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結婚当初、グエン・ジエウ・ハンの将来はバラ色のはずだった。しかし夫は新婚のころから妻を残して夜な夜なヘロインを探しに出てしまう。そして妊娠8カ月の時受けたHIV検査は陽性。それでも彼女はへこたれなかった。国連のエイズ予防啓発ボランティアになり、夫の更正にも取り組んだ。 高校卒業後、縫製工場で働き始めた彼女は、ほどなくして同じ職場の男性と恋に落ちた。付き合って3年、結婚した後に夫がドラッグ常用者であることを知り彼女は動揺したが、何とか自分で夫を更正させられると信じることにした。両親には隠して、夫を閉じ込めるための鍵と縛りつけるための鎖を買った。そして2カ月間必死で看病した結果、夫は更正したかに見えた。しかし、しばらくするとまた麻薬を探しに出てしまうようになり、彼女は悲しみにくれた。 2000年のある日、彼女が仕事から帰ってくると、警察が自分の家を家宅捜索しているのに出くわした。薬を買うために通りを歩いていた女の人のネックレスを強奪し、逮捕されたのだった。服役中の6年間、夫はハンに「他に良い人がいたら結婚するように」と言い続けたが、その言葉はかえって彼女の忠誠心を強めた。彼女は夫と面会することだけを楽しみに毎日働いた。夫は服役態度が良かったので、月に一度妻と共に過ごすことが許された。 刑務所で夫と何度目かの夜を過ごした後、彼女は妊娠した。結婚して初めて幸福な気分を味わった。しかしそれも長くは続かなかった。検診でHIVに感染していることが分かったのだった。「はじめは全く信じられませんでした。直ぐに再検査してもらいましたが、結果はやはり陽性でした。その場に立ち尽くし、死んでしまおうかとさえ思いました」。しかし彼女は生きることにした。お腹の子どもがHIVに感染していないことをただ祈りながら。そして可愛らしい女の子を産んだが、その子もやはりHIV陽性だった。服役中の夫は妻と娘が感染していることを知ると恐れおののいた。自分が長年麻薬を常用してきたことが、HIV感染の原因であるとは理解できないのだった。 ハンの子どもは虚弱で、常に入院していなければならなかった。彼女は病室で、娘への手紙をつづった。「これは決してあなたが読むことのない手紙です。あなたが先に死んでも、私が先に死んでも、あの世で許しあいましょう。あなたの父親はこの悲劇の原因を作ったけれども、私にもあなたを生んだ責任があるのだから」。娘がこの世を去るまでの間、彼女は娘宛ての手紙を何通つづったか知れない。半月後、出獄した夫は子どもの位はいの前に崩れ落ちた。子どもの死は、夫にとって自分自身もHIVに感染しているという事実よりショックのようだった。ハンは夫がこの悲しみによって立ち直るのではないかと期待したが、夫はまた麻薬の世界にずぶずぶとはまり込んでいった。 ハンは全ての望みを断たれ、今度こそ自ら命を絶とうと思った。しかしある日、「ひまわりの会」というエイズ予防団体の集会に参加してから、彼女の生活は変わった。HIV感染者からの相談や資金援助などの活動を行った。また彼女自身も融資を受けてミシンを買い、夜は縫製の仕事をするようになった。その時いったい誰が、彼女自身もHIVに感染していると思っただろうか。隠し通すことが出来たなら穏やかに過ごすこともできたかもしれない。しかしある日彼女は事実を公表することを決心した。それによってさまざまな困難が降りかかることは覚悟の上だったが、そのことがエイズ予防に少しでも役立てばと思ったのだ。 「私はHIV感染者です」。ハンは相談に来る人々に堂々とそう語った。時にはHIVに感染しているのにどうしてそんなに元気でいられるのかと不思議がられることもあった。HIV感染者というのは社会的に排除された人やハンディを負った人という固定観念を持つ人は多い。このことは彼女にあることを思い出させた。それはある売春婦の相談を受けたときのことだ。いくら自分でHIVに感染しているといっても、客はこんなに若くて健康そうなのにそんなはずはないと言ってコンドームを使用しないというのだ。その時ハンはふと、自分の夫も売春婦からHIVに感染したのではないかと思った。思い当たる節はあったのだ。 やがて、ハンは小児病院に通うようになった。HIVに感染した子どもたちの相談員を務めるためだ。彼女は誰よりも不幸な子どもたちの痛みを解っていたので、全ての子どもたちに対して母親のような気持ちで接した。しおれた野菜のようだった子どもが再び元気を取り戻す姿を見ては、心から喜んだ。最後にハンは笑顔でこう打ち明けた。「今妊娠4カ月なの。子どもに病気が遺伝しない薬を飲んでいるわ。この薬を飲んでいれば感染の危険性は2%に抑えられるの。私の願いは、元気な子どもを産んで、次の世代のためになることをし続けていくこと」
[2006年12月21日 Tien Phong紙 電子版]
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