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[特集]

映画「サイゴンボディガード」落合賢監督インタビュー【前編】

2016/04/10 05:00 JST更新

(C) VIETJO
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(C) Saigon Bodyguards
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 ホーチミン市で2月、日本人監督によるベトナム映画「サイゴンボディガード(Saigon Bodyguards)」がクランクインした。日本人として初めて、ベトナム出資、オールベトナム人キャストのベトナム語映画のメガホンを取ったのは、日米を中心に活動する落合賢(おちあい・けん)監督だ。

 初めてのベトナム映画、初めてのベトナムでの撮影。撮影の合間の3月、今回の映画に携わることになったきっかけから撮影の裏話、映画の見所、今後のビジョンまで、落合監督にベトジョー編集部が話を聞いた。

【「サイゴンボディガード」について】

―――日米を中心に活動されてきた中で、今回、ベトナム映画を監督されることになったきっかけを教えてください。

3年前、僕が東京と米国・ロサンゼルスを行ったり来たりしながら作品を作っている時、新進気鋭のベトナム人俳優で、今回の映画で主役を演じるキム・リー(Kim Ly)さんと東京でお会いする機会がありました。28~29歳だった当時、同い年で意気投合し、2人で何度か会ううちに「いつか一緒に作品を作ろう」という話になりました。

彼自身はベトナム人ですが、スウェーデン生まれのスウェーデン人とのハーフです。彼がカナダのトロントに移住して、カナダ人プロデューサーのニブ・フィッチマン(Niv Fichman)さんとお会いした時、キム・リーさん主演の映画を日本とカナダで作らないかという話が持ち上がったのですが、なかなか進まなかったんですね。

そうした中で2014年にキム・リーさん主演のベトナム映画「フオンガー(Huong Ga)」がヒットし、彼自身もベトナムで人気が出てきた。そこで2015年4月ごろ、彼から次作の監督をしてもらえないかというオファーがあったんです。

もともと僕もアジアで作品を作っていきたいという意識があったのですが、まさかベトナムでチャンスが訪れるとは夢にも思いませんでした。キム・リーさんとは仕事以上に友人として3年間連絡を取り合っていましたし、監督の話をいただいたときは二つ返事で引き受けました。

そこから僕と、僕の大学時代の同期でベトナム系米国人脚本家のマイク・タイ、キム・リーさん、ニブ・フィッチマンさんの4人で企画を練り、最終的に「サイゴンボディガード」の企画が完成しました。2015年8月ごろに脚本が完成してからは、2月のクランクインまでとんとん拍子に話が進みました。

―――撮影の進め方や現場で、日本や米国との違いは。

日本と米国を比べても全然違うのですが、ベトナムの現場は日本とも米国とも全く違います。文化や言葉の違いもたくさんありますが、特に言葉が一番難しいですね。撮影現場では、メインスタッフのうち4~5人はバイリンガルなので、英語を共通言語にして、あとは通訳を通しています。

文化的な細かいことでは、ご飯の時間が違いますね。米国は撮影開始時間から6時間後に必ずごはんが出るんです。例えば、朝10時に撮影が始まったとしたら、16時にご飯を食べる。でもベトナムは、ランチは12~13時に食べないといけない。朝10時に始まれば、2時間仕事して、すぐランチです。

朝ごはんは、フォーなど色々なヌードルが出ます。撮影開始時間の30分前に集まって、朝ごはんを皆で食べる。ランチはご飯とおかず、もしくはヌードル系です。僕は日本でも米国でもベトナム料理をよく食べていたのですが、本場の美味しいベトナム料理がたくさん食べられるのは嬉しいですね。

あと、撮影前に必ずお祈りをします。撮影初日には、お坊さんを呼んで30~40分間お祈りをしました。日本なら芸能神社に行ってお祓いをします。ベトナムでは、撮影現場にお祈りの場所があり、監督は毎朝必ずそこでお線香をあげることになっています。



―――撮影で大変なことは。

やはり言語の違いがあるので、通訳に時間がかかったり、勘違いが起きたりしますね。僕も相手も英語が母国語ではないので、第2言語として話していて、すれ違いがよく起きます。その小さな積み重ねが時間のロスに繋がります。

ただ、もちろん日本で撮影していても多少のニュアンスの違いはあります。日本だと「それは難しいですね」と言うと、「難しいけどできる」のか「難しいのでできない」のか、空気を読まないといけない。米国では「イエス」と「ノー」がはっきりしています。ベトナムでは「できる、できる」「大丈夫、大丈夫」と言いつつ、実際はできていないこともあります。

それから、今回の作品はサイゴン川の水上での撮影もあって、それ以外にもカーチェイスあり、アクションあり、コメディーあり、ヒューマンドラマありなので、大変な部分もありました。

―――ベトナム人キャストの方々の印象や現場の雰囲気はいかがですか。

和気あいあいとした現場だと思います。やはりアクションコメディー映画を作っているだけに、現場の雰囲気が映画の楽しさにも繋がってくると思います。ですが、他の国と比べて声のボリュームがすごく大きい国なんじゃないかな。ベトナムでは皆が皆、大声で怒鳴っているかのように話し合っていて、そういう意味では、すごくにぎやかな現場ですね。

キャストの印象。特にタイ・ホア(Thai Hoa)さんは本当に素晴らしい役者さんです。カメラが回った時の存在感など、やはり普通の人とは違うオーラが出ている。彼を見ているだけで楽しくなります。それが何なのかというのは、スター性という言葉でしか表現できないかもしれません。色々なテイクで色々なギャグを混ぜたり、アドリブをどんどん入れたりするので、何回も何回もただ見ていたい。そんな役者さんはなかなかいません。

ベー・チャン(B Tran)さんも、素晴らしい演技をしています。今回はボディガードの話で、ある大企業の息子が誘拐されて、そっくりさんをすり替えるんです。それで、すり替えている間に本物のクライアントを探す、というコメディーでもある。彼は地方からやって来たフォー売りと大企業の息子の2役を演じています。2つの裏表の役を演じる中で、すごく繊細な演技をするので、これからどんどん伸びてくるのではないかと思っています。

―――ベトナムでの公開は12月とのことですが、日本での公開予定は。

日本でも単館などで公開しないかという話は出ています。ただ、ベトナム映画が日本で公開されるというのはほぼ前例がないので、単館が精一杯かなとも思います。最近はインディペンデント映画自体、日本の映画館でなかなか公開されないこともありますしね。

この映画のメインの目的は、ベトナムで、ベトナム語で、ベトナムの観客に楽しんでもらうことですが、可能であれば、ベトナムのコンテンツとしてこの作品を北米や日本などにも進出させていきたいと思っています。

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落合賢監督プロフィール

落合賢(おちあい・けん)

1983年生まれ。東京都出身。高校卒業後に渡米し、南カリフォルニア大学で映画製作を学んだ。大学卒業後は、アメリカ映画協会付属大学院(AFI)映画監督科で修士号を取得。

短編と長編合わせて30本以上の作品を国内外で監督し、ショートショートフィルムフェスティバルで東京都知事賞(「ハーフケニス」2009年)及び国土交通大臣賞(「井の中の蛙」2010年)、ローマ国際映画祭最優秀国際短編映画賞(「ハーフケニス」2009年)など数々の賞を受賞。2013年には、ウエンツ瑛士主演の「タイガーマスク」が公開。2014年公開の「太秦ライムライト」は、米国など世界中で広く上映され、大きな注目を集めた。 

[2016年4月10日 ベトジョーニュース A]
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