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[特集]

橋からの飛び降り自殺を阻止せよ、カントー橋警備隊の任務

2021/02/28 05:52 JST更新

(C) vnexpress
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 夜11時、警備員のフア・ニョン・ハウさん(男性・58歳)は、橋の欄干のそばに停まっているバイクと、欄干の外側に座って顔を手で覆い、泣きながらとうとうと流れる川を見下ろしている若い女性を発見した。

 南部メコンデルタ地方カントー市に架かるカントー橋の警備員を10年以上務めているハウさんは、この女性が自殺しようとしているのだと気づいた。警戒させないよう、慌てずにゆっくりと女性に近づき、「こんなに遅い時間に、寒い中、そこで何をしているんだい?」と尋ねた。ハウさんが言い終わると、女性はさらに大きな声で泣き始めた。

 ハウさんはいったん警備の仕事を止めて地面に座り込むと、橋から飛び降りようとしている女性をなだめ、思い止まらせるという「やむを得ない任務」に取り掛かった。

 女性は橋の淵ぎりぎりの場所に座ったまま語り始めた。「私はベンチェ省に住んでいて、恋人はカントー大学の学生です。今日は彼に会うためにバイクでここまで来ましたが、彼は現れなかった。きっと彼は私と別れるつもりなんです。これ以上生きていても、意味がありません」。

 「私は短気なので、理由を聞いてすぐに叱りたくなりましたが、我慢して話を聞き続けました」とハウさん。10年以上この仕事を続けている経験から、泣きながらも問いかけに答えられる人は、まだ本気でこの世を去ろうとする勇気がないことをハウさんは知っている。

 そういった人たちに大きな声を掛けて道行く人々の注意を引いてしまうと、恥ずかしさからパニックになり、そのまま川に飛び込んでしまう場合もあるため、ハウさんはそっと話しかけるようにしている。

 ビンロン省とカントー市を結ぶハウ川に架かる、全長約3kmの橋の上にしゃがみ込み、ハウさんは約2時間も女性の恋愛話を聞き続けた。風除けの上着を着ていたものの、冷えて手がかじかみ、声も震えるほどの寒さだ。

 「その彼があなたをもう好きでないなら、あなたが今この世を去ったとしても何の痛みも苦しみも感じず、すぐに新しい恋人を作るだろうよ。さあ、私と一緒に来て警備員室で温かいお茶でも飲もう。話の続きはそれからだ」とハウさんは女性に伝えた。

 女性は説得を受け入れて欄干の内側に戻って来たものの、まだすっきりしない様子で、ハウさんはその晩の勤務時間を使って女性の話を聞き、時々アドバイスをした。「女性が橋の内側に戻って来てくれて幸運でした。橋の上に座り続けてトイレに行きたくなっても、自分が居ない間に何かあったらと心配でその場を離れられないケースもたくさんありますから」とハウさんは打ち明けた。

 午前5時、勤務時間を終えたハウさんは、女性がカントー橋から立ち去るのを見送ると、ようやく安心してバイクで帰路についた。これは、ハウさんが救ってきた数十人の飛び降り未遂の一事例だ。

 カントー橋の安全秩序警備隊には約50人が所属し、主に橋の警備、事故発生時の交通整理サポートなどを担っている。自殺しようとしている人を思い止まらせ、話を聞いて救助する仕事は本来の任務外ではあるが、皆「死ぬところを目の当たりにして救わないわけにはいかない」という良心から引き受けている。

 今回の救助案件には時間を要したものの、ハウさんは昨年出くわしたケースのように傷を負わずに済んだ。

 昨年のある夜、ハウさんはパトロール中に1組の男女のカップルが揉めているのを目撃した。女性が欄干を登って橋の外側に行き、飛び降りようとするところを恋人が引き止めていた。ハウさんもすぐに女性の両手を掴むと同時に、通行人に警備員室まで行って同僚を呼んで来て欲しいと伝えた。

 女性の手を掴んでいる間にハウさんは痛みを感じた。ふと見ると、女性がハウさんの手を噛み、血が出ていた。「とても痛かったですが、手を離せば女性が飛び降りてしまうので、離すことはできませんでした」とハウさんは振り返る。

 その間にハウさんの同僚も駆けつけ、野次馬が集まって渋滞が起きないように交通整理を行い、警察に通報して応援を要請した。ハウさんの必死の救助が続き、1時間以上経ってようやく女性は警察に手錠を掛けられ、そのまま病院に連れて行かれた。

 カントー橋メンテナンスチームの副隊長を3年以上務めているビンロン省出身のファム・タン・タインさん(男性・42歳)は、2年前にある青年を救助できなかった辛い経験から、迅速な行動を取るようになった。タインさんは欄干の外側にいる人が飛び降りようとしているのを見つけると、ためらうことなく近づいてしっかりと手を掴んでから語りかけ、橋の内側に引き寄せるようにしている。

 「1秒でも遅れれば救助が間に合わないこともあります」とタインさん。2年前、タインさんは飛び降りようとしていた青年を説得した後、青年が欄干の内側に戻って来たためもう大丈夫だと思い、手を離してしまった。しかしその一瞬の隙に、青年は再び欄干を登り、川に落ちていったのだ。

 「彼らが飛び降りることを決心してしまったら、私たちにはどうにもできないということは理解しています。ここでなくても別の場所で、今でなくても別のタイミングで、彼らは自殺を試みるでしょう。それでも、飛び降りようとする人を見つけてしまったら、私たちの良心は見過ごすことを許さず、彼らを救おうとするんです」とタインさんは語る。

 橋から飛び降りて人生を終わらせることを選んだ人々のほとんどが、恋愛、家族、または破産などで悲しみを抱えており、特に毎年大きなサッカーの試合が行われた後は、賭博に負けて橋に来る人が増えるという。

 「割り当ても報酬もない仕事ですが、私たちは良心に従ってこの仕事を引き受けています。さらに、救助した後は警察署に報告書を提出し、証人になる必要もあるので、面倒ではありますが、誰もこの仕事に躊躇はしていません」とタインさんは続けて教えてくれた。

 かつて、旧フェリーターミナルの職員として働いていたフイン・タイン・チュックさん(男性・45歳)は、カントー橋が完成すると橋の警備の仕事に異動した。

 チュックさんはこの10年間で、勤務中に約20人の自殺志願者を救助した。救助した人々に自腹で朝食やコーヒーをご馳走し、落ち着いたところで、家族に電話を掛けて迎えに来てもらう。無事に家族に引き渡すと、ようやく安心して仕事に戻ることができる。

 「夫に関心を持ってもらえず、悲しみのあまりここに来た妊娠中の女性を救助したことがあります。後日、女性の家族が果物を持って感謝の気持ちを伝えに来てくれました」とチュックさんは語る。

 人生の半分近くをハウ川と共に過ごす中で、チュックさんは勤務中に何度か自殺の現場に遭遇し、遺体を捜索するためのボートが川に浮かんでいるのを目にしてきた。岸の両側で家族が泣きながら名前を呼んでいる姿を見ると、警備員たちの心も重くなる。

 「最も大変なのは雨季で、家族がボートを雇って1週間ずっと遺体を探していることもあり、胸が痛みます。私も警備員の他のメンバーも、そうした痛ましい場面を目撃したくはないんです」とチュックさんは胸の内を打ち明けた。 

[VnExpress 05:00 22/01/2021, A]
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