒に朝食を食べている 。ミンさんは他にも従業員のために無料のアパートを建設している。

 「私が小さい頃、父は夜中の12時に起きて 、山で木こりをするきょうだいたちのためにご飯を作っていました。子供たちは木材を市場で売ってお米を買うお金を稼いでいたのです。忘れることができない思い出です。そのため、私も自分の手で自分のスタッフたちの面倒を見てあげたいのです」とミンさん。

 ミンさんは、自分の2人の子供たちにいつも話していることがある。「従業員は私の一番大きな財産。彼らが共に戦ってくれたおかげで今日の成果があるのよ。もし私がいなくなっても、あなたたちは変わらず従業員第一で事業を行いなさい。同じ仕事をする同志として誠実に愛すること。そして主と召使という区別をしないこと」。

 ミンさんはもうすぐ60歳になるが、会社の売上高は年間8500億VND(約42億5000万円)を計上し、未だに 成長を続けている。 現在、ミンさんは教育を受けたオペレーション班を組織し、雇用を増やせるよう、いくつかの工場を新たに増設する計画を立てている。 

[Song Thuong, VnExpress, 6/3/2017 | 05:00 GMT+7, A]
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