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[特集]

宝くじ売りの女性、唯一の生きがいは「テトに帰省して娘の墓参りをすること」

2021/02/14 05:07 JST更新

(C) zingnews
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 南中部沿岸地方フーイエン省タイホア郡出身のチャン・ティ・クックさん(女性・54歳)は、ホーチミン市で宝くじを売って生計を立てている。

 クックさんにとって、テト(旧正月)にフーイエン省に帰って娘の祭壇の世話と墓参りをすることだけが、日々の暮らしの中で心が温まる唯一の生きがいだ。

 クックさんは、17年前のある日の午後の電話を忘れることができない。電話の向こうで、田舎の近所の人が泣きじゃくりながら小さな声で「クックさん、すぐに帰ってきて。娘さんが事故に遭ったの」と言ったのだった。

 話を聞くや否や、クックさんは手に持っていた宝くじを放ってバスに飛び乗り、田舎へ帰ったが、最期には間に合わなかった。「村に着くと、お葬式の音楽が聴こえました。自宅にお葬式の旗が掲げられているのを見て、私は気を失ってしまいました」とクックさんは語る。

 クックさんの娘、レ・リー・ナーさんは、学校からの帰り道に交通事故に遭った。ナーさんは当時18歳になったばかりで、兄は軍隊に入り、母親のクックさんはホーチミン市で宝くじを売っていたため、家族はばらばらに暮らしていた。

 娘が亡くなるまで、クックさんはまさか自分が娘の最期に立ち会うことができないなんて、とても信じられなかった。

 クックさんの息子のチャン・ヒー・チャットさんは、女手一つで2人の子供を育てている母親をかわいそうに思い、妹を学校に通わせるため、14歳のときに学校を辞めた。そして、ホーチミン市に移り住んで宝くじ売りの仕事を始めた。

 しかしあるとき、チャットさんは横断歩道で大事故に遭い、片脚を骨折して3か月間もの入院生活を強いられた。「知らせを聞いて、畑仕事を放ってホーチミン市に向かい、息子の世話をしました。息子は毎晩、横になって私を見ては泣いていました」とクックさんは振り返る。

 クックさんは入院費を支払い続けることができず、やむなくチャットさんを連れて田舎に帰った。チャットさんが18歳のときに無料で手術を受ける機会を得て、脚を固定していたネジをやっと外すことができた。

 クックさんはチャットさんの入院費に充てた800万VND(約3万7000円)もの借金を背負っていたため、息子に代わってホーチミン市で宝くじを売ることにした。

 それから長く経たないうちに、今度は娘の悲しい知らせを受け取った。クックさんは娘を失くしてから1年間、壊れたように日がな一日祭壇の前で泣き続けた。

 翌年、クックさんはホーチミン市に戻り、また宝くじを売り始めた。クックさんにとって、宝くじを売る時間はもはや生計を立てるためではなく、苦しみから逃れるためのものとなった。

 その年、クックさんはテト(旧正月)に田舎へ帰らないことにした。旧暦の大晦日、お供え物を用意してから、いつものように宝くじを売りに出かけた。

 「親戚から電話でどうして帰って来ないのかと責められましたが、本当のところ、1人で部屋にいてもとても悲しい気持ちでした。元日の朝に外に出ても人がおらず、そこで初めて泣きました。そして、テトには田舎に帰り、娘のためにきちんとお供え物をしなければいけない、と思い直しました」とクックさんは話す。

 以来、クックさんは毎年旧暦12月20日に田舎へ帰ることにしている。バスのチケット代は片道50万VND(約2300円)。田舎へ帰るためには、少しでも多く宝くじを売ってお金を稼がなければならない。

 そんな中、クックさんのように経済的に困難な状況にある人々のテトの帰省を支援するため、財政省傘下のベトナムコンピュータ宝くじ社(ベトロト=Vietlott)は毎年、ホーチミン市在住の500人余りを対象に無料の帰省バスを運行している。

 「ここ2年は、無料バスのおかげで200万VND(約9200円)以上も節約できました。お年玉ももらえて、とても心が温まります」とクックさん。今のクックさんにとって、テトが来るたびに田舎へ帰って、1年に1回、娘の祭壇とお墓の世話をすることが唯一の生きがいとなっている。 

[Zing 12:00 03/02/2021, A]
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