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[特集]

我が子の為なら何のその、路上で笑顔振りまき踊るアオザイ姿の男性

2019/02/17 05:06 JST更新

(C) thanhnien.vn
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 テト(旧正月)を目前に控え賑わうホーチミン市の歩道に、赤いアオザイを身にまとい、テトの楽し気な音楽に合わせて踊る中年男性の姿があった。お菓子を販売する傍らで、満面の笑みで踊り客を呼び込む。しかし、その笑顔の裏には可愛い子供たちに想いを馳せる父親の姿があることを通行人は知る由もない。

 男性は南中部沿岸地方ビンディン省出身、1972年生まれの「チャイン父さん」ことグエン・バン・チャインさん。チャインさんと妻には経済を専攻する大学3年生の長女ヒエウさん、レクイドン専門学校に在籍する長男タイさん、小学5年生の次男トゥンさんの3人の子供がいる。

 「あのおじさん道端で踊るなんて頭おかしいんじゃない!なんて言われたりもしますが、私はただ笑って何か言い返すことなんてありませんよ。子供たちを学校に行かせられるお金さえあれば、私は何と言われたって平気です」と誇らしそうに子供の話をするチャインさん。1時間ほど踊り続け、息はすっかり上がっている。

 1993年に兵役を終えたチャインさんは生活のために農業から建設業まで、声が掛かればどんな仕事でもした。子供たちを養うために、2005年に単身でホーチミン市へ出稼ぎに行った。

 当初は茹で落花生を売っていたが全く売れなかった。茹で落花生は腐りやすく赤字になってしまったので、お菓子や炒りトウモロコシに品を変えて今に至る。アオザイを着て踊ることにした理由をチャインさんはこう語る。「年末年始に帰省した時に、テトはお客さんを喜ばせるために何かできないか考えたんです」。

 早速、真っ赤な生地を買いアオザイを仕立てた。ホーチミン市へ戻ると中古のスピーカーを買って賑やかなテトの音楽を流し、踊りながらお菓子を売り始めた。ぽっこり出たお腹に鮮やかな赤いアオザイを着て踊る姿は人目を惹き、瞬く間に通りの名物オヤジとなった。お菓子を買ってくれた客にはテトのお祝いの言葉も忘れない。

 「踊りを習ったことなんてないですよ。歌手のダム・ビン・フンさんやコメディアンのチャン・タインさんが踊るのをテレビで観て、見よう見まねで踊っているんです。それでも、チャチャチャやルンバだって踊れますよ」とチャインさん。

 踊りは行き交う人々の楽しいテトに花を添えるだけでなく、お菓子を買ってくれる客も増え、子供たちを養う足しになる。初めは3人の子供たちも、どうして変な踊りなんか踊るのかと否定的だったが、将来大きくなった時に父親なりの想いを理解してくれるだろうとチャインさんは信じている。

 毎朝8時に出発し、古い自転車をこいでお菓子を売り歩いていたチャインさんだったが、その姿に胸を打たれた人が古いバイクを譲ってくれたという。それ以降は1区のグエンティミンカイ(Nguyen Thi Minh Khai)通りと8月革命(Cach Mang Thang Tam)通りの十字路や、3区のボーティサウ(Vo Thi Sau)通りとバーフエンタインクアン(Ba Huyen Thanh Quan)通りの十字路、時には4区のグエンフウハオ(Nguyen Huu Hao)通りとホアンジエウ(Hoan Dieu)通りの十字路などを巡り、お菓子を売るようになった。

 歩道に座って売っていると頻繁に取り締まりにあうため、1か所に長居はしない。ある時はスピーカーやタイヤを没収されて、やっとの思いで返してもらったという。「違反だとは知っていますが、生活が苦しくやむを得ないんです。だからお菓子もバイクも通りを行く人の迷惑にならないように気を付けています」。

 下宿先は大部屋で1泊2万5000VND(約120円)。物を置く場所がないため、深夜1~2時までかけてお菓子を売り切ってから帰宅することもある。支出は最小限に抑えて売り上げは子供たちのために貯めている。

 踊るのを楽しむあまり、お菓子を袋に入れたり、会計を忘れてしまうこともしばしば。ある晩は踊り疲れてその場で眠り込んでしまい、気付いた時にはスピーカーが盗まれてしまっていた。そのため、大枚をはたいて100万VND(約4800円)以上もする新品のスピーカーを買う羽目になったとか。

 ここ数日、路上で踊るチャインさんにはいつにも増して笑顔がこぼれる。隣で妻のギアさんが一緒に踊っているからだ。チャインさんが兵役から戻った年に2人は知り合い、5年間の交際を経て結婚した。「病院を受診するためホーチミン市へ来たんですが、少しでも助けになればと思いましてね。炎天下で汗だくになりながら踊るんですから気の毒で。病気だけが心配で、少し休むように言っても聞かないんですよ」とクタクタになった夫を労うギアさん。

 そんな夫妻を不憫に思った人が長距離バスのチケットを買ってくれ、テトは故郷で過ごせることになった。「27日には夫婦で田舎に帰ってテトを迎えられます」と夫婦は笑顔で顔を見合わせた。 

[thanhnien.vn, 09:31 16/01/2019, T]
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