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[特集]

ホーチミンの「資源回収集落」に暮らす人々、集団感染で生き死にの境

2021/11/28 10:44 JST更新

(C) thanhnien
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の襲来で、ホーチミン市の「資源回収(ベーチャイ=ve chai)集落」に暮らす人々のほとんどが感染者(F0)となり、多くが生き死にの境に直面した。集団感染(クラスター)の発生から2か月が経った今、ホーチミン市はニューノーマル(新常態)に移行し、住民たちはウィズコロナの生活に喜びを感じる一方で不安もぬぐい切れずにいる。

「ズアさんは入院してそのまま亡くなったのかもしれないね。彼が生きているのか死んでいるのか誰も知る由もないけれど、皆気にかけて連絡を待っているんだ」。

「彼は身体も弱かったしね。ここの皆は彼のことをあまり知らないんじゃない。何歳だったかな」。

「いやだ、まだ70歳そこらだったと思うけれど。元気にバイクタクシーの運転手をしているのを見たよ」。

―――――

 この「ベーチャイ集落」は、ホーチミン市ビンタイン区26街区にあり、「ルオン(Ruong)集落」とも呼ばれている。集落の奥の川沿いにあるグエン・バン・ズアさんの部屋は、ここ2か月間静かなまま扉が閉まっている。

 ズアさんが感染者となって救急車で搬送された日から、住民たちは気が気でない。ズアさんは何年も1人暮らしで、部屋を訪ねてくる知人もいなかった。

 ズアさんだけでなく、この集落の28部屋に暮らす人々のほとんどが、老若男女問わず感染者となった。検査で陰性だったのは3人だけで、この3人は隔離施設に移送された。残りの人々は皆、自宅療養となった。この集落がこんなにも静かだったことは、今だかつてなかった。

 ここが「ベーチャイ集落」と呼ばれている所以は、部屋を借りている住民の9割が資源回収の仕事をしているためだ。残りの住民はミエンドン(東部)バスターミナルで荷物運びをしている。住民の出身は北部、中部、南部メコンデルタ地方と様々だ。

 ホーチミン市がニューノーマルに移行してからも、多くの人がすでに検査で陰性の結果が出ていながら後遺症に苦しんでおり、資源回収の仕事に復帰できないでいる。

 住民のファム・ティ・ソンさん(女性・64歳、北部紅河デルタ地方タイビン省出身)によると、クラスター発生後は街区の医療当局から薬が配布されたという。集落では、感染したトゥーさん(女性・73歳)が亡くなり、ズアさんが音信不通になったほかは、皆比較的軽い症状で済んだ。

 「感染して死んだようになり、4日間は寝たきりで何も食べられず、嗅覚もなくなりました。近所の人たちは私が死んでしまうと思ったようで、以前よく資源を出してくれていた東部バスターミナルの人たちからも電話がかかってきました。でも、5日目にやっと温かいスープやお湯を口にすることができて、街区からもらった薬も飲むことができたので、徐々に回復していきました。十数日後には検査の結果も陰性でした」とソンさんは語る。

 新型コロナの影響で何か月も仕事がなくなり、さらに自分が感染者となり、ソンさんをはじめ集落に暮らす多くの家族が家賃を滞納した。しかし幸いなことに大家は理解があり、払えるだけ払ってくれればよいからと言ってくれた。また、ここが貧しい集落だと知っている人々が米や野菜、魚を差し入れてくれるおかげで、住民たちはまた1日をやり過ごすことができている。

 ソンさんの部屋から数ブロック離れたところに住んでいるチャン・ディン・ロイさん(男性・83歳、南中部沿岸地方ニントゥアン省出身)は、糖尿病の合併症により片脚の一部を切断したばかりだ。ベッドに腰かけて大音量で音楽を流すロイさんは、東部バスターミナルで水を運ぶ仕事をして長年かけて貯めた5000万VND(約25万5000円)でこの部屋を買い取った(正確には、家賃を支払わない代わりに一定額を大家に支払い、契約期間の終了後に借主は部屋を返し、大家は現金を返すという契約)。

 ロイさんは車椅子に乗って資源回収をする。資源を出す人たちは、ロイさんへの気持ちとして資源と一緒に少しの現金を渡している。倹約家なロイさんは、得たお金をすべて貯金しているため、今後病気をしても心配ないという。

 感染者となったトゥーさんが亡くなったとの知らせを受けた日、集落中がパニックになった。どの部屋にも感染者がいたからだ。感染者たちは皆、味覚を失い飲み込むことすらやっとだったが、とりあえず少しでもお粥やスープを口にしてお腹を温めた。

 グエン・ティ・フオンさん(女性・61歳)は、娘と2人の孫と一緒に暮らしている。上の孫は13歳で、家賃の足しにするため雑用の仕事をしている。下の孫はまだ生後1か月だ。娘が出産のために入院した日は、娘の陽性が判明した日でもある。今は家族全員で一緒に居られるが、下の孫のミルクやおむつを購入するため、フオンさんは午前・午後・夜の1日3回、資源回収の仕事に出ている。

 「資源回収での収入は孫のミルクやおむつと家賃の支払いに充てます。8月分と9月分は大家さんが家賃を免除してくれましたが、10月分は全額支払わなければいけません。何か月も家に居たので、どんなに疲れていようと、仕事に行って稼ぐしかありません」とフオンさん。

 ファン・ティ・ゴーさん(女性・69歳、南部メコンデルタ地方ドンタップ省出身)は、幸い感染者にはならなかったが、ホックモン郡の隔離施設で20日間を過ごした。夫も子供も亡くなっており、広さ10m2の部屋に2匹の猫と一緒に暮らしている。ゴーさんは毎日、自転車でバーチエウ(Ba Chieu)市場やタンディン(Tan Dinh)市場の近くの路地裏を回って資源を回収し、お金を稼いでいる。

 この集落がある地域の町内会長であるファム・ゴック・トゥイさんによると、集落の住民は主に他の地方の出身で、部屋を借りて資源回収や肉体労働の仕事をしている低所得者だという。

 集落でクラスターが発生してから、周囲の人々が差し入れをするなどして住民たちを支えているほか、街区の当局も、一時滞在登録をしていない一部の住民が新型コロナ支援の給付金を受け取ることができるよう、手続きの便宜を図っている。

 こうして、この「ベーチャイ集落」の生活も落ち着きを取り戻しつつある。 

[Thanh Nien 13:12 09/11/2021, A]
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