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[特集]

カンボジアカジノからのベトナム人集団脱走、40人を助けた恩人たち

2022/08/28 10:17 JST更新

(C) vnexpress
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 8月18日、カンボジアのカジノで強制労働をさせられていた約40人のベトナム人が警備網を突破して集団脱走し、南部メコンデルタ地方アンザン省とカンボジア・カンダル州の境を流れるビンジー(Binh Di)川を泳いで帰国するという事件があった。

 ビンジー川流域に暮らすマイ・バン・フンさん(男性・36歳)とゴ・バン・センさん(男性・38歳)は、カジノから逃げ出して川に飛び込み、水に流される人々を目にして、すぐにボートのエンジンを始動して救助に駆け付けた。

 2人はそのときの混沌とした状況を今でも鮮明に覚えているという。

 事件が起きた8月18日午前、ベトナム側のビンジー川岸でセンさんは養殖いかだの魚に餌をやり終えたところで、そのまま近くのいかだにいるフンさんのもとを訪れてお茶を飲みながらニュースを見ていた。

 9時過ぎ、川の向こう側にある7階建てのカジノから叫び声が聞こえた。センさんとフンさんが声のほうに目をやると、数十人の人々が棒のようなものを持った警備員らに追われながら必死に逃げ、次々と川に飛び込む様子が目に入ってきた。2人からの距離は約150m。助けを求める悲鳴が響き渡った。

 お茶を放り捨て、2人はいかだの近くに停泊させてあった全長5m余りのボートに駆け寄り、いつものごとくボートの調子が悪くないことを心の中で祈りながら、ホンダの4.5馬力のエンジンを始動した。「いつもは5回も7回も試してやっとエンジンがかかるのに、そのときは1回目で成功したんです」とフンさんは語る。

 エンジンのかかったボートが川の真ん中までたどり着いたとき、逃げた人々は水に流されていた。センさんは泳げない人を優先して手を差し伸べ、ボートに引き上げた。ボートは3人乗せるともういっぱいだったが、川にはまだたくさんの人々が残されている。そこでセンさんとフンさんは、川の中にいる数人をボートにつかまらせ、ボートで引っ張ってベトナム側の岸に連れて行った。

 1便目の移動には5分もかからず、6人を救出することができた。2人はすぐにまた川に出て、川の流れにもまれている人々の手をつかんだ。同時に、他の3~4隻のボートも駆け付け、地点を分担して救助にあたった。

 4便目、センさんは、泳げない2人がまだカンボジア側の川岸に近い水の中にいるのを見つけた。うち1人のもとには別のボートが助けに行く最中だったため、もう1人の黄色いシャツを着た青年のもとへフンさんの操縦で向かった。そして、今にも沈みそうになっている青年のシャツの首元をやっとのことでつかんだ。ボートに引き上げた青年は、まだ息をしていたが顔は紫色で、白目を剥いていた。

 その日、フンさんのいかだから100mほど離れたところに住んでいるトゥー・ドゥックさん(男性・52歳)も、ボートを出して3人を救助した。助けを求める叫び声を聞くやいなや、ドゥックさんは国境警備隊の駐屯地に走り、それからボートに飛び乗った。水の流れは速かったが、長年の経験ですぐに助けを求める人たちのもとへたどり着いた。「誰だって同胞が危機に瀕していたら助けるでしょう」とドゥックさんは語る。

 ビンジー川を挟んでカジノの向かいの家に住んでいるグエン・ティ・ビック・トゥエンさん(女性)によると、カジノから人が脱走するのはこれが初めてではないという。テト(旧正月)以降、30人近くがカジノから脱走して川を泳いで渡ったというが、これまでは1回に2~3人程度だった。2か月ほど前には男性4人と女性1人の計5人が夜9時ごろに川を泳いで逃げてきたが、そのときも地元住民のボートが救助したのだという。

 「岸に上がると、生き残れたと抱き合って泣いていましたね」とトゥエンさんは振り返る。トゥエンさんや地元住民は、カジノから脱走してきて困っている人たちに渡すための、服や万能薬の油などをまとめた袋を常備している。また、無一文の人たちが家に帰るための交通費を、お金を出し合ってサポートしたりもしている。

 今回の集団脱走で地元住民が最も後悔しているのは、溺れている16歳の青年を救うことができなかったことだ。「急いでボートで近付きましたが、間に合いませんでした。彼は私たちの目の前で沈んでいったんです。すべてがあっという間の出来事で、生と死を分けたのはほんのわずかのタイミングの差でした」と、フンさんは悲しそうな声で話した。

 その後、地元住民らは、救出した40人に食事や服を与え、世話をした。アンフー郡当局は、今回40人を勇敢に救った人々や、救出後にサポートした人々を表彰する計画だという。

 なお、今回の集団脱走では、42人のうち1人が死亡、1人が途中で身柄を拘束されて逃走に失敗した。残る40人(男性35人・女性5人)は地元住民らの救出により、無事にベトナムに帰国した。

 カンボジア当局はカジノの立ち入り検査を実施し、中国人マネージャーを逮捕。中国人マネージャーは取り調べに対し、ベトナム人らに強制労働をさせたことを認めた。カンボジア当局は、人身売買の被害に遭ったとみられる人々を中心に、全国的に同国在住外国人の調査を進めている。

 一方、ベトナム側ではアンザン省警察が、カンボジアにベトナム人らを売り飛ばした4つの人身売買ルートを特定し、関与した2人を逮捕した。 

[VnExpress 20:05 22/08/2022, A]
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