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[特集]

「生ける命を守る」、胎児の追悼と母子救済に人生捧げる神父

2019/03/10 05:10 JST更新

(C) news.zing.vn
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 東南部地方ドンナイ省のビエンホア市ホーナイ街区第4区域に、3万人以上の赤ん坊が眠る墓地がある。墓地はバックハイ教会の神父であり、バックハイ教区の副司祭でもあるヨセフ・グエン・バン・ティックさんが発起人となり、8年前に建てられた。

 ティックさんはこれまでに、何らかの理由でこの世に生を享けることができなかった数千人の胎児の葬儀を執り行ってきた。毎月最終日曜日には信者やボランティアが教会に集まり、胎児の遺体を埋葬し、みんなで亡くなった胎児に祈りを捧げる。

 ティックさんは自らの人生全てをもって神に仕えている。毎朝ミサを開き、信者の懺悔に耳を傾け、説教する。神父としてティックさんが最も大切にしていることは「生ける命を守る」ことだ。産声を上げることなく亡くなっていった赤ちゃんたちが安らかに眠れる場所を作りたいと思い続けていたが、2011年に遂に実現に至った。

 「私はいかなる命も尊いと教わりましたし、現在もそう考えています。胎児は最も傷つきやすい命です。この世に生まれることも慈しまれ育つこともできなかった赤ん坊たちのために、持てる全ての力で赤ん坊たちの傷を癒し安らかに眠らせてあげたいんです」とティックさんは不遇な赤ん坊たちへの想いを語る。

 8年間にバックハイ教会で埋葬された胎児は3万人に上り、2018年だけでも8000人の胎児が墓地に葬られた。人工中絶される胎児は日を追うごとに増えており、平均で毎月約700人が埋葬される。

 遺体はボランティアメンバーが市内の診療所や病院から引き取って来る。活動を始めた頃は、各所から神父が何のために胎児の遺体を集め回っているのか疑問視され、遺体の引き取りは困難をきたした。しかし、活動を続けるうちに次第に賛同を得られるようになっていったという。

 引き取られた遺体はティックさんの手によって清められてからプラスチック製の瓶や容器に納められる。そして、4m2ほどの部屋に置かれた冷凍庫2台の中に安置され、葬儀と埋葬を待つ。遺体のなかには1つの瓶に3~4体が納まってしまうほど小さい胎児もある。

 「赤ちゃんの中には大きく成長している子もいて。ヒトの子らしく手足もしっかりとあって…、それなのに捨てられてしまったんだと思うといたたまれない気持ちになることもあります」とボランティアメンバーの女性。

 葬儀の日を迎えると胎児はボランティアメンバーの手で教会へ移され、プラスチック容器に色とりどりの布やリボンをあしらう。しめやかに行われる葬儀では時折、参列者から胎児を憐れむ声や鳴き声が漏れる。

 墓地は100m2の敷地に10基の墓石が手のひらの形に配置されている。墓地には毎日多くの人が訪れ、墓石の周りにはたくさんの花やオモチャが備えられている。葬儀と納棺を終えると、赤ん坊たちは人々の温かく愛情いっぱいの手のひらに包まれるようにして、母なる大地へと帰っていくのだ。

 毎月最終日曜日には墓地に眠る胎児たちを慰めようと、各地から人々が教会へ足を運び厳かにミサが行われる。ミサには信者ではないながらもティックさんの活動に賛同し、共に活動するボランティアメンバーの姿もある。

 胎児たちを天国へ送る前に、ティックさんは最後の祈りを捧げる。「主よ、この祈りとロウソクの灯り、そしてこの懺悔をもって、子供たちを慈しみたまえ。ここに子供たちに安息の地を与えたまえ」。

 「生ける命を守る」ことを使命に、ティックさんはお腹の赤ん坊を生み育てることに不安を抱く妊婦や、家族から逃れて来た母子もシェルターで保護支援している。

 ここでティックさんが最も力を入れているのが、母親のお腹の中で育まれている小さな命を守ることだ。妊婦が置かれた状況によっては幼い命は容易に絶たれてしまう。妊婦がお腹に宿っている胎児の埋葬を依頼しに教会へ訪れるケースさえあるという。

 このシェルターでは開設から8年の間に、母子800人の命を救ってきた。ティックさんがシェルターに入所した妊婦に対してまず初めにすることは、話を聞くこと。そして妊婦を励まし、お腹に宿った命を守ることの大切さを伝える。入所する妊産婦は健康状態や能力に応じて、菓子の包装や衣料品の縫製、子守り、雑用係など就業の機会も与えられ、母子の自立も促す。

 2週間前に男の子を出産した入所者の女性はティックさんを命の恩人だと語る。「ティック神父様の施設をインターネットで見つけたんです。当時はあまりにも多くの問題が起きていて、神父様たちがいなければ私と息子の命は今頃どうなっていたか分かりません」。

 今まででティックさんが最も苦労したのが、出産に猛反対の家族から逃れて施設にやってきた若い女の子だ。娘の妊娠に怒り心頭の家族はお腹の子供を中絶しない限り娘として家に戻らせないと女の子に詰め寄り、女の子は不安と恐怖に晒されていた。ティックさんはあらゆる手立てを講じてお腹に宿った命を守った。そして、いざ赤ん坊が生まれると家族のいがみ合いは消え、みんなが赤ん坊を可愛がったという。

 「主よ、我らの罪を許したまえ。宿された命を生かしたまえ。生ける命を、その暮らしを守りたまえ」。今日もティック神父は祈りを捧げる。 

[news.zing.vn, T]
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