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[特集]

注文は手話で、ろう者が働くハノイのカフェ

2022/02/06 10:46 JST更新

(C) vnexpress
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 聴覚障がいのあるグエン・ティ・ハンさん(女性・20歳)は、軽くお辞儀をすると片手を口に当ててから前に下ろし、注文してくれた客に手話で感謝を示した。

 ハンさんは1年前からハノイ市のカフェで働いている。客が来店すると素早くお茶を出し、手話の動作を説明する写真が添えられたメニューを差し出す。メニューにはコーヒー、お茶、ジュースなどの各種ドリンクを注文する手話の動作、またホットかアイスかを指定する動作を示した写真が添えられている。

 カウンターで注文する際、メニューを指差したり紙に書いたりする人もいるが、多くの人は戸惑いながらも懸命に手話でコミュニケーションを取って注文を伝えようとする。そんな時、ハンさんはとても嬉しく感じ、今はマスクをしているため目しか見えないが、心からの笑顔で感謝を表している。

 ハノイ市ナムトゥーリエム区チュンバン通り123番地(123 Trung Van, quan Nam Tu Liem, TP. Ha Noi)にある「キムベトスペース(KymViet Space)」は、2020年にオープンした。店舗は2階建てで、カフェだけでなく、2013年から稼働している手工芸品工場と、製品を展示するスペースも併設している。カフェは屋内席とテラス席があり、ハノイ市内に2店舗の支店もある。30人以上いるスタッフの多くは障がい者、特に聴覚障がい者が主となっている。

 このカフェの1番の特徴は、聴覚障がいのあるスタッフとコミュニケーションが取れる空間だということだ。また、壁やテーブル、棚には精油の香りが付けられた色とりどりで精巧な作りのかばんやぬいぐるみなど、スタッフが制作した手工芸品が並べられている。

 カフェのメニューには各種ドリンク名の横に手話の動作が示されており、各テーブルに設置された押しボタンを押すとライトが点灯してスタッフを呼ぶことができる。さらに、スタッフとコミュニケーションが取りやすくなるよう、「ありがとう」や「こんにちは」などの手話の動作を示した写真のカードも用意されている。

 ハンさんや他のスタッフの多くは、この場所を「職場」ではなく「家」と呼んでいる。ここにはカフェでドリンクを作ったり、客にサーブしたり、工場で手工芸品を作ったりするコミュニティの仲間たちがいる。仕事以外でも一緒に料理をして昼食をとり、実家を離れた人は部屋を借りるサポートを受けることもできる。

 ハンさんは、西北部地方ホアビン省の農家で生まれ育ったこと、そして姉妹3人とも生まれつき聴覚障がいがあることを、マネージャー 兼 通訳者を通して教えてくれた。先生の声を聞くことができないため、普通学校で学ぶのはとても困難で、何とか中学4年生(日本の中学3年生に相当)まで終えてからは家で両親の仕事を手伝った。

 そして18歳の時、2人の姉と同じように縫製工場に働きに出たが、周りとのコミュニケーションが難しく劣等感を感じ、すぐに辞めてしまった。

 2020年、ハンさんは聴覚障がい者のコミュニティの友人の紹介でカフェの仕事に応募した。そこでドリンクの作り方、接客の仕方など今まで考えもしなかった仕事のトレーニングを受けることができた。

 今まで働いてきた中で1番思い出に残っていることは、団体客からドリンクの美味しさやサービスへの満足感、空間の快適さを称賛するメモをもらったことだ。たとえ小さな行動でも、客から認められ、自分にも良い仕事ができたと感じると、ハンさんは幸せな気持ちになるという。

 ハンさんだけでなく、カフェのスタッフの多くは学校を辞めて早くから働きに出ており、中には小学3年生の途中までしか学校に行っておらず、文字がすらすらと読めないスタッフもいる。

 マネージャーのグエン・ティ・ディンさんは、この会社に8年間関わる中で、スタッフから色々な打ち明け話を聞いてきた。

 例えば、以前あるスタッフが健常者と一緒に働いていた際、聴覚障がい者だと仕事の配分などでも平等に接してもらえず、悲しい気持ちになったという。彼らはこのカフェと工場で働くようになってから、仕事でたくさんの驚きがありつつも、常に責任を持って仕事に取り組んでいる。ディンさんにとって最も嬉しいことは、多くのスタッフから、ここでの仕事はとても幸せで満足している、と常々伝えてもらえることだ。

 常連客の1人であるタイン・フオンさんは友人の紹介でこの店を知った。初めてカフェを訪れたときは、開放的で静かな空間だという印象を受けた。障がい者が働いているカフェでも、他によくある慈善的な重い感じがなかったという。

 フオンさんはカフェのスタッフや商品が気に入り、自分の子どもも店に連れて行って一緒にスタッフと交流したり、1つの商品ができ上がるまでに多くの工程があることを子供に学ばせるため、商品ができる工程を見学したり、キーホルダーのぬいぐるみ作りを体験したりさせた。

 別の常連客であるズン・アインさんもまた、初めて来店したときはフオンさんと同じように感じた。アインさんは特に、訪れた全ての客が聴覚障がい者のスタッフとコミュニケーションを取る機会を持つことができるというカフェのコンセプトが気に入っている。アインさんは今後、多くの友人や生徒・学生グループにこのカフェを紹介するつもりだ。

 人々がこのカフェのサービスや商品を選択するのは、障がい者への同情ではなく、サービスや商品自体に価値があるからだ。これは、同社の取締役会長であるファム・ベト・ホアイ氏(男性・49歳)の願いでもある。

 ホアイ会長は7歳のときに事故に遭い、脚に麻痺が残って車椅子生活となった。ホアイ会長は、障がい者が常に自信を欠き、自分は不幸だと感じていることを深く理解している。こうした障壁は全て、家族や社会の彼らに対する同情から生じているという。

 2013年にホアイ会長が社会的企業を設立するにあたり、社会の障がい者に対する認識を変えることに少しでも貢献したいと考えた。「障がい者は哀れで重荷になる存在ではなく、労働意欲があり、サービスや商品を通じて社会に貢献したいという思いを持っています。もっとシンプルに言うと、店を訪れる客にはスタッフのことを『聴覚障がい者』ではなく、『耳が不自由な人たちのコミュニティ』と呼んでほしい。私たちは障がい者ですが、私たちが作る商品を『障がい者の商品』にしたくないんです」と、ホアイ会長は活動のモットーについて教えてくれた。

 手工芸品工場を立ち上げた後、カフェや見学スペースを新たに取り入れたのは、商品を多様化し、より多くの障がい者の雇用を創出するためだ。ホアイ会長によると、現在ベトナムには潜在的労働力となる200万人の聴覚障がい者がいる。

 彼らにとって唯一の障壁はコミュニケーションだが、コミュニケーションをサポートする手段さえあれば、その障壁は簡単に取り除くことができる。現在、3店舗のマネージャーはディンさん1人だけで、その他の全ての従業員には自分の仕事を決定する権限が与えられている。

 キムベトスペースでは、2020年からハドン区バンフックシルク村のツアーを組み合わせて、数百人の見学者や体験者を受け入れてきた。ここでは手話を学んでスタッフと交流するだけでなく、土産物作りを体験したり、ドリンクや郷土料理を楽しんだりすることもできる。 

[VnExpress 14:02 05/01/2022, A]
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