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[特集]

歌手Mr.ダムと歌声そっくり、視覚障害の青年が光を取り戻すまで Mr.本人が自ら支援

2022/11/13 10:20 JST更新

(C) thanhnien
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 男性歌手の「Mr.ダム」ことダム・ビン・フンそっくりの歌声を響かせながら、ホーチミン市の市場で雑貨を売り歩く、視覚障害の男性がいる。彼の歌声を初めて聴いた人は誰もが驚き、それが彼の地声であることを知ってまた感心し、称賛する。

 北中部地方タインホア省出身のファム・バー・ホンさん(36歳)は、スピーカーと商品の雑貨を乗せた荷台を押して、ハスキーな声でMr.ダムの名曲を歌いながら、市場の近くの通りを行ったり来たりする。古びたシャツは汗でびっしょりだ。

 道行く人々はホンさんの歌声を聴き、立ち止まってホンさんから綿棒やキーホルダーを買ったり、何も買わずに「飲み物でも買って」と少しのお金を渡したりする。ホンさんは市場の人たちとも顔なじみで、いつもの店で休んだり、雨やどりをしたりもする。

 ホンさんは、3歳のころに麻疹にかかってから両目が見えなくなった。16歳のときに点字とマッサージと楽器を学ぶようになって以来、ホーチミン市内の視覚障害者たちと知り合う機会が増え、南部で生計を立てることについて電話で語らううちに、ホーチミン市に移住して自立することを決めた。

 最初は宝くじを売っていたが、ひったくりに遭ったり古い番号とすり替えられたりして元手を失ってしまったため、綿棒を売り歩くようになった。それが縁で、ホンさんは生涯のパートナーとも出会った。

 ある日、たまたま結婚式で歌を披露したとき、居合わせた楽器奏者と歌手がホンさんの声を「Mr.ダムにそっくりだ」と褒め、ホンさんに音楽の知識を共有した。これがきっかけとなり、ホンさんはスピーカーを購入して、歌いながら通りを歩いて商売をするようになった。

 ホンさんの家族は農民で、父親は角膜移植手術の費用を得るために故郷からホーチミン市へ出稼ぎに行っていたが、その最中に交通事故に遭い、亡くなってしまった。息子の手術のために父親がホーチミン市で稼いだお金は、父親の死後の諸々に消えていった。

 その後、とあるテレビ番組でホンさんは約4000万VND(約22万7000円)の資金提供を受けた。ホンさん夫婦は、その資金で妻の故郷である南部メコンデルタ地方ティエンザン省に小さなマッサージ店を開いたものの、数か月後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、夫婦の夢はあえなく途絶えてしまった。そして妻子を故郷に残し、1人で再びホーチミン市に戻った。

 そんな中、2021年にホンさんはドイツから帰国した養母のサポートで片目の手術を受け、片目に20~30%程度の薄暗い光を取り戻した。30年以上も暗闇の中で生きてきたホンさんにとって、その光はまるで希望の光のようだったという。

 ホンさんの収入は1日10万~30万VND(約570~1700円)で、ラッキーな日はもう少し多い。移動のバイクタクシーの運賃を差し引いても、十分に暮らしていけるという。ホンさんはいつかホーチミン市にマッサージ店を開き、妻子を呼んで再び家族で暮らしたいという夢を抱いている。

 ――というストーリーが現地メディアに取り上げられると、「歌声がそっくり」とされたMr.ダム本人が記事を読んですぐに反応した。そして、Mr.ダムは自らホンさんにサプライズを仕掛けた。その一部始終をおさめた動画がMr.ダムのユーチューブ(YouTube)チャンネルにアップされ、大きな話題となった。

 ある日の午前9時ごろ、Mr.ダムは、ホンさんがいる1区のタンディン市場に向かった。ホンさんの姿を見つけたMr.ダムはマイクを片手に車を降り、名曲「Xin Loi Tinh Yeu」を歌っているホンさんに背後からゆっくり近づいていった。そして、ホンさんの真後ろで、いきなりデュエットを始めたのだ。

 周りの様子がよく見えないホンさんは混乱しつつも歌い続け、間奏に入ってやっと発した言葉はというと、「あなたは何を売っているんですか?」。そのときを振り返ってホンさんは、同業者が近づいてきたものとばかり思い、「こんなに歌がうまいんじゃ、近くで商売されたらたまったもんじゃないぞ」と焦ったのだそうだ。

 デュエットは続き、まさか本人だとは微塵も気付いていないホンさんはMr.ダムに「歌がうまいですね」と話しかけた。そして1曲歌い終えたホンさんはようやく、「ダムさんの声にずいぶん似ていますね。もしかしてご本人ですか?」とたずねた。すると周りにいた観客たちがどっと笑い、「そうよ、本人よ!」「もっと歌って!」と盛り上げた。一方のホンさんは、「憧れの人に会えた」と大喜びだった。

 それから2人は市場の店に腰を下ろして色々な話をした。そして、心を動かされたMr.ダムは、「君の目を治療するのに十分なお金を手配するから」と約束した。さらに現金2000万VND(約11万4000円)と、自分の楽曲30曲のデータが入ったUSBをホンさんにプレゼントした。「他に好きな曲があれば、電話をくれたら届けるから」と、電話番号も交換した。

 夢のようなサプライズの3日後、ホンさんは、その後Mr.ダムから電話があり、一緒にレコーディングをしようと約束してくれたことを明かした。Mr.ダムから受け取ったお金は、ホンさんの3か月分の収入に相当する。ホンさんはこのお金には手をつけず、故郷にいる妻子に渡すつもりだと話した。

 しかし、ホンさんとMr.ダムの物語はこれだけでは終わらなかった。

<ダム・ビン・フンのサプライズ>


 市場でのサプライズから数か月後、Mr.ダムはホンさんに病院で目の検査を受けさせ、約束した通り、ホンさんの両目に光を取り戻す手術の費用を拠出したのだ。病院での検査には、Mr.ダム本人も付き添った。

 そして11月9日、ついに運命の日を迎えた。執刀医は、世界角膜学会元会長のドナルド・タン氏が務めた。ドナルド・タン氏は角膜移植の分野で世界をリードする名医で、今回の手術のために米国から呼んだ。

 手術は無事に成功し、医師が眼帯を外そうとした瞬間、ホンさんと、付き添っていたホンさんの妹であるファム・ティ・ロアンさん(32歳)は緊張で息を止めた。ホンさんがゆっくりと目を開けると、光が差してくるのがわかり、ホンさんは喜びを噛み締めた。

 ホンさんの目の前には、最愛の妹がいた。ロアンさんは新型コロナで夫を失い、女手1つで子供たちを育てている。それから、医師や看護師、そしてMr.ダムのスタッフの姿もあった。ホンさんは何も言わずに涙を流し、周りを見回した。「これが光であり、これが長年夢見てきた人生だ」と。

 術後でまだ微熱が続いていたが、ホンさんは興奮気味にこう語った。「光が見えるようになったんです。まだちょっとぼやけていますが、先生によれば7~10日ほどで良くなるそうです。長い間、私の世界、私の人生は真っ黒でしたが、今はピンク色です。今は希望に満ちていて、生きる活力が湧きあがってきます」。

 Mr.ダムは仕事の都合でその場に立ち会えなかったが、光を取り戻したホンさんの目で自分の姿を見てもらえるようにと、2人はビデオ通話で話した。

 ロアンさんもまた、術後の経過が順調な兄の姿を前にして、涙を隠せなかった。ロアンさんは携帯電話に保存してある母親と父親、そして妻子の写真をホンさんに見せた。ついに自分の目で皆の姿を見ることができたホンさんは、泣き出したという。

 Mr.ダムによると、手術の費用として2億VND(約114万円)の寄付を集めることができたが、実際には3億2000万VND(約182万円)が必要だったため、残りの1億2000万VND(約68万円)はポケットマネーから拠出したという。

 手術の前のホンさんの目は、顔の前で手を振っても影が見えるだけだったが、手術の後には数m離れた指の本数を数えることができるようにまでなっていた。これから徐々に視力も回復していくという。

 Mr.ダムの「有言実行」に、ホンさんはもちろん、妹、母親、妻子、親戚と、皆がMr.ダムに心から感謝している。 

[Thanh Nien 10:17 11/11/2022, 14:01 09/11/2022, 09:13 23/07/2022, 12:40 02/06/2022, 12:22 26/05/2022, A]
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