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[特集]

コロナで逝った女友達との約束、「父ふたり子ひとり」の子育て

2022/07/24 10:21 JST更新

(C) dantri
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 グエン・バックさんと同棲中に、タイン・リンさんは女友達との間に子供ができた。しかし、子供が生まれて1か月も経たないうちに、母親は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により幼い我が子を残してこの世を去ってしまった。彼女は生前に残した手紙で、自分の代わりとしてリンさんのパートナーであるバックさんに子供を託した。

 6月のある夜、リンさんとバックさんの同性カップルは、結婚式に出席するため、息子を連れて出かけた。息子のあだ名はトラを意味する「コップ(Cop)」。会場に到着してコップくんのおもらしに気付いたリンさんは、バックさんを連れて急いでトイレに駆け込んだ。

 リンさんは、バックさんが準備していたおむつや着替えを持ってきたつもりだったが、うっかり全てを家に忘れてきてしまった。リンさんがあたふたしているそばで、バックさんは落ち着いてホールに戻り、友人からバイクの鍵を借りて必要なものを買いに行った。

 「子供をきれいに拭いて、荷物をまとめてやっと披露宴会場に入り、席についたら周りはもう1品目の料理を食べ終えたところでした」とリンさん。

 コップくんはリンさんの実の息子だ。「LGBTQ+」の中で、リンさんはB、いわゆるバイセクシュアルにあたる。ある日のパーティで昔からの女友達と再会し、酔った勢いでかつて好きだったと告白されたリンさんは、その女友達とときどき会うようになり、一線を越えた。そして、彼女は妊娠した。

 当時、リンさんとバックさんはパートナーになって5年が経っており、同棲もしていた。バックさんはG、いわゆるゲイだ。

 女友達は教会で育った孤児で、子供の父親であるリンさんとは結婚もしていなかったため、彼女自身も妊娠は受け入れがたいものだった。それでも新しい命を失う勇気が出ず、一方でリンさんにバックさんと別れてほしいと強要できないこともわかっていた。

 リンさんはというと、パートナーであるバックさんに後ろめたさを感じつつも、彼女に「産んで」と言うこともできないでいた。そうこうする間に時は流れ、お腹の子供も大きくなり、いよいよ隠し通すことはできなくなった。そしてリンさんはバックさんに「他の人との間に子供ができたんだ」と打ち明けた。

 リンさんはバックさんが悲しんだり怒ったりするものとばかり思っていたが、話を聞いたバックさんは落ち着き払って、3人で会って最終的にどうするか決めようと話し合いの場を設定した。

 話し合いの冒頭でバックさんは、何にせよ中絶だけは反対だと告げ、「子供に罪はないし、大人が間違いを犯したのなら責任を負い、解決しないと。生まれてくる子供の父親と母親として、2人は結婚するべきだ」と言った。

 それを聞いたリンさんは、もしそうなれば愛するパートナーと永遠に別れなければならないとわかっていたため、うろたえた。リンさんは、自分はバックさんだけを愛していて、他の人と結婚しても幸せにはなれないのにと、少しの恐怖が頭をよぎった。

 母親は、子供は産む、でもリンさんとバックさんに育ててほしい、と言った。

 その後、リンさんは子供の母親である女性と一緒に暮らすことはなかったが、彼女を定期健診に連れて行くなど、子供の父親としての責任を果たしていた。

 そして2021年8月に生まれたコップくんを最初に抱いたのはバックさんだった。バックさんは、出生証明書のためにコップくんとリンさんのDNA検査の手続きの準備もした。コップくんを人生で最初の予防接種に連れて行ったのもバックさんだった。

 こうしてリンさんとバックさんはコップくんの親として子育てに奮闘することになる。呼び方も、リンさんは「大きいパパ」、バックさんは「小さいパパ」に変えることにした。

 母乳で育てて2週間が経ってから、リンさんとバックさんはコップくんをホーチミン市の自宅に連れて帰り、リンさんの両親と一緒に育て始めた。その間に母親も退院し、ホーチミン市に戻った。ちょうど、新型コロナの影響で社会的隔離措置が講じられている時期だった。

 それから1週間後、リンさんはコップくんの母親から新型コロナに感染して重症患者向けの仮設病院に入院することになったというメッセージを受け取った。「彼女は出産したばかりで身体も弱っていて、そばに世話をしてくれる人もおらず、基礎疾患も持っていたんです」とリンさんは涙ながらに語る。

 彼女は自分の将来がもう長くないことを予期してか、病院でA4用紙2枚にわたる手紙を書き綴った。「バックさんには、リンさんへの想いと同じように息子を愛し、世話をしてあげてほしいです。リンさんと一緒にあの子を育ててください」。手紙には、バックさんへの感謝の気持ち、自分の代わりにバックさんに「母親」として子供を育ててほしいこと、そして3人で幸せに暮らしてほしいこと……、彼女の心の底からの想いが綴られていた。

 この手紙が2人の元に届くということは、彼女が亡くなったことを意味する。2021年9月のある雨の午後、病院からリンさんにこの手紙が手渡された。

 彼女はこの手紙をバックさんに託し、いつかコップくんが大きくなったら彼に手渡してほしいと望んでいた。そして、自分の代わりの「母親」の役割は、他の誰でもなくバックさんに任せ、バックさんとリンさんの2人で一緒に人生を過ごしてほしいと願っていた。

 バックさん自身は口に出さなかったが、自分が2人を許し、リンさんと一緒に子供を育てることを受け入れたときが、自分が「母親」代わりを務めることを誓ったときでもあった。

 「手紙はバックが棚に保管して鍵をかけています。僕が読みたくなったらバックに鍵を開けてもらって、読み終わったらまたバックに棚にしまって鍵をかけてもらうんです」とリンさんは語る。

 もともと子供好きだったが、バックさんの「母親」ぶりはリンさんにとって驚きの連続だった。コップくんを迎えたばかりのころ、バックさんはリンさんの母親と交代でミルクを飲ませ、おむつを替え、入浴をさせていた。そのころ、リンさんはまだ赤ん坊を抱っこすることすら恐ろしく、おむつ交換もできないでいた。

 当時、リンさんはバックさんが携帯電話で何やら読んでいるところを見かけた。あるとき、何を読んでいるのかのぞき見したリンさんは感動した。バックさんは、乳児の世話について調べていたのだった。

 バックさんは、リンさんにたばこをやめるよう忠告した。最初は同意しなかったリンさんだったが、たばこを吸うときは庭に出るようになり、今やもう完全にやめたという。新型コロナが落ち着いたころ、さらにバックさんは、猫の毛が息子に影響を与えることを恐れて長年子供のようにかわいがってきた猫2匹を手放した。

 また、リンさんがバイクの「スピード王」であることを知っていたバックさんは、リンさんが再び無謀な運転をすることも恐れていた。リンさんが子供を背負って1人でバイクを暴走させた翌日、バックさんはこっそりリンさんのバイク2台をSNSで売り払った。そして、購入した人が受け取りに来て初めて、リンさんは自分のバイクが売られたことを知ったのだった。

 「バックがそういうことをするのは、全て子供のためであり、僕に責任感のある父親になってほしいからだとわかっているので、怒ったりなんてしません。僕自身もだんだん変わってきたと思います」とリンさん。

 子育ては大変で、自分の趣味や楽しみを犠牲にしなければならないが、それでもバックさんはリンさんと一緒に彼の子供を育てる道を選んだことを幸せに感じている。間もなく1歳になるコップくんは体重が10kgに増え、歯も6本生えてきた。

 バックさんは手作りでより美味しいものを子供に食べさせたいという思いから、時間がかかってもミキサーは使わず、ザルでこしてお粥を作っている。

 家事も子育てもバックさんが主に担っているが、バックさんが病気のときにはリンさんが市場に行って、インターネットで調べながらお粥を作ってくれた。バックさんはあまりに驚き、思わず「今までの人生で一番美味しいお粥だった」とSNSに投稿した。「リンを買いたいという人がいても、いくら積まれても売りません」というジョークを添えて。

 バックさんが口だけでなく心から自分と子供を愛してくれていることを小さな行動からも感じ、リンさんは「バックと子供を手放さなかったことは、自分の人生で一番正しい決断だった」と思っている。

 もうすぐ2人はコップくんの1歳を祝う「選び取り」の儀式と自分たちの結婚式を行う予定だ。結婚式の場所は、今から6年前、互いにしばらく連絡が途絶えた後に2人が再会した場所でもある南中部高原地方ラムドン省ダラット市だ。

 再会したのは、リンさんが交通事故で恋人を亡くしてホーチミン市を離れて1年近くが経ったころだった。2人はもともと会社の同僚だったが、しばらく連絡は取っていなかった。そしてある日、たまたま仕事でダラットを訪れたバックさんがスアンフオン湖のほとりに1人で座っているリンさんを見つけたのだった。

 「そのとき、バックは僕の上着を3枚借りて、古い3枚を新しい1枚と交換しようと言ったんです。それが、僕のそばにいたいという意味だったんでしょう。まさかそのぼんやりとした言葉が、今に至るまで一緒にいる運命だったなんて」とリンさんは話す。

 2人は、10月までにコップくんが自分でよちよちと歩けるようになって、2人のパパに結婚祝いの花束を渡してくれたらと願っている。その日には、コップくんの母親からの手紙も皆の前で読むつもりだ。コップくんの母親は手紙の中で、「2人が結婚したら、それは天国からの私の祝福だと思ってください」と書いていたからだ。

 リンさんはまた、息子にこの言葉を送るつもりでいる。「もしママが恋しくなったら、ママは素晴らしい女性だったのだということを思い出して。君にはママもいることを忘れないでほしい。君のママは天使の羽を持った美しい人で、いつも家族のことを見守ってくれているよ。大きいパパも小さいパパも、君も、ママが天国で笑っていられるように幸せに生きていこうね」。 

[Dan Tri 19/07/2022, A]
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