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[特集]

自閉症の少年画家たちの夢、絵画で人生を彩る

2022/05/22 10:21 JST更新

(C) vnexpress
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 2021年12月、「障がい者が学校に通う権利」というテーマで開催された絵画コンテストで最優秀賞を受賞した17歳のチャン・ナム・ロンさんは、成功に満ちた1年を締め括った。

 障がいを持つ子どもたちが他の多くの子どもたちと同じように学校に行くことを渇望している思いを表現したロンさんの2作品「私は彼のようになりたい(Minh muon duoc nhu anh ay)」、「友達と一緒に(Cung ban)」は、ハノイ地区で唯一の最優秀賞だ。

 少し前の2021年9月には、ロンさんが描いた風景画4作品と母親を描いた1作品の合計5作品が、イタリアで開催された障がい者のための美術展でベトナム代表として展示された。

 ロンさんの母親フン・ヒエウさんにとって、これらの功績は聴覚障がいと重い自閉症を持つ息子からの思いがけない贈り物となった。

 ヒエウさんによると、ロンさんは10年以上前に重度の肺炎にかかり、高用量の抗生物質を服用してから周囲の音に全く反応しなくなり、診察の結果、聴覚障がいが判明した。

 ロンさんは2歳の時、喉をゴロゴロ鳴らしたり、つま先で走ったり床に横になるのが好きだった。母親の子守唄を聞いても声を出して笑うだけで、ベッドの上で長い時間もがき続けた後に、ようやく眠りにつく日々だった。

 自分の息子がどこかおかしいと気付き、ヒエウさんはロンさんを病院に連れて行った。結果、ロンさんは多動性障がいを伴う自閉症スペクトラム障がいであると告げられた。

 ロンさんが学校で学べるよう、ヒエウさんはハノイ市タインスアン区の聴覚障がい児のための学校にロンさんを通わせることにした。ロンさんの送迎や家庭学習のサポートをするため、ヒエウさんはパートでできる家事手伝いの仕事に転職した。

 ロンさんは毎食後、牛乳パックをストローで最後まで飲み切る練習や、机の上に丸められた薄い紙を息で吹く方法を教えられた。また、アイコンタクトを取る方法を学ぶため、ヒエウさんに抱えられながら鏡に向かって会話する練習もよく行われた。

 1年以上も真面目に練習を続けた結果、ロンさんは相手を見ながら会話ができるようになり、また母親がからかうと笑えるようになった。

 ロンさんが3歳の時、ロンさんが学校からの帰り道に目にしたものを記憶してスケッチするのを見て、ヒエウさんは息子に絵を描く才能があることに気づいた。それからは週末のたびに外の景色を描きに親子であちこちに出掛けるようになった。

 家計が一時的に落ち着いた2016年10月、ロンさんはヒエウさんに連れられて美術センターに通い始めた。しかし、その矢先にロンさんの父親が交通事故で突然亡くなってしまった。経済的な負担がヒエウさんの肩に伸し掛かり、ロンさんは家で過ごすしかなくなった。

 それでもロンさんは絵画を学びたがり、毎日ドアの前に立って、いつになったらまた美術センターに行けるようになるのかと母親に尋ねた。熱心に待ち続ける息子の様子にヒエウさんは心を痛め、何日も考えた後、ある週末に息子をバスに乗せて美術センターに連れて行った。それは、夫の死から4か月が経ったころだった。

 2016年11月、以前お世話になった先生から「子供の感覚」というテーマで青少年絵画コンクールが開催されることを知らされ、ヒエウさんはロンさんの絵画2作品をコンクールに応募した。

 ハノイ市の旧市街を描いたロンさんの作品は特別賞を受賞し、1億VND(約55万円)でオークションにかけられ、子供のための慈善基金の支援に充てられた。審査員の1人は、「この子の思考はもはや子供ではなく、大人のようだ」と称賛し、ロンさんに無料で絵画を教えることを受け入れた。

 その審査員の先生のレッスンは週4~5回、7か月間にわたって続き、ヒエウさんは毎日午後になるとロンさんをアトリエに連れて行った。初めてキャンバスと筆の使い方を教えてもらった時、当時11歳だったロンさんはまるで自分自身の世界に戻ってきたかのような様子だった。

 ロンさんはペンでサイズを測りながら描くのではなく、全てを想像しながら描く手法をとった。まずキャンバスに向かってイメージしながら手を動かし、それから実際に筆を使って描き始める。「描き始める前に、キャンバスの枠内に描く全てのものを配置しているんですよ」とヒエウさんは教えてくれた。

 ロンさんが本格的に絵画の道に進み始めてから、息子がより深く学ぶことができるようヒエウさんは積極的に美術グループの集まりに参加するようになった。ロンさんが17歳になった現在は、有名な画家や建築家が名を連ねるハノイ市旧市街の風景画を専門に描くグループの一員になっている。2018年にはロンさんの絵がコンテストに応募するための作品としてグループ内で選ばれ、「画家ブイ・スアン・ファイ−ハノイへの愛」と題した展覧会で入賞を果たした。

 2020年3月末、政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染防止対策を支援するための絵画オークションが行われ、ロンさんは「トーヒエンタイン通り39番地の家」というタイトルの絵を出展した。

 オークションの末に、アクリル絵具で描かれたロンさんの作品は匿名で2500万VND(約13万8000円)の値で落札された。ヒエウさんはその金額の半分をベトナム祖国戦線の口座に振り込み、残りはロンさんの骨移植手術の費用に充てた。

 2021年6月、ロンさんは3度目の手術を受け、手術後は以前のような疲労感を感じることなく自分1人で歩くことができるようになった。

 現在、中央芸術師範専門学校の聴覚障がい学部8年生になったロンさんは、すでに完成している150作品を展示する自身の個展を開くことを夢見ている。ロンさんの好きな絵画のテーマは建築で、中でもハノイ市旧市街の絵を描くことに熱意を持っている。

 「将来は画家になって、母の助けになれるようたくさんお金を稼ぎたいです」とロンさんは手話を使って説明してくれた。



 ロンさんと同様に、ベトナムと韓国のハーフで自閉症児であるリー・グエン・セへさんもまた、ベトナム国内の絵画コンクールで多くの賞を受賞している。

 セヘさんは生後20か月の時、ただ前に走り続けることが好きで他には何も関心を示さず、アイコンタクトも取らないことから自閉症が発覚した。セヘさんが自閉症と診断されてから、母親のアイン・バンさんは息子に寄り添ってサポートを続けている。

 6か月間にわたり専門の支援センターに通ったもののセヘさんの状況は進展せず、泣き続ける日々だった。そんな中、他の子供たちと交流させる目的で、バンさんはセヘさんを普通の幼稚園に通わせることにした。

 午前中は幼稚園に行き、午後は支援センターに行き、夜は先生の家で個別指導を受けた。毎日それぞれの時間に間に合わせるのに忙しく、バンさん親子は家に帰って食事をする代わりに、いつも持参した夕飯を路上で食べていた。

 セヘさんは話すことができず、簡単な概念の区別もできなかったため、バンさんは自身で独自の指導方法を探し、言葉の反義語を判別できるよう視覚化して教えた。例えば、「ある」、「ない」という言葉を教えるために、物を目の前に置いて見せてから隠すという方法を取った。

 また、アイコンタクトの練習のため、バンさんは仮面をして目に注意を向けるよう工夫した。さらに、セヘさんの気に入っていたおもちゃも教材にした。苦労が実を結び、セヘさんは生後32か月の時にようやく初めての言葉を口にした。

 セヘさんが4歳の時、バンさんは息子が紙に落書きをするのが大好きだということに気づいた。それからバンさんは息子のために絵画教室を探したが、セヘさんが落ち着いて座っていられないという理由で、受け入れてくれる教室がなかなか見つからなかった。最終的には家の近くにある小学校の美術の先生が、セヘさんを生徒として受け入れてくれた。

 6年後、絵画はセヘさんが世界とつながるコミュニケーションの手段の1つとなった。セヘさんはいつも自分が好きなテーマについて絵を描き、さらにその分野について深く考察した。

 花や植物が好きだった時期には、セヘさんは何十種類もの草花について調べてから、たくさんの草花の絵を描いた。またある時は楽器に興味を持ち、様々な弦楽器、管楽器、笛の絵を描いた。また別の時には50種類以上もの世界の国旗の絵を描いた。現在は、自分で思いついた風変わりなキャラクターのイラストを書くのが好きなのだという。

 セヘさんの描いた絵は、恵まれない子供たちを支援する社会的企業のタオル、スカート、ノート、カバンなどの商品に印刷されている。また、地域の様々な絵画コンクールで多くの賞を受賞しており、2021年に開催された国家絵画コンクールでも作品が展示された。

 絵を描くことだけでなく、セヘさんは英語の勉強や料理にもとても興味を持っている。セヘさんは毎日朝早く起きて、サンドイッチ、目玉焼き、炒飯など自分の朝食を作っている。また、以前は母親のバンさんが横に座って一緒に勉強していたが、今ではセヘさん1人で勉強し、宿題もしている。「息子はクラスの中でも成績が良い方なんですよ」とバンさんが教えてくれた。

 セヘさんが絵の勉強を始めてから7年が経った現在、家の中には学習机とベッド以外の部屋中に様々な種類の数百点におよぶセヘさんの絵画が飾られている。風景でも人物でも、また静画でも賑やかな絵でも、セヘさんの作品はどれもカラフルで、それは11歳のセヘさんの魂のように美しい鮮やかさに満ちている。 

[VnExpress 07:00 05/04/2022, A]
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