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[特集]

車椅子の妻と年下夫の愛の形、2人で歩む新たな人生

2020/01/19 05:52 JST更新

(C) vnexpress
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 「本当にいいの?私は一生、車椅子に座ったままよ」と言う女性を横目に、男性は婚姻届にサインをした――。

 昼の12時、ファン・ゴック・ジエムさん(31歳)は宝くじを売り切り、夫に電話をかけて迎えにきてと頼んだ。電動車椅子の充電が切れてしまったのだ。数分後、夫のグエン・ミン・チーさん(26歳)がバイクで到着し、チーさんはバイクを運転しながら車椅子を押して2km先の自宅へと帰った。小さな部屋では、チーさんがジエムさんの服を選び、ジエムさんを抱きかかえてシャワーを浴びさせる。

 チーさんとジエムさんは2019年の初めに婚姻届を提出した。その約1年後、2人はホーチミン市で行われた障がい者カップルの集団結婚式に参加してようやく結婚指輪を手にすることができた。

 2人が結婚して1年近く経ったが、お互いの家族はまだこの結婚を認めていない。ジエムさんの父親は、娘より5つも年下で、安定した職にも就いているチーさんがまさか障がいを持った娘を好きになるとは思えず、2人の愛情が本物だと信じることができないでいる。

 一方、チーさんの母親も、車椅子に座り、自分でシャワーを浴びたり着替えたりもできない女性を嫁として認めることはできないと反対している。

 5年前、チーさんはラジオでたまたまジエムさんの人生の話を聞いた。障がいを持った同郷の女性のまっすぐさ、誠実さを感じ取り、電話番号を控えてメッセージを送った。このとき、チーさんは自宅の近くで溶接工として働き、ジエムさんは先天性側弯症で歩くこともできず、刺繍で生計を立てていた。

 その後4年間、2人は電話だけで連絡を取り合い、色々な話をした。2018年4月、ジエムさんとチーさんは東南部地方ドンナイ省で初めて会うことにした。その日の帰り、チーさんは勇気を振り絞ってジエムさんの頬にキスをした。ジエムさんはびっくりして叫び、笑い、そして黙り込んだ。

 チーさんはバイクでジエムさんの車椅子についていき、ジエムさんの自宅まで送った。その日は大雨で、びしょぬれのチーさんをかわいそうに思い、ジエムさんは両親にチーさんを泊めるよう頼んだ。そしてなんと、チーさんはそのままジエムさんの自宅に1週間泊まった。

 「彼女は嫌がりましたが、帰りませんでした。彼女がどうやって生活しているのか見てみたかったからです」とチーさん。ジエムさんはチーさんの気持ちに気付いていたが、まさか健常者が自分を好きになってくれて、結婚してくれるなど信じようともしなかった。「彼の重荷になるのが怖かったんです」とジエムさんは振り返る。

 その後数か月、雨の日も暑い日も、週末になるとチーさんは自分の家から50kmもの道のりをバイクで走って彼女の家を訪ねた。そしてジエムさんの車椅子を押して、村のあちこちを巡った。ジエムさんから「遠くへ遊びに行ったことがない」と聞けば、車を借りて東南部地方バリア・ブンタウ省まで連れて行った。こうして2人の愛情は徐々に大きくなっていった。

 付き合い始めてしばらくして、チーさんは母親に彼女を紹介した。写真を見てチーさんの母親は、「この人以外だったら誰と結婚したっていいわ」と真っ向から反対し、息子が説明する前にどこかへ立ち去ってしまった。

 週末、バイクでジエムさんの家に向かおうとするチーさんを母親は阻止した。母親を説得することができなかったため、チーさんは家を出てホーチミン市に逃げ、れんが職人として働きながら週末にはジエムさんを訪ねた。

 チーさんはジエムさんの母親ときょうだいには応援してもらえたが、父親には「君の両親と話をさせてくれ」と言われた。チーさんは自分の母親に続いて、ジエムさんの父親の反対という壁にぶち当たった。「僕が彼女の家の上の階に上がればお義父さんは下の階に降ります。話しかけても何も言わずに立ち去ってしまいます」とチーさんは語る。

 2019年1月、ジエムさんの母親は、近所の人たちにあれこれ言われないようにと、2人に婚姻届を出すよう助言した。ジエムさんの心の中では婚姻届、ましてや結婚式など考えたこともなかった。婚姻届にサインをするためペンを持っても、ジエムさんはまだ自分に夫ができる日がくるなど信じられなかった。

 ジエムさんはチーさんに尋ねた。「本当にいいの?私は一生、車椅子に座ったままよ」。このときジエムさんは、チーさんがやっぱり結婚しないと心を変えるかもしれない、という心の準備もできていた。でもチーさんはサインをし、「全部わかっているから、僕が面倒を見るよ」と言った。

 その後、2人は南部メコンデルタ地方ロンアン省の故郷を離れて、ドンナイ省に移った。チーさんは収入も良かった溶接工を辞めて、妻の世話をする時間を確保するため、電動自転車の販売店で働き始めた。収入は不安定だったが、2人は両親にいくらかを仕送りした。

 1年間一緒にいて、チーさんは大変だと感じなかった。帰宅すると家の中はいつも笑い声が響き、妻に美味しい料理を食べてもらうため空いた時間はインターネットで調べものをする。

 ジエムさんは箸を持って食べ物をつかむことはできないが、お椀とスプーンを持つことはできる。時には、口に入りきらないほどの大きな肉をチーさんがジエムさんのお椀に取ってからかい、すねるジエムさんを見て笑うこともある。

 ジエムさんの健康状態が良くないことや経済的に安定していないことから、2人はまだ子供を持つつもりはない。何よりも、2人の結婚を両親に認めてもらうことが先決だと考えている。

 テト(旧正月)が近づき、ジエムさんは朝早くから夜遅くまで、いつもより多く宝くじを売っている。テトに故郷へ帰る車を借りるため、そして両親に贈り物をするためだ。

 2人は今度のテトの機会にもう一度両親を説得することに決めた。今年に入ってジエムさんは父親と話していない。チーさんの母親も相変わらずで、ジエムさんと別れて別の人と結婚するよう勧めている。

 心配していないと口では言いつつ、ジエムさんもチーさんも緊張はしている。テトに帰ったら両親と向き合うことになる。最悪のシナリオも頭をよぎった。「でも、夫婦が同じ気持ちでいれば、1年でだめなら10年かかったとしても、両家の親も僕たちの愛情を理解してくれ、全て乗り越えられると信じています」とチーさんは語った。 

[VnExpress 06:00 13/01/2020, A]
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