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[特集]

視覚障害のジャーナリスト、雑誌とラジオで視覚障害者に光を

2019/09/08 05:22 JST更新

(C) tuoitre
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 国営ベトナムの声放送局(VOV)のリポーター、そして編集者として活躍するホアン・バン・リーさんは、先天性失明者でありながら、独自のやり方で15年間にわたりジャーナリズムの仕事に情熱的に取り組んできた。

 リーさんは父親と弟も視覚障害者という家庭で生まれ育った。小学生になり、リーさんはハノイ市にある視覚障害者のための学校、グエンディンチエウ小学校に通った。

 小学2年生の時、リーさんが11月20日の「ベトナム教師の日」にちなんだコンテストで書いた詩が、壁新聞に掲載された。リーさんの清らかかつ素朴で誠実な詩は、教師たちの注目を集めた。以降、リーさんに創作の機会が与えられるようになった。

 中学生時代には、リーさんの記事や詩、短編小説が様々なオンライン新聞で紹介され、ラジオのVOVでも放送されるようになった。「私の名前が新聞に出ているのを見たり、ラジオで取り上げられているのを聞くたびに、とても嬉しい気持ちになったものです」と、リーさんは執筆を始めた頃を思い出して微笑んだ。

 高校に入ると、リーさんは健常者と同じ私立のグエンディンチエウ高校に進んだ。高校では高校卒業試験と大学入学試験という2つの大きな試験に直面することになるが、それでもリーさんは文章を書くことに情熱を注ぎ、多くの時間を費やした。

 2001年、リーさんは盲学校時代の友人4人とともに「向日葵(Hoa Nang)」という月刊誌を発行した。当初は校内の生徒向けだったが、メディアで紹介されたことで様々な省・市の生徒たちの手に渡ることとなった。

 当時リーさんと友人たちは、視覚障害者の生徒だけでなく、南中部高原地方ダクラク省、東北部地方タイグエン省、同ランソン省など遠方の視覚障害者ではない生徒たちからもたくさんの共同執筆の申し出を受けた。

 普通の生徒たちが遊んだり休んだりして過ごす週末を、リーさんと友人たちは記事のテーマを探す会議や、共同執筆者の記事の編集作業に費やした。小規模な月刊誌だったが、リーさんたちは実際の編集室のように活動していた。大変ではあったが、リーさんにとってはとても貴重な時間だった。

 「若いうちから仕事に触れる機会を得て、追う夢があったことはとても幸運だと思っています。そしてその夢はただの夢として破れることなく、様々な経験を通じて形になりました。この仕事は決して簡単ではなく、今までたくさんの苦労をしてきましたが、私は自分なら全てを乗り越えられるとわかっていたので、ハノイ市の人文社会科学大学のジャーナリズム学科を受験することに決めました」とリーさん。

 2007年、大学を卒業したリーさんは、雑誌「キャリアと統合(Huong Nghiep va Hoa nhap)」に携わった。その後、ラジオに興味を持つようになり、VOV1チャンネルの番組「VOVと夜更かし(Thuc cung VOV)」の中のコーナー「夜の話(Chuyen dem)」、そしてVOV健康チャンネルの番組「毎日のお気に入り(Nang niu tung ngay)」のリポーターと編集者になった。

 リーさんが携わった番組の中で最も特別なのは、VOV交通チャンネルで放送された視覚障害者向け番組「明るい信念(Niem tin anh sang)」だ。リーさんは編集委員会の信頼を得るため、2年かけてラジオ番組を制作するためのソフトウェアの使い方を独学で探り、積極的にテーマを提案し、それらのテーマを自分で実現させた。

 当時、番組は毎週3編が放送されており、リーさん1人ではリポーターと制作の仕事が回らなくなったため、共同制作チームを立ち上げることにした。チームのメンバーには視覚障害者もいた。リーさんはラジオ原稿のライティングスキル養成コースにも参加し、多くの若者向けのラジオ番組を制作した。

 またこの頃から、リーさんは新聞制作が好きな視覚障害を持つ若者の集まり「将来の新聞クラブ(Cau lac bo Bao chi tuong lai)」で、新聞制作のスキルを教える講師を務めるようになった。

 VOV交通チャンネルの視覚障害者向け番組「明るい信念」でリーさんの共同制作者だったレ・フオン・ザンさんは、「彼のこの仕事に対する熱意は本物で、どんなに強いプレッシャーを感じていようとも、常により良い仕事をしなければいけないのだということを思い出させてくれました。リーさんは本当に熱心な人です」と語る。

 この仕事に就いて約15年。リーさんは一度も落ち込んだことがないという。彼がこの仕事を続けていられる唯一の力の源は、彼が手掛けた番組を聴いたリスナーからの前向きなリアクションだ。

 リーさんが担当していた「明るい信念」は、様々な理由から2016年に放送が終了されることになった。多くの友人や同僚は、リーさんがこのショックを乗り越えられないのではないかと心配した。しかし、皆の想像とは裏腹に、リーさんは冷静だった。

 「明るい信念」が放送終了となったため、リーさんは視覚障害者に関するいくつかのメディアプロジェクトを立ち上げることに集中した。そして、その1つとして、視覚障害者向けの新たなプロジェクト「ホタルスタジオ(Dom dom studio)」が誕生したのだった。「ホタルスタジオ」では、ユーチューブ(YouTube)などで視覚障害者向けの情報を配信している。

 「コミュニケーションとは、人々が障害者をより良く理解するための最短の懸け橋です。そしてそれは、社会における不平等な障壁を取り除くために障害のある人々が声を上げる唯一の方法でもあるんです」とリーさんは語った。 

[Tuoi Tre 22:14 20/06/2019, A]
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