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[特集]

新型コロナ死者の遺影を無料で作成、遺族に寄り添う

2021/10/03 10:19 JST更新

(C) vnexpress
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で愛する人を失いながらも故人の遺影が作れないという家庭がたくさんあることを知り、グエン・アンさん(男性・33歳)は遺影の作成を無料で引き受けることにした。

 新型コロナで家族を失った1人であるホーチミン市ホックモン郡在住のラム・ホアン・ティエンさん(男性・31歳、南部メコンデルタ地方キエンザン省出身)は、アンさんのおかげで亡くなった母親の遺影を祭壇に飾ることができた。

 ティエンさんは8月の初めに母親を亡くしたが、祭壇を置くことができたのはティエンさん自身の隔離措置が終わった後、母親が亡くなって10日以上が経ってからのことだった。遺影はなく、古いアルバムの中から2011年に撮影した母親の写真を見つけ、間に合わせとして祭壇に飾った。雨風の強い日には部屋に吹き込んだ風で写真が舞い落ち、ティエンさんは心を痛めた。

 ティエンさんは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を眺めていたあるとき、新型コロナで亡くなった故人の遺影を無料で作ってくれるというサービスを目にし、助けを求めてメッセージを送った。

 翌日に修整された写真のデータが届いた。外出禁止の措置が講じられる中、地元の民兵の協力を得て印刷屋で遺影を印刷することができた。「これである程度は母の魂も慰められたでしょう。私たち家族も気持ちが少し和らぎました」とティエンさん。

 遺影の作成を無料で引き受けているアンさんは、ホーチミン市ゴーバップ区にあるユニフォームのデザイン・制作会社の社長を務めている。遺影の無料作成についてアンさんはこう説明する。「この仕事をすべきかどうか、2週間考えました。遺影を無料で作成するとSNSに投稿すれば、遺族をばかにしていると思われるのではないかと怖かったんです」。

 しかし、ホーチミン市の感染状況が深刻化し、多くの人々が命を落としている現状を目の当たりにしたアンさんは、すぐに行動しなければと考えた。アンさんはSNSのグループに告知を投稿するにあたり、事前にグループの管理人にメッセージを送り、理解を求めた。いざ投稿してみると、驚いたことに多くの人たちから支持され、投稿も広くシェアされていった。

 アンさんの当初の計画は、遺族から故人の写真データを受け取って修整を加え、印刷して自宅に届けるというものだった。しかしながら、厳しい社会的隔離措置の真っ最中だったホーチミン市ではかなり骨の折れる仕事で、印刷屋が見つかっても配達員が見つからないという状況だった。

 最終的に、アンさんは受け取った写真データを修整し、データを遺族に送り返すだけにした。印刷屋が見つからないという遺族には、携帯電話に遺影のデータを保存して、線香を手向けるたびに画面に遺影を表示させることを提案した。

 最初の1週間で30~40人から故人の写真のデータを受け取った。そのほとんどが古いIDカードの証明写真の部分を撮影したもので、ぼやけてしまっているケースも多かった。多くの依頼人は、故人の鮮明な写真が見つからなかったり、元気だったにもかかわらず突然亡くなってしまったため遺影の準備などしていなかったりと事情があった。

 鮮明な写真であれば15分もかからずに修整できるが、画質の低い写真の場合は肌や髪の毛の色の修整から「衣服の着せ替え」まで、半日かかってしまう。午前2時までパソコンの前に座って作業する日も多々あった。

 アンさんが受け取った依頼メッセージの中で忘れられないのが、段ボールに貼り付けられた3×4cmの写真で、女性の氏名、生年月日、死亡年月日が書かれていた。

 メッセージを送ったグエン・ティ・ホアさん(女性・33歳)によると、故人は義理の姉だという。「義姉は妊娠23週目でしたが、新型コロナで母子ともに亡くなってしまいました。残された兄は男手1つで幼い子供2人を育てています」とホアさんは教えてくれた。

 アンさんはまた、新型コロナで父親を亡くしたという青年からも依頼を受けた。依頼を受けた翌日、同じ青年から「もう1枚お願いできますか?」と連絡があった。アンさんが受信したデータを開くと、前日に依頼を受けたのとは別の人の写真だった。「父方の祖母も亡くなったんです」と青年は付け加えた。

 他にも多くの人が短期間のうちに2人、時には3人の故人の写真データをアンさんに送った。「私が依頼を受けた写真のおよそ20%が30歳未満でした。写真が次々と送られてくる中、私は生死の境がいかに薄弱なものなのか実感しました。もはやお金は何の意味もなく、普通に息をしている、それだけで幸せなことなんです」とアンさんは語る。

 アンさんは新型コロナの影響で4か月近くも会社を休業しているが、このことに気付けた自分は幸運だと感じている。

 アンさんのモチベーションとなっているのは、多くの依頼人が故人のために遺影を飾って祭壇を整えることができて心の痛みが和らいだと打ち明けてくれることだ。一方、アンさんの行動もまた、遺族にとって悲しみを乗り越え、さらに他の人たちの役に立ちたいというモチベーションになっている。

 アンさんに母親の遺影を作成してもらったティエンさんは、諸々の手続きを終えた後、仮設病院に入院する感染者のケアをするボランティアに登録した。「母が亡くなったとき、たくさんの人たちが助けてくれました。だから今度は私が助ける番です。新型コロナによって悲しみに耐えなければならない人がこれ以上増えないことを願っています」とティエンさん。

 アンさんにとって今の一番の願いは、依頼人がゼロになることだ。「最近は一時期に比べて依頼人が減ってきました。これは、新型コロナが徐々に収束に向かっているという前向きな兆候だと思っています」とアンさんは語った。 

[VnExpress 12:44 22/09/2021, A]
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