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[特集]

山の上の子供たちに「映画館」を、辺境でのボランティアに尽力する若者

2022/07/31 10:24 JST更新

(C) vnexpress
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 120インチのスクリーンにアニメ映画のオープニングが投影されると、子供たちは歓声を上げた。その様子を見て、ホー・ホアン・リエムさん(男性・33歳)は満足げに微笑んだ。

 これは、国内の山の上に設置された3つ目の移動式映画館で、それまで映画を見たことがなかった100人近い子供たちのために、リエムさんと協力者が進めてきたプロジェクトだ。

 リエムさんは今年1月に南中部沿岸地方クアンナム省ナムチャーミー郡チャーゾン村に、そして5月には南中部沿岸地方ビンディン省クイニョン市カインリエン村に移動式映画館を設置した。

 今回の3つ目の移動式映画館の設置に際して、リエムさんたちは南中部沿岸地方ダナン市からクアンナム省ナムチャーミー郡チャータップ村まで数百km、プロジェクターやスクリーンなどの各種機材を運ばなければならなかった。険しい山道で車では入れない場所もあったため、グループのメンバーは機材を担いで山を登った。

 リエムさんは2年前に移動式映画館のアイデアを思いついた。山岳地帯の子供たちに海や道路を走る車などの写真を携帯電話で見せた時、初めて見るものに子供たちは目を丸くして驚いていた。1人の子供が高層ビルの写真を指差して「これは何?」と尋ねた時、リエムさんは移動式映画館のアイデアを実行することを決心した。

 「映画館は山の上に住む子供たちにとって、心理的にとても遠い存在です。彼らは水牛や鶏、山や小川など、自分たちが生まれ育った場所にあるものしか知らないからです。私は山の上にテクノロジーを運んで、彼らが特別な子供時代を過ごせるようサポートしたいんです」とリエムさん。

 初めてアニメ映画を観たときの子供たちの興奮した顔を見て、チャータップ村のタクポー小学校の教員であるチャー・ティ・トゥーさんは感動せずにはいられなかったという。「これまで子供たちは教員が語る外の世界を自分で想像するしかありませんでしたが、今では自分の目で見ることができます」とトゥーさん。

 トゥーさんによると、学校の建設や食料の支援、学用品の支援のためのボランティア団体が来ることは今までにもあったが、リエムさんの団体のように子供たちやその家族の精神生活にまで関心を寄せてくれるケースは特別だという。

 「山に映画館を運んでくれただけでなく、リエムさんの団体は子供たちに凧やおもちゃの車、ぬいぐるみなどもプレゼントしてくれます。子供たちはリエムさんを『おもちゃの神様』と呼んでいるんですよ。子供たちも親たちも、誰もがリエムさんの団体を愛していて、感謝しています」とトゥーさんは語る。

 リエムさんはダナン市の貧しい家庭に生まれた。幼い頃、ボランティア団体から食料やおもちゃを受け取るために、近所の友達と一緒に昼から夕方まで列に並んでいた。「プレゼントをもらうたび、いつも皆でわくわくしていました。そして、大きくなったら、その時のボランティアの方々のように自分も人に喜びを与えられる人になりたいという夢を持つようになったんです」とリエムさん。

 大学生になると、リエムさんはボランティアグループに参加するようになった。2009年に大学が主催したクアンナム省ダイロック郡ダイソン村の子供たちに贈り物をするプロジェクトの中で、洪水の被害に苦しむ住民を目の当たりにし、当時大学2年生だったリエムさんは何か人々の役に立つことがしたいと切に願った。

 家に帰ると親しい友達数人を誘って、ダナン市内やクアンナム省のタイザン郡、ナムチャーミー郡の辺境に住む、不遇な人々や貧しい学生などへの支援を目的とした「ダナンピンクスマイルクラブ」を立ち上げた。

 当初はスポンサーがいなかったため、リエムさんたち学生グループはキャンディーや花を販売したり、音楽イベントを開催したりして資金を作り、米の寄付を募るなどしながら活動していた。5年後には、ボランティア活動で給与を捻出できるようになっただけでなく、多くのスポンサーが支援を申し出てくれるようになった。

 そして、リエムさんの団体は、ソーラーパネルの設置、浄水器の設置、子供たちの遊び場作りなどの新たなプロジェクトを立ち上げるため、恵まれない環境にある学校を探し始めた。「探せば探すほど、ベトナムにはまだ電気や清潔な水が確保できていない地域、先進的な技術を取り入れられていない地域があることがわかりました。私は、彼らの生活を変えるサポートをしたかったんです」とリエムさん。

 2016年、リエムさんと13人のメンバーはナムチャーミー郡チャーゾン村にある第5村落まで、10時間かけて4つの山を越え、重さ100kgを超える4枚のソーラーパネルを交代で運んだ。「皆、山を登って森を歩いて、疲れ切っていました。手足は傷がついて泥だらけになり、お風呂に入ったように汗をかいていましたが、村落の人たちが待っているんだからと皆で励まし合いながら前に進みました」とリエムさんは当時を回想する。

 ソーラーパネルを設置してから数時間後、夕暮れ時に最初の電球の光が点灯し、第5村落の住民とボランティアのメンバーは抱き合って喜び、涙を流した。「数年前の村内には電気も子供たちの遊び場もない地域がたくさんありましたが、リエムさんたちのおかげで、私たちは辺りが暗くなってもオイルランタンやろうそくを使わずに過ごせるようになったんですよ」とチャーゾン村共産党委員会のホー・バン・ベン書記は語る。現在までソーラーパネルは問題なく機能しており、村人たちに充分な電力を供給している。

 リエムさんの団体は第5村落以外にも、クアンナム省、北中部地方クアンチ省、南中部高原地方コントゥム省、同ザライ省、ビンディン省クイニョン市の学校や村など16か所にソーラーパネルを設置し、明かりを灯している。

 辺境へのソーラーパネル設置のプロジェクトと移動式映画館のプロジェクトは国内外のスポンサーからの信頼を集め、リエムさんたちのグループは新たに口唇口蓋裂の子供たちへの手術支援、困難な環境にある家族やその子供たちの通学支援、孤児支援、またダナン市での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大時の「0VND市場」の展開、貧困家庭への食料デリバリー支援など、様々な活動を展開している。

 リエムさん自身とグループのメンバーは寄付金を受け取っておらず、手術費用やプロジェクトで発生する費用の請求書は、直接スポンサーに送っているという。

 リエムさんは本業の仕事と両立しながら毎週平均して2~3件のボランティアのプロジェクトを展開している。「幸い、家族や職場の上司の理解を得ることができ、今までボランティア活動を続けることができています。それでも自分自身で公私を明確に分けて、仕事のパフォーマンスに影響が出ないようにしています」とリエムさんは教えてくれた。

 12年間のボランティア活動を通じて経済的に困難な地域へ日常的に出向いているリエムさんは、2020年に起きた中部での歴史的な洪水で溺れそうになったり、2019年にナムチャーミー郡で発生した地滑りに巻き込まれそうになったりと、危険な状況に陥ったことも少なくない。

 「危険過ぎない?そろそろ活動を辞めたら?」リエムさんの妻は夫が危険な目に遭ったことを聞くたび、不安を口にする。家族の心配を理解しながらも、まだ助けを必要としている人たちがたくさんいることを知っているリエムさんは、変わらず活動を続けている。

 「私にとって、遠くに行くことや苦労することは問題ではありません。ただ、困難な状況にいる人たち全員を助けることができないことが怖いんです。支援を求める声がなくなり、辺境にも電気と水が行き渡り、全ての子供たちが知識にアクセスすることができるようになったら、この活動を休もうと思っています」とリエムさんは語る。

 リエムさんは、今年9月に北部山岳地帯にも新たに移動式映画館を設置する予定だ。そして、恵まれない地域にもっと多くのソーラーパネルを設置し、先進的な技術を活用できる教室を増やし、困難な地域に住む子供たち、住民たちがより良い生活を送れるよう活動を続けていきたいと考えている。 

[VnExpress 06:28 06/07/2022, A]
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