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[特集]

ダナンで最後の雨合羽の補修職人、時代とともに変化する需要の中で

2022/12/11 10:23 JST更新

(C) vnexpress
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 レ・ティ・スアン・ラインさん(女性・53歳)は、南中部沿岸地方ダナン市ハイチャウ区のゴーザートゥ(Ngo Gia Tu)通りとフンブオン(Hung Vuong)通りの交差点の角に座り、客から預かった雨合羽を丁寧に補修している。

 道具は、木製の持ち手がついた鉄の焼きごてと、木炭を燃やすためのバケツ、ナイフ、はさみ、ナイロンの布、そして古くなった雨合羽だけだ。焼きごての先は約80度の角度に曲げられ、平らになっている。

 ラインさんは客から預かった雨合羽を開き、目の高さまで持ってきて破れた箇所を見つけ、その箇所が上になるようにプラスチック椅子にセットする。そして、補修用のナイロン片を載せてから、あて布を重ねる。バケツで木炭を燃やし、焼きごてを30秒ほど熱してから、ロウで擦って温度を下げ、それから補修する部分を何度も擦る。

 補修用のナイロン片が溶けて破れた箇所にくっついたのを目視してから手を止め、あて布を外して、しっかりと接着できているか確認する。そして、雨合羽が冷めるのを待ってから、丁寧にたたむ。

 作業時間は約2分。「簡単そうに見えますが、誰にでもできるというわけではないんですよ」とラインさんは言い、焼きごての温度がわからなければ雨合羽を溶かしてしまいかねず、そうすれば客に補償しなければならなくなるのだと付け足した。

 ラインさんによると、父親であるレ・ガイさんが、1969年にダナン市で最初に雨合羽の補修を始めたのだという。雨合羽の補修やソファなどの張り替え、証明書類のラミネート加工の仕事で、配給時代にガイさんは9人家族を十分に養った。

 1981年、ラインさんが12歳のときに父親についてフンブオン通りに出て、雨合羽の補修と証明書類のラミネート加工を学ぶようになった。ラインさんは、熱くなった鉄や溶けた雨合羽に触れ、何度となく手を火傷した。しかし、この仕事でお金を稼げることがわかり、また客が父親の腕を褒めているのを目にして、ラインさんもこの道に進むことを決めた。

 フンブオン通りはダナン市のメイン通りで、カイラン三叉路バスターミナルとコン市場、ハン市場を結ぶ通りでもあるため、常に人々の往来が多い場所だった。雨合羽の補修の仕上がりに満足した客の紹介でさらに客は増え、父子はいつも忙しくしていた。ガイさんはまた、大判のナイロンの布を購入し、雨合羽の完成品を作って売ったりもした。

 そして、この地域の多くの人々がガイさんの仕事を学び、道具を購入して、まだ家屋もまばらだったこのフンブオン通りで雨合羽の補修屋を開いた。徐々に、チーラン競技場の周辺などの他の通りでも雨合羽の補修屋が増えていった。

 週末になると、他の地域から競技場にサッカーの試合を観戦に訪れる人々が、「潜水艦のように補修します」という看板を掲げた補修屋に破れた雨合羽を預け、試合が終わると受け取りにきていた。

 雨合羽の破れの大きさや位置に応じて料金は1万~2万VND(約57~114円)で、全体の補修で3万VND(約170円)ほどだった。

 「補修した後の雨合羽は潜水艦のように頑丈で、防水性もばっちりだということを客に示すために、『潜水艦のように』という看板を掲げるんです。もし、補修した後に水が滲みるようなことがあれば、返金します」とラインさんは説明した。

 ラインさんは既婚で、ホアンジエウ(Hoang Dieu)通りに住んでいる。夫はもともと大工で、お金は出たり入ったり。ラインさんの仕事と合わせて息子と娘を育ててきた。しかし、14年前から夫は脊椎の痛みに苦しみ、働くことができなくなってしまった。一家の生計はラインさんの仕事と、子供たちの収入に頼ってきた。

 ただ、この10年近くで、雨合羽の補修をしにフンブオン通りを訪れる人はほとんどいなくなってしまった。多くの人が、破れた雨合羽を直すことなく、1回の補修よりも安い数千VND(1000VND=約5.7円)で使い捨ての雨合羽を購入するようになったからだ。

 そして、補修職人の多くが1日たった数万VND(1万VND=約57円)の収入は受け入れがたく、さらに乾季には1か月も客がいないこともあり、道具をしまい込んで転職していった。ダナン市だけでなく、隣の南中部沿岸地方クアンナム省ホイアン市や北中部地方トゥアティエン・フエ省フエ市などでも雨合羽の補修職人は減っていった。

 しかし、ラインさんは、たとえ1日の客が2~3人でも、1日の収入が5万VND(約285円)に満たない日があっても、父親が始めたこの仕事を続けている。客は主に学生や貧困層で、お金をはたいて使い捨てではない雨合羽を購入した人々だ。「私と妹が、おそらく最後の雨合羽の補修職人でしょう」とラインさんは語る。

 ラインさんの妹であるレ・ティ・タインさん(49歳)も、ラインさんと同じところで雨合羽の補修をしている。常連客がくれば木炭に火をつけ、客がいないときはガソリンの小売でお金を稼いでいる。姉妹は路上でお金を稼ぎ、収入は2人で分け合っている。

 ラインさんの補修屋の常連客であるグエン・ホアイさん(男性・25歳)は、雨合羽が破れるたびにラインさんに補修を依頼している。「ラインさんはとても丁寧に直してくれます。最初にお願いしたとき、古い雨合羽だったのに水が全く滲みなかったので、それ以来、雨合羽が破れるとここに持ってくるようになりました」とホアイさん。ホアイさんはプラスチックごみを減らすことも考えて、使い捨ての雨合羽は使わないのだという。

 長きにわたり仕事をしてきた中で、ラインさんは「乾いた雨合羽のみ補修する」という原則を守ってきた。雨の中を出かける途中で雨合羽の破れに気付き、ラインさんの補修屋に駆け込む人もいるが、ラインさんは受け入れない。

 「雨合羽が乾いていないと補修用のナイロン片がしっかりとくっつかないんです。濡れているところを補修しても、見た目は良くても、数回も使えばすぐにはがれてしまい、水が滲み込んでしまうんです」とラインさんは話す。

 ラインさんは雨の日も晴れの日も、交差点の角に座り、誰かに「ラインさん、雨合羽を直して」と呼ばれるのを待っている。 

[VnExpress 13:09 30/11/2022, A]
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