VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

貧困者のための無料散髪屋、青年が10年暖めた想い

2015/06/28 06:03 JST更新

(C) zing
(C) zing
(C) zing
(C) zing
 このひと月半近く、ホーチミン市5区グエンバンクー通りにあるフオン・キー・クアンさんの散髪屋は、若者や宝くじ売り、シクロ運転手など多くの貧困者が集まる場所となっている。店主のクアンさんは、1984年生まれ、南中部沿岸地方ニントゥアン省出身の青年だ。  お店のドアの前で、痩せてひどく色あせた服を着たおよそ60歳の男性が、静かにじっと看板の文字を読んでいる。看板には「宝くじ売り、荷車・シクロ・バイクタクシー運転手、ゴミ収集・清掃を行う人々のための無料散髪屋」と書かれている。  男性が躊躇しながらドアの外に立っている姿を見て、クアンさんは慌てて男性を招き入れた。男性はおろおろしながら尋ねた。「本当に無料で散髪してくれるのかい?」クアンさんはにっこり笑いながら答えた。「はい、本当ですよ。ここで座ってちょっと待っていてください。先に別のお客さんの散髪を終わらせてきますから」。  クアンさんは男性に詳しく話を聞いたのち、「お客さんは荷車の運転手なので刈り上げた方が良いですね。髪が少し汚れているので、頭をきれいに洗ってからカットしましょう」と伝え、約15分後、男性はクアンさんにお礼を告げ、整った頭で帰って行った。  クアンさんがこのお店を開いてから3年近く経ったが、無料散髪屋の看板は約1か月半前に掲げたばかりだ。「このお店の目指す対象者は貧しい人々です。特に宝くじ売り、ゴミ収集・清掃をしている人たち。彼らにとって、きれいな店内で堂々と散髪をすることは贅沢なことなので、彼らと私自身が喜びを感じられるように、手助けをしたいのです」とクアンさん。  「無料散髪屋」の考えは、この10年近くずっと暖めていた。散髪屋を開いてはじめの4か月、お店は小さく、いつも赤字だった。その後、少しずつ客が増え、美容師も増えた。売り上げも上がって収益の心配がなくなった今、ようやく「無料散髪屋」を実現することができたのだという。クアンさん自身も、独立するため20歳前後でホーチミン市へ来た頃に貧しい時期を経験し、自身が成功した暁には他の人を助けたいと考えていた。

 勉強についていけず高校1年生で退学し、その後、技術訓練校に通った。はじめ、クアンさんは機械修理を学び、数か月後に店を開いた。しかし、事故に遭いわずか4か月後には店を畳まなければならなくなり 、約1年の治療を経てようやく回復することができた。  「回復後は家で過ごすしかなく両親の負担になっていると感じたので、ホーチミン市に行き散髪の勉強をしたいと申し出ました。はじめの頃は散髪の勉強をしながら携帯電話販売の仕事を掛け持ちし、専門学校を出た後はサロンで働きました。生活は安定せず、しばしば慈善で配布される弁当をもらいに行かなければなりませんでした」とクアンさんは語る。  一方で、散髪の専門学校に通っていた2004年から、クアンさんは友人らと一緒に孤児院、ろうあ学校、そして教会に住んでいる貧しい子供たちのために無料で散髪をしに行った。時には路上でパンを配ることもあった。  貧しい人々がどこから来ても、お店に一歩足を踏み入れれば同じように接客をする。スタッフは飲み水を出し、どのようなヘアスタイルにするか尋ね、しっかりと散髪・洗髪を行う。恩着せがましく傲慢な態度を取ったりは決してしない。  荷車運転手の50歳の男性は「ここで2回髪を切ったよ。初回は少し酔っ払っていたから、思い切って入ってみたんだ。もし普通の状態だったら、無料の看板が出ていても信じられなくて、入らなかったと思う。クアンさんは髪を切っても本当にお金を取らなかった。友達にもこのお店を紹介したよ」と教えてくれた。  お店が混んでいる時は別の美容師にカットさせるが、普段は1日約3人をクアンさんが自分で散髪している。客の多くは不快感を示すのではなく、クアンさんのこの活動を支援している。「私はもっと多くの貧困者にこのお店を知ってもらいたい。彼らの幸せな笑顔を見られればそれだけで私も嬉しいのです」。 

[Nhu Quynh, Zing, 08:22 20/09/2014, A]
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる