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[特集]

1日中交差点に立つ日本人、ベトナム交通改善に余生捧げる

2014/10/26 07:23 JST更新

(C) Tuoi Tre, サイトウ・タカシさん
(C) Tuoi Tre, サイトウ・タカシさん
 この1か月ほど、ダナン市のハン川に架かる橋の近くの交差点で、眼鏡をかけた白髪の男性が通り過ぎる車両台数を数えて写真を撮り、メモをしている姿を見かける。雨の日も日差しの強い日も、彼は早朝4時からここに立ち、夜8時半にいなくなる。埼玉県浦和市からやってきたサイトウ・タカシさん(69歳)だ。  サイトウさんは、交通に関するトップクラスの専門家。定年退職した後、ベトナムで交通事故削減に取り組んでいる。1日の睡眠時間はたった4時間。1日の多くを交差点で過ごし、それ以外の時間は、パソコンにデータを入力し、研究・分析している。  正午近く、木陰が一つもない道路で、彼は古いノンラー(円錐状の葉傘)をかぶって、チャンフー通りとレズアン通りの交差点に立つ。メモ帳とカメラ、計数器を持ち、時折体を折り曲げて熱心にメモしている。昼食に通りがかりの行商からパンを買い、水であわただしく流し込んで、観察を続ける。定年退職してからの9年間を、ハノイ市からダナン市までベトナムを移動しながら、交通について研究してきた。  彼の立つチャンフー通りとレズアン通りの交差点は、昨年4月に始動した国際協力機構(JICA)の技術協力案件「ダナン市都市交通改善プロジェクト」の対象地点となっている。このプロジェクトは、都市開発方針に沿った都市交通システムを計画・実施・評価・管理するダナン市交通局の能力を強化すると共に、都市交通システムの改善によりダナン市の持続的発展を促進する目的で実施されている。  具体的には、交通観察をベースに適切な方策を割り出し、カメラを設置して、交通量に合わせて自動的に道路標識を変更させるシステムを構築していく。最適なシステムを構築するには、地道に交通状況を観察する以外に方法はない。

 交差点で商売している女性は、叩きつけるような雨の日でも仕事を続ける彼に心底関心しつつ、面白そうにこう言った。「とても律儀な人でね、帰るときにいつも私や交通警察の人たちにきちんと挨拶して帰るんだよ」。ハン川近に立つことの多いダナン市交通警察のファン・クアン・ファップ中佐はこう語る。「彼の仕事に対する姿勢や責任感に、多くの人たちが感服していますよ」。  サイトウさんは、41年にわたり日本の警察で交通に関する研究に専念してきた。彼の研究により生まれた構想が、東京や名古屋など日本の大都市で実施された。ハノイ市人民警察学院に招聘され、交通について教鞭をとったこともある。  彼は、「ベトナムは交通事故が世界でも最も大きい国の一つ」と言う。統計によると、2013年におけるベトナム全国の交通事故発生件数は3万1300件。うち、死者数は9900人で、日本の2倍以上に上る。「日本では交通事故100件当たり、死亡事故は1件。これに比べてベトナムの交通事故による死亡者の割合は高すぎます。ベトナムでは事故が十分に記録されておらず、統計データの信頼性は低いですが、とにかく死亡事故の削減に取り組む必要があります。最も犠牲になっているのは歩行者です」と彼は言う。  サイトウさんには一人娘と二人の孫がおり、悠々自適の老後を送ることもできたはずなのに、全てを投げ打ってベトナムのために自分の人生の最後を捧げている。彼の残りの人生に孫たちが学べるものを見出してくれれば、と考えているという。  「ベトナム人は日本人にとても似ていて、フレンドリーで情が深く、誠実だと思います。遠くの地なのに、とても親しみを感じます。少しでもベトナムに貢献できることが私の願いです」とサイトウさん。彼の研究姿勢は、ベトナムの交通改善に繋がるだけでなく、多くのベトナム人の命を救うことになるだろう。 

[Tan Vu, Truoi Tre, 12/10/2014 06:30 S]
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