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[特集]

ジャングル生活40年の「森の人」、がんと闘う 村に戻って8年

2021/05/30 10:18 JST更新

(C) vnexpress
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 40年間もジャングルの中で暮らし、2013年8月に父親とともに保護された「森の人」ことホー・バン・ランさん(男性・52歳※)は、村に戻って今年で8年が経つ。南中部沿岸地方クアンガイ省チャーボン郡チャーフォン村チャーガー村落に弟と暮らしながら、肝臓がんと闘っている。

 去年の今ごろはまだ、弟のホー・バン・チーさんや近所の人たちと一緒に田んぼを耕していたが、今では台所をうろうろするだけだ。弟は台所のかまどのそばに座り、薬を煎じて兄に飲ませる。

 ビンロウの実が入った袋を手にし、キンマで歯を黒くするのが好きなランさんだが、笑顔に以前のような自然さはなくなっている。ランさんは痩せこけ、日焼けした肌も青白く見える。

 今から8年前の2013年、ベトナム戦争中にジャングルの中へ逃げ込んでから40年間も2人だけで古代人のような生活を送っていたランさんと父親のホー・バン・タインさんが保護され、村に連れ戻された。

 保護された当時のランさんは村人や親戚たちに当惑していたが、今は自身の病気に当惑している。「しんどいですよ。チーたち夫婦が仕事をして私の病気を治すための薬を見繕ってきてくれます。長生きして、甥姪が成長するのを見届けたいものです」とランさん。

 チーさんによると、ランさんは自宅から4km離れた山中にある小屋で暮らしていた去年から、腹部と胸部の間に痛みを感じていたという。その時はチーさんもただの腹痛だろうと思い、山間部で「万能薬」とされる葉っぱを兄のために採りに行き、煎じて飲ませた。

※2019年の時点では47歳と報じられていたが、直近の現地紙の記事では52歳となっている。

 
しかし、ランさんの腹部の痛みはますます激しくなり、2020年11月には以前と比べて10kgも痩せてしまっていた。チーさんは、以前ランさんたちの映画を撮影したことがある知り合いの監督に助けを求めて連絡し、ランさんをクアンガイ市の病院に連れて行った。

 3日後、ランさんは医師から肝障害と診断された。それから南中部沿岸地方ダナン市のダナン病院に転院し、肝細胞がんと診断された。肝臓の右半分が腫瘍で覆われており、手術で治る見込みはないと医師から告げられた。

 ランさんのがんは浸潤性で、ダナン病院の医師はダナン腫瘍病院での治療を提案したが、西洋医学の治療を受けるお金もなかったため、家族はランさんを自宅に連れて帰ることにした。

 そして、チーさんは村の長老たちに会いに行き、兄の病気が治るように供え物をして祈りを捧げた。ランさんが病気になってから、チーさんは10回近く、1回につき鶏8羽を捧げた。

 その費用は2000万VND(約9万5000円)にも上り、家のお金はすっかりなくなり、近所の店の主人たちからお金を借りてバナナや籐など森にあるものを売っては借金を返済した。しかし、何度供え物をしてもランさんの病状は改善せず、自宅には食べ物が入った鍋だけが残り、それで数日間をしのいだ。

 それからチーさんは、兄を連れて自宅から約90kmも離れたクアンガイ省ビンソン郡の漢方医のもとへ通い始めた。漢方医は良心的でお金を受け取らなかったが、たどり着くまでの道のりは長く、毎回バイクが故障した。しかし、兄弟には修理費を支払うお金もなく、数か月通った後、テト(旧正月)が開けると足が遠のいてしまった。

 最近はまた、痛みを和らげるために森の薬草に頼っているという。

 病気のせいでランさんは仕事ができなくなり、森にも入らなくなった。ランさんは自宅にこもり、時々食べ物を買いに外に出るくらいだ。自宅にある2つの土鍋は、以前は1つが森用、1つが自宅用だったが、ここ半年は1つが水用、1つが薬用になっている。

 物事は重なって起こるもので、実はランさんのがんが発覚した直後、チーさんも腹痛に苦しんだ。しかし、チーさんは一家の大黒柱で、兄のランさん、妻、13~20歳の3人の子供を養わなければならないため、健康を維持するには仕事を減らすしかなかった。

 兄のランさんが痛みに苦しんで身もだえする様子を目にして、チーさんは心が痛んだが、どうすればよいのかわからなかった。ランさんは40年間も森で古代人のような生活を送っていたのに、なぜ今になって病気になったのかも理解できなかった。

 医師や親戚たちの言葉からチーさんが説明するには、おそらくランさんは森にいる間は酒を飲まなかったが、村に戻ってから酒の席に誘われることが多くなったこと、もしくはランさんが食べ物に調味料を入れすぎることが病気の原因ではないかということだ。

 幸いなことに、ランさんは痛みを感じながらも「がんという病気」が何なのかわかっていないため、恐怖は感じていないのだという。

 ランさんはもうバナナを育てたり、畑を耕したり、水牛の世話をしたりすることはなくなり、弟のチーさんが持ち帰った材料を使って自宅にこもってかごやざるを編み、近所の人たちに売っている。3日がかりでようやく1つが完成し、6万~7万VND(約285~330円)で売る。こうして収入を得ながら、兄弟はなんとか食いつないでいる。

 チーさんは兄に薬を手渡しながら、「どうにかして兄の病気を治してあげたい、痛みを和らげてあげたいと願うばかりです」と語った。


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40年間もジャングルで生活していた父子を保護(2013年8月10日配信)
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村に戻って早6年、ジャングル生活40年の「森の人」は今(2019年4月7日配信) 

[VnExpress 10:39 20/05/2021, A]
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