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[特集]

トランスジェンダーが集う「闇市」に潜入【前編】ホルモン剤の売買の実態

2021/01/17 05:49 JST更新

(C) vietnamnet
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 「本当の性」で生きることに憧れ、全てを捨てて生まれ変わるため、多くのトランスジェンダーが「闇市(ブラックマーケット)」で流通するホルモン剤に手を出している。

 東南部地方ビンズオン省に暮らすシャオ・ミー(Xiao Mie)さん(26歳)は、男性として生まれたが、今は女性として生きている。彼女は客との「ツアー」から戻ると、通話・メッセージアプリ「ザロ(Zalo)」を通じて現地紙の記者に語り始めた。彼女は、自分も参加しているトランスジェンダーの売春活動に、記者たちを潜入させることに同意したのだった。

 「『シャオ・ミー』は私の源氏名。私たちはトランスジェンダーの秘密のグループでお客さんに同伴するとき、相手の印象に残るようにこういう名前を名乗るんです」とシャオ・ミーさんは明かした。

 知り合って間もないが、おそらく彼女は記者たちが「変な客」ではないことを悟っており、リラックスしているようだった。彼女は「第3の世界」の一端について、包み隠さず話してくれた。

 シャオ・ミーさんはこう話す。「私はレディボーイで、つまりまだ完全な女性というわけではありません。上のほうを『いじった』だけですが、これでも十分。今、幸せです。私のグループでは、レディボーイも、100%性転換したシーメールも変わらず同じように客を取っています。私はずっと自分の性別に忠実に生きたいと望んでいました。女の子として生きられれば、それで満足なんです。他のことはもう気にしません」。

 こうした憧れは、シャオ・ミーさんのような人々を性転換の方法探しに駆り立てる。運が良く、経済的にも恵まれている人は海外に出る。シャオ・ミーさんを含め、多くはタイで手術を受ける。タイには、界隈で「鋼の医師」の名で知られる有名な専門医もいる。手術の費用や医師はピンキリだ。

 経済的に余裕がなく、海外で手術を受けることができない人は、ホルモン剤を使用して「本当の性」に対する欲望を満たす。リン・ダンさんもその1人だ。リン・ダンさんによると、実際のところは性転換に成功した人も、まだ「いじっていない」人も、「本当の性」で生きたければホルモン剤の使用が必須だという。

 しかし、ベトナムでは、薬局などでホルモン剤が公に販売されているわけではない。ホルモン剤を入手するには、リン・ダンさんのように「闇市」に足を踏み入れ、購入するしかない。「私たちは秘密のグループのメンバーと一緒に購入したり、売り手を友人に紹介してもらったりして手に入れています」とリン・ダンさん。

 記者は、リン・ダンさんの協力を得て、男性から女性になるためにホルモン剤を探しているふりをして、フェイスブック(Facebook)のトランスジェンダーの秘密のグループに潜入した。管理人に承認されてから、記者はグループのページにホルモン剤を探していることなどを書き込んだ。

 わずか数分後、多くのメンバーからコメントがあり、ホルモン剤の購入方法についても教えてもらえた。記者は、T.D.N.T.という人物の「V.T.H.やL.A.M.、D.T.M.K.とつながって連絡してみて」というアドバイスをもとにD.T.M.K.なる人物に連絡してみると、闇市には飲み薬や注射薬、パッチ薬など様々な種類のホルモン剤があることがわかった。

 M.K.は記者に「あなた、まだ男らしすぎるわね。そんなひげじゃ飲み薬は使えないわよ。飲み薬は効果が低くて、注射のほうが効果も高い。注射にも価格によって2つの種類があって、タイ製は1本16万VND(約730円)、ドイツ製はタイ製よりも2万~4万VND(約91~180円)高いの」とアドバイスした。

 またM.K.によると、こうしたホルモン剤はタイやインド、ドイツからハンドキャリーでベトナムに持ち込まれるという。「毎回、仲間たちの紹介でタイに渡って手術を受ける子が商品をベトナムに持ち帰って、皆で分け合うから安く済むの。今はこのタイプのホルモン剤もたくさんあるし、昔と違って安全よ」と付け加えた。

 しかし、こうしたホルモン剤を購入しても、専門家から正しい使用方法などを教えてもらえるわけではなく、売り手や経験者に話を聞いてアドバイスを受けるしかない。

 リン・ダンさんはこう語る。「暇なときは売り手のところに行って、注射してもらいます。相手が忙しければ、自分で打つこともあります。タイ製のホルモン剤を使い始めて4か月が経ちますが、良い感じです。初めて注射を打った後は、注射したところが腫れ、けいれんや熱の症状が出て怖かったのですが、今は薬に慣れてもう大丈夫です」。

 一方、薬剤師のグエン・タイン・ホアイ氏は、「多くの性転換者、または性転換を望んでいる人が、自分でホルモン剤を購入して注射しようとしますが、製造元の不明な薬を使ったり、正しい用法・用量を守らなかったり、薬を扱う際に菌が混入してしまったりすれば、とても危険です。処方箋や医師の経過観察もなく薬を注射すれば、予期せぬ事態が生じるかもしれませんし、用法・用量を誤れば死に至る可能性だってあります」と指摘する。

 ホルモン療法は複雑で、生涯にわたって副作用が出るかもしれず、命の危険にさらされる可能性すらある。そのため、ホルモン療法を行っている人々は、定期的に検査を受け、医師のフォローアップを受ける必要があるのだ。

後編に続く 

[Vietnamnet 05:10 29/12/2020, A]
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