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[特集]

ホーチミン:中部地方の生春巻きの名店、店主は若きエンジニア

2018/09/30 05:25 JST更新

(C) Vnexpress
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 ホーチミン市ゴーバップ区ファムバンドン通り(Pham Van Dong)にあるバインクオン(Banh cuon)店「タイソン(Tay Son)」は、中部料理を楽しむ大勢の客で毎日賑わっている。

 従業員の制服は、店名にもなっている西山(タイソン)朝(1778~1802年)の兵士の衣装を模しているのが特徴的だ。そして、店主は南中部沿岸地方ビンディン省タイソン郡出身のグエン・ディン・チンさん(1991年生まれ)で、料理とは畑違いの元エンジニアだ。

 同店はバインホイ(Banh hoi、極細の米麺を編んだもの)にネムヌオン(Nem nuong、焼きつみれ)、チャーラムトムダット(Cha ram tom dat、中部風エビ揚げ春巻き)、チェーチョンソアイ(Tre tron xoai、青いマンゴーのサラダ)など、中部料理も幅広く取り揃えているが、看板メニューは何といってもタイソン風バインクオンだ。

 「バインクオン」というと、一般的には蒸したライスペーパーにひき肉やきくらげなどの具を巻いた「蒸し春巻き」とも呼べる北部料理を指すが、タイソン風バインクオンは少し違う。

 タイソン風バインクオンの見た目は一般的な生春巻きに似ているが、ライスペーパーに包まれた具材は揚げ春巻きや焼き肉、ボーラーロット(牛肉のロットの葉包み焼き)、ネムチュア(豚の発酵ソーセージ)、ゆで卵、キュウリ、葉野菜など…とても具沢山。そのためタイソン風バインクオンは丸々としていて菓子パンほどの大きさもあり、各家庭や店によって違うオリジナルの特製ダレをつけていただく。

 チンさんは2009年にタイソン郡からホーチミン市へ移り住み、同市技術師範大学で電気・電子を専攻した後、企業からの就職の誘いを断り、故郷の味で勝負することを決意した。在学中に生活費を賄うためにあらゆるアルバイトをした中で、同市の飲食市場にビジネスチャンスを見出したのだ。

 故郷の美味しい料理の店を開きたいと考えたチンさんは実家へ戻り、地元で名の知れたタイソン風バインクオン屋の門を叩いた。弟子入りしたいと申し出た時、「実子でさえ苦労の多い店を継ぎたくないと言っているのに、大学まで出ておいてバインクオンを売りたいだなんて信じられない!」と女性店主に門前払いされたが、熱意が伝わり無事に弟子入りしたという。

 中部地方の味の特徴であるトウガラシの辛さと塩辛さは、ホーチミン市民の嗜好に合うように調整が必要だった。現在のつけダレに至るまでは長い時間と研究を要し、当時チンさんは友人たちにヌクマム(魚醤)臭いとからかわれたものだった。

 味の研究の次に苦労したのが開業資金だ。卒業後も在学中の借金が残っていたチンさんは、友人・知人にタイソン風バインクオン屋のアイディアを話してかんぱを募った。しかし、ほとんどの人は職に就いて堅実に生計を立てるべきだと首を横に振った。

 しかし、ついにある先生がチンさんのアイディアに賛同し、開業資金を出資してくれることになった。チンさんはこの資金でタンフー区の小さな貸店舗で店をオープンした。当初、メニューはタイソン風バインクオンのみだったのを、ジュースなど売れそうなものは何でも売るようにしたが、売れば売るほど赤字になった。そして、オープンから7か月目にして資金繰りができなくなり閉店。

 その年のテト(旧正月)、チンさんは友人にチケット代を借りて帰省した。「周りの友人たちは就職して帰省するチケットや両親へのお土産を買うお金もあるというのに自分は大学を出ても一文無しで、その時のプレッシャーたるや半端なものではありませんでした」とチンさん。

 テトが明けてホーチミン市に戻ったチンさんは、これ以上両親に心配はかけられないと就職した。しかし、1日8時間の就業時間は途方もなく長く感じ、なぜビジネスが失敗したのかという考えが頭から離れなかった。チンさんはインターネットでビジネスのノウハウを学ぶと、自分の商売の仕方があまりにもぞんざいだったことに気付いた。

 自分の作った料理は美味しいからと単純に考えて開業し、客が来るのを待った。しかし、まだ市場に浸透していない料理に客足は伸びなかった。そして、初期投資では、本来必要だった宣伝や顧客開拓ではなく、店舗の椅子やテーブルなどにお金を使い、無駄な出費をしていたのだ。

 就職して9か月後、チンさんは勤め先を退職し再出発することにした。今度は住居兼調理場として小さな部屋を借り、市場で食材を仕入れては下宿で調理し、自転車で各地へ配達した。

 「タンフー区のレチョンタン通り(Le Trong Tan)から10区の工科大学まで配達したことがあって、到着した時には水を浴びたように汗だくになっていました。今思い出すと、あの時はよくあそこまでやれたものだと思います」とチンさんは笑う。

 調理や配達の傍らで、ソーシャルネットワーク(SNS)やチラシを活用し、タイソン風バインクオンのデリバリーサービスの宣伝にも精を出した。始めの1か月は1本1万5000VND(約72円)のタイソン風バインクオンが1日に8~10本売れる程度だった。チンさんのタイソン風バインクオンの味は次第に知られるようになり、小さな下宿に常時3人の学生をアルバイトで雇うほどになった。

 そして2017年、多くの支持を受けて、チンさんは考えた末にテーブル7つの小さな店舗を構えることにした。オープン初日はチンさん自身が驚くほどの大盛況だった。店はあっという間に広く知られるようになり、多くの客に故郷の味を提供するため広い店舗に移った。現在では2店舗を構えるほか、フランチャイズ(FC)で市内5店舗を運営するまでになった。売り上げは平均で月に4億VND(約191万4000円)に上る。

 チンさんは、ビジネスで最も大事なことは目標と根気だと語る。「ビジネスでも生活でも、私たちは多くの問題に直面します。その問題を解決し克服していくことが大切なんです。試練を克服すればするほど人は成長できると思っています」。 

[Vnexpress 00:03 2/8/2018, T]
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