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[特集]

身体の一部を失った人々に希望を、本物そっくりの補装具製造で起業

2022/02/27 10:48 JST更新

(C) vnexpress
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 ハノイ市在住のダオ・バン・フックさん(男性・42歳)は、シリコン製の義指のしわを直し、実際の肌の色と見比べてから顧客の手に装着した。

 ハノイ市ホアンマイ区タンマイ(Tan Mai)通りにある広さ40m2のアパートの一室で、注文客は5本指が揃った手を上げ、満足げに微笑んだ。そして、色を見ただけでは本人でさえどの指が義指か判別するのが難しいと認めた。

 「本物そっくりの義指を作るのも難しいのですが、お客さんの手にフィットさせるのはもっと難しいんです」と、フックさんの同僚である東北部地方クアンニン省出身のチャン・フイ・ヒエップさん(男性・32歳)は語る。

 ヒエップさんは以前、ハノイ市のとある病院で臨床検査技士として働いていた。今から6年前、身体の一部を失った患者たちが、人付き合いでコンプレックスを感じると話しているのをたまたま耳にしたヒエップさんは、本物そっくりのシリコン製の義手や義足、義耳、義鼻などを製作して、彼らの助けになれないだろうかと思いついた。それだけでなく、製品の見た目や品質を良くし、価格も海外製品より安く抑えたいと考えた。

 思い立ったが吉日、ヒエップさんは仕事を辞め、補装具製造について学び始めることにした。フックさんがシリコン型製造に特化した工場を持っていることを知ったヒエップさんは、フックさんに共同事業を提案した。そして2017年に2人は事業を開始した。

 起業してすぐ、ベトナムにはこの分野の専門的な訓練施設がないことを知り、2人は海外の本や動画を通して自ら補装具について学んでいった。「何百回も失敗してようやく完璧で満足のいく製品を作り上げることができます」とフックさん。

 2年間の研究の末、2人は各補装具の最初のサンプルを作成し、時間をかけて製品を完成させた。特に掌紋や指紋、元の肌の細かな部分まで再現するため、各工程の8割を手作業で行っており、見た人は補装具だと気付かないほどの仕上がりになっている。

 2人が製造する補装具は、「型取り」、「ワックスによる型修正」、「シリコン型作成」、「成形」、「色付けや細部の修正などの仕上げ」という5つの基本工程を経るため、それぞれが唯一無二の製品となる。手足の指の関節、欠損した鼻や耳、傷跡がある皮膚などに補装具を固定する際には、特殊な接着剤を使用する必要がある。

 「最も難しいのは、皮膚と同じ色を作り出すことです」とフックさん。95%の類似性を達成し、さらに使用過程での摩耗を少なくするため、特殊なカラーコーティングを施している。

 通常、義指の製作には10日から15日ほどかかり、鼻や耳、手足などの難しいパーツは数か月を要する。費用の目安は100万~1500万VND(約5050~7万5800円)で、平均耐久年数は約3年間となっている。「高価なように聞こえますが、海外製品に比べれば10分の1から20分の1です」とフックさんは語る。

 注文客は、まず2人の店を訪れて型を取り、サイズを測る。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が長期化し、顧客が店に足を運ぶことが難しくなったため、2人は市外の顧客向けに型取りキットを製作した。

 「お客さんが来店できない場合は、補装具が必要な部分の型を取るキットと、肌色のカラーチャートを送付しています」とフックさん。さらに型取りが難しいという顧客には、3D画像をスキャンして送ってもらうよう案内している。これにより、顧客の移動時間の節約にもなり、注文も大幅に増加したという。

 2人は各地に顧客を抱えているが、その多くは機械加工や大工の作業中に不幸にも身体の一部を失った人々だ。他に、生まれつき身体の一部が欠損している人や、交通事故により身体の一部を失った人もいる。

 これまで500人以上から注文を受けてきたが、その中でもフックさんが特に印象深かったのは、3歳の時に事故で鼻の一部を失ったというホーチミン市在住の23歳の女性、タオさんだ。タオさんは、過去に何十回もの鼻の再建手術を受け、再建のために身体の軟骨を摘出したこともあるものの、全て失敗に終わったのだと打ち明けた。

 「私たちに会った時、彼女は希望を失っている様子でした。それまでシリコンの義鼻を製作したことはありませんでしたが、私とヒエップは何としても彼女のために義鼻を作りたいと思い、注文を受けることにしました」とフックさんは振り返る。

 何度も失敗を重ね、シリコンの義鼻はタオさんの顔にぴったりとフィットし、フックさんもヒエップさんも、タオさんも大喜びだった。「タオさんから、『20年間近くコンプレックスを抱えて生きてきたけれど、人に会う時も鏡を見る時も自信が持てるようになり、人とコミュニケーションを取る時にマスクを外すことができるようになった』と聞いて、本当に感動しました」とフックさんは当時を回想した。

 補装具を作るたびに、フックさん、ヒエップさん、そして他のスタッフ2人は、顧客からの肯定的なフィードバックと感謝の言葉を受け取り、喜びを感じている。「私はただ、身体に欠損のある人々が自信を取り戻し、恐れや後ろめたさを感じることなく社会で活躍できるように手助けをしたいんです」とフックさんは語る。

 フックさんたちは今後、生産を拡大し、複雑な欠損箇所もカバーできる補装具を製造し、全国各地で必要としている人々に製品を届けていきたいと考えている。 

[VnExpress 06:00 21/01/2022, A]
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