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[特集]

妻の前夫が事故で寝たきりに、8年続く「妻1人に夫2人」の一家の生活

2021/07/04 10:24 JST更新

(C) vietnamnet
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 妻の前夫が交通事故で外傷性脳損傷を受け、一生寝たきりになってしまうことを知ったグエン・バン・キエンさん(31歳、南部メコンデルタ地方アンザン省チャウドック市ビンテー村在住)は、前夫を家に迎え、妻とともにこの8年間世話を続けている。

 昼前の11時、キエンさんは荷車で売っている野菜が残りわずかになり、10万VND(約480円)以上の利益が出たことを確認し、帰ることに決めた。家に着くと急いで顔と手足を洗ってから台所に向かい、お椀に盛った白米と数切れの豚肉を持ってベッドに横になっている男性の元へ行き、「起きてご飯を食べましょう」と呼びかけた。食事の間、キエンさんは男性が食べ物を喉に詰まらせないようにこまめに水を飲ませた。

 「彼は私の妻の前夫です。事故に遭って寝たきりになってしまったため、私の家で面倒を見ているんです」と、キエンさんはベッドにいるグエン・バン・ベー・ハイさん(44歳)を紹介した。ベー・ハイさんは8年前に交通事故に遭い、外傷性脳損傷を受けた。

 ベー・ハイさんは四肢麻痺を起こし、片目も負傷しているため1か所に横たわることしかできないが、幸いにも意識ははっきりしており、普通に会話することができる。ベー・ハイさん自身も、なぜキエンさんが自分にここまで尽くしてくれるのか理解できないという。

 「前夫は私に、『キエンは両親のように自分によくしてくれる』と泣きながら何度も言います。夫がいなければ、前夫は生きてこられなかったでしょう」と、キエンさんの妻であるグエン・ティ・ビック・ティエンさん(34歳)は言った。

 キエンさんは南部メコンデルタ地方キエンザン省出身で、小さい頃に母親が家を出て行ったため、父親が1人で子供たちを育てた。キエンさんたち3人のきょうだいは、小さいうちから雇われ労働者として働き、成長してからは地元の人たちについて南部メコンデルタ地方ソクチャン省に出稼ぎに行き、溶接工として働いた。

 その下宿先で、キエンさんは離婚して1人で幼い子供を育てているアンザン省出身のティエンさんと知り合った。ティエンさん母子が苦労している様子を見て、キエンさんは自分の作る食事を一緒に食べるよう説得した。ティエンさんは毎日食事代として5万VND(約240円)をキエンさんに渡したが、月末になるとキエンさんは養育費としてとっておくように言って、そのお金を返した。

 ある時、ティエンさんが高熱を出した際、キエンさんは仕事を休んでティエンさんを救急病院に連れて行き、3日3晩家で看病をした。時が経つにつれ、キエンさんの中でティエンさんへの特別な感情が育まれていった。

 隣人の年下男性からの好意に気付いたティエンさんは、あえて素知らぬふりをした。1児の母だったティエンさんは、まだ若いキエンさんはこれからもっと良い女性に巡り会えるだろうと考えたのだ。

 ある時、酒に酔ったキエンさんはティエンさんの部屋のドアを叩き、自分の気持ちを告白した。ティエンさんは「何を言っているの。弟みたいな年齢で、何が愛よ」と叱りつけたが、冷たくされてもキエンさんは諦めなかった。

 翌日、酔いが覚めたキエンさんは、再びティエンさんに気持ちを伝えた。そして、父親は遠くに出稼ぎに行ってしまい、小さい頃は父方の祖母に育てられたが、その祖母も今は亡くなってしまった、という自身の生い立ちについて語った。キエンさんはティエンさんと出会い、交流を続けるうちに、自分には家庭が必要だと気付いたのだった。

 8年前のティエンさんの誕生日、キエンさんは大きなケーキに添えて結婚指輪を用意し、ひざまずいてティエンさんにプロポーズをした。キエンさんの誠実さに触れ、ティエンさんは頷いて同意した。2日後、2人は婚姻届を提出し、正式に一緒に暮らすようになった。

 結婚生活が始まって5日目、雨風の激しかったある夜に、ティエンさんは前夫のベー・ハイさんが交通事故に遭い、外傷性脳損傷により救急搬送され、脳外科手術が必要だという知らせを受けた。ベー・ハイさんはもともと孤児で、離婚後もティエンさんの両親が残した古い家に1人で暮らしていたため、手術の同意書に署名する身内が誰もおらず、病院がティエンさんに連絡したのだ。

 悪い知らせを受け、ティエンさんは急いで荷物をまとめ、故郷に帰る支度をした。そして、離婚してから前夫には何の感情もないが、不憫な状況で彼を放っておくことはできないとキエンさんに説明した。さらに、この複雑な三角関係に巻き込まれたくなくて離婚を希望するのであれば構わない、と提案したが、キエンさんは「あなたがどこに行こうと、ついて行く」と断言した。

 病院で、夫婦は交代でベー・ハイさんの世話をした。ティエンさんには心臓の病気があり疲れやすかったため、入浴や食事などの介助はキエンさんが担当した。ある時、医者にベー・ハイさんとの関係を聞かれたキエンさんは、「実兄です」と答えた。こうしてキエンさんはこの8年間、ベー・ハイさんの入浴や食事の介助を受け持ってきた。

 妻と共にアンザン省で介護をしているため、キエンさんは遠方へ出稼ぎに行くことができず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が広がる前は、建設現場の作業員や魚釣り、飲み物売りなどの仕事をしていた。しかし、新型コロナの影響でこの数か月はそうした仕事も減ってしまったため、野菜の行商の仕事に切り替えた。

 妻のティエンさんは、以前は宝くじを売って夫を支えていたが、現在は出産を控えているため家で過ごし、ティエンさんが翌日売りに行く野菜の選別を手伝っている。

 キエンさんは、家族5人が食べていけるように一家を支える大黒柱でありながら、家に帰ると家事にも奮闘している。3人目を妊娠中のティエンさんはつわりがひどく、キエンさんは妻に負担がかからないよう、毎朝4時に起き、掃除洗濯をしてから野菜を売りに出かけている。

 昼に一旦家に戻り、ベー・ハイさんの食事介助をしてから、午後には翌日に売る野菜を取りに行き、帰宅してベー・ハイさんの入浴介助をする。一方のティエンさんはそれらの仕事を手伝いながら、14歳になる前夫との息子と、5歳になるキエンさんとの息子の世話をしている。

 「献身的な夫を見ると『なぜそんなに私を愛してくれるの?』と聞いてしまいます。夫はただ『妻を愛さないで誰を愛するというんだ』とだけ答えます」とティエンさん。近隣の人たちから、キエンさんのような良い夫と結婚する秘訣を尋ねられる度に、ティエンさんは誇らしげな気持ちになる。

 キエンさん夫婦の家の隣に住んでいるティエンさんの父親のグエン・バン・ガイさん(75歳)は、高齢で持病も複数あるため何度か救急病院へ行かなければならなかったが、その際にはいつもキエンさんが病院まで付き添い、薬を買って飲ませてくれたのだと教えてくれた。

 8年前にキエンさん夫婦がベー・ハイさんの面倒を見ると家に連れて帰ってきた時に、「妻1人に夫2人」が一緒に暮らすということを誰もが心配していたなどガイさんも忘れてしまうほど、3人は今日まで幸せに、互いに思い合って過ごしている。

 最近、キエンさん夫婦とベー・ハイさんの状況が一部のスポンサーに知られるようになり、3人は独立したトイレとキッチンを備えた、より広々とした家に修繕するための資金援助を受けることができた。また、この資金援助により、それまで鉄製の荷車を改造したものに体を丸めて横になっていたベー・ハイさんも、自分のベッドで横になることができるようになり、体重が70kg以上あるベー・ハイさんの入浴介助の負担も減った。

 8年前、キエンさん夫婦は資金がなく、結婚式を挙げることも、夫婦の写真を撮ることもできなかった。家の修繕が完了した今、キエンさんは他の家族と同様に、壁に夫婦の写真を飾りたいと考えていた。キエンさんは、200万VND(約9700円)の貯金ができたら妻をスタジオに連れて行って写真撮影をする計画を立てていたが、お金が貯まる前にティエンさんは再び妊娠した。

 キエンさんは、「子供が生まれるのを待ってから、家族全員で記念写真を撮ろう」と妻に言った。キエンさんは写真を飾る予定の壁を指差し、写真に写る家族1人1人の顔を思い浮かべた。そして、その写真の中でベー・ハイさんは欠かすことのできない家族の一員なのだと教えてくれた。 

[VnExpress 05:05 17/06/2021 / Vietnamnet 04:30 21/06/2021, A]
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