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[特集]

村に戻って早6年、ジャングル生活40年の「森の人」は今

2019/04/07 05:35 JST更新

(C) thanhnien, 現在のランさん
(C) thanhnien, 現在のランさん
(C) tuoitre, 発見時のランさん
(C) tuoitre, 発見時のランさん
(C) thanhnien, 現在のランさん
(C) thanhnien, 現在のランさん
(C) thanhnien, 現在のランさん
(C) thanhnien, 現在のランさん
 40年間もジャングルの中で暮らし、2013年8月に父親とともに保護されたホー・バン・ランさん(47歳)は、現在も食べる物を探すため毎日森に入っている。村に戻って早6年、何人かの老人が彼のはっきりとしない話に耳を傾けてくれるだけで、依然として「森の人」は孤独だ。

 2013年、南中部沿岸地方クアンガイ省タイチャー郡チャーシン村のジャングルの中で、古代人のような生活を送っている父子が発見されたというニュースに国中が驚愕した。森での生活があまりにも長かったため、2人が社会復帰するのはとても大変なことだった。

 その証拠に、ランさんは未だにベトナム語をはっきりと話すことはできず、さらに今も独り身だ。生真面目なランさんと気が合い、この困難に耐えられるような女性はまだ現れていない。

「森の人」の一日

 年明けの早朝の高地は、一面が冷たい霧に覆われていた。森の鶏が鳴く声とともにランさんは目覚め、台所に行き朝食の準備を始める。今日は庭から採ってきたばかりのコールラビに加え、昨日仕留めた野ネズミもある。

 「兄はとても勤勉です。雨の日でも日差しが強い日でも、寒さの厳しい日でも、籠を持って家族のために食べ物を探しに森に入るのです」と、「森の人」の弟であるホー・バン・チーさん(45歳)は教えてくれた。

 食事が終わるとすぐ、ランさんは一握りの白米とお茶を入れた水筒を籠に入れて山道に出る。一つの斜面を越えるとまた次の斜面が現れ、森の小川を渡るのもとても大変だが、一番嫌なのはヒルに出くわしたときだという。数十m進むだけで数十匹のヒルが足のあらゆる場所に噛みつき血を吸うため、血だらけになってしまうのだ。

 檳榔樹に青々と実が連なっているのを見つけると、ランさんはすぐに三日月型の鎌でひと房を切断した。1時間ほど歩いたのち、ようやくランさんの小屋に到着した。「森の人」と一緒に山道を進むのは容易ではない。ランさんの歩くスピードはとても早いからだ。小屋の中で3分ほど休憩すると、ランさんは食べるものを探しにまた出掛けていった。

 仕掛けておいた罠をしゃがみこんで覗き、一匹の野ネズミが掛かっているのを見つけると、ランさんは嬉しそうに笑った。そこでしばらく過ごした後、ランさんは5kgのキャッサバを掘り、それが終わると今度は帰ってから豚に食べさせるための野菜を採った。ランさんは山道をちょこちょこと30分ほど歩き、小屋に「戦利品」を置き、それからまたすぐに山菜を採りに行った。

 午後、太陽が山の後ろに隠れる前に帰宅すると、ランさんは籠を台所に置き、急いで豚に餌をやった。ランさんが飼育するのは豚と鶏だけで、牛や水牛には見向きもしない。牛や水牛は見るのも怖いので飼わないのだとチーさんが教えてくれた。

「森の人」が孤独な時

 ジャングルから村の生活に戻って6年が経ち、村の皆がランさんの結婚を待ちわびている。人生の半分を過ぎても未だに一人で森の中にいるのは寂しい。「恐らく兄に寄り添うことは誰でも難しいでしょう。兄は苦労してきましたが、森の中で長く暮らし過ぎたため及び腰です。さらに兄はすでに歳をとっているので、ちょうど良い頃合いの女性は村にはいないのです」と弟のチーさん。

 チーさんによると、ランさんは今でも森を恋しがっているのだという。先日も数kgの米を抱えて森に出掛け、何日間も戻らなかった。

 山の中腹にある簡素な小屋の中には、ランさんの手で摘み取られた数束の野菜と、ランさんの荷物が置かれている。チーさんは「森の中での暮らしで、兄は何でもできます。狩りに行き、終わると鉈を担ぎ、夜まで薪割りをします。そして村に帰ってから商人に売りに行くのです」と語る。

 夜な夜な、ランさんは村の中で打ち明け話ができる人を探してふらふらと出掛ける。何人かの老人が彼のはっきりとしない言葉に耳を傾けてくれるだけだが、緑茶と檳榔の実は、この酒席のようなお茶会に欠かすことができない。

 テト(旧正月)の数日間、ランさんも他の人に倣って春を祝う挨拶に出掛けた。ランさんはこっちの家にあっちの家にと全ての家を訪問し、終わると親戚の家へ遊びに行った。「兄は村へ戻ってからお酒を知ってもう長いですが、悪酔いしないように気をつけて飲んでいます」とチーさん。

学ぶのが速い「森の人」

 普段は口数の少ないランさんだが、お金を稼ぐ方法を学ぶのはとても速かった。人々が山で薪を割り、村に帰って売っているのを見るとすぐに真似をした。籐の季節になり、村の男性が籐を刈りに行くのを見て、ついて行った。竹の季節も同様だ。

 「彼はお金がどういうものであるかについてはわかっていません。彼にとってお金は物を測るためのものでしかないのです。ある時、突然彼が籐の束を運んで店の前に置いたまま家に帰り、それから弟に重さを測ってお金を受け取ってくるよう頼んだのです」と、「森の人」の近所に住むある商人が笑いながら話してくれた。

「森の人」、父を想う

 以前、ランさんと父親であるホー・バン・タインさんはいつも一緒だった。ジャングル暮らしの頃から一緒だったタインさんが亡くなって1年あまりが経ち、寄付によって建てられた家は現在空き家になっている。

 雨が降る夜はいつも、ランさんは台所の火のそばに座り、父親を思い出している。「父が亡くなった時、兄はしばらくの間何も話しませんでした。たまにテレビを観に部屋に上がるだけで、ずっと私と一緒に台所にいました」とチーさんは当時を振り返った。

 将来の予定について尋ねると、弟のチーさんはこれまでの6年間と同じように家族皆で穏やかに過ごしていきたいと教えてくれた。ランさんは狩りの仕事を任されている。チーさんの妻は田を耕し、チーさんは4頭の牛の世話をしている。

 「このあたりの人たちは兄の忍耐強さを知っているので、細々とした仕事を頼んでは謝礼金を支払っています。籐(トウ)の季節には籐を刈りに行き、竹の季節には竹を刈りに行きます。山の生活は飽きないのです」とチーさんは語った。 

[Thanh Nien 11:04 07/03/2019, A]
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