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[特集]

9X世代の女性タトゥーアーティスト、タトゥーで傷跡に命を吹き込む

2022/11/27 10:20 JST更新

(C) vnexpress
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 ハノイ市出身の「ゴックライク(Ngoc Like)」ことチャン・ビック・ゴックさん(女性・1993年生まれ)は、長さ10cm以上のケロイドに7時間かけてタトゥーを施し、傷跡にアネモネの花を咲かせた。それは、客の女性にとって新たな自信を得ることができた瞬間だった。

 ゴックさんが施したタトゥーは、帝王切開後の傷跡を覆うようにデザインした、落ち着いたトーンのアネモネの花だ。客の女性はそれまで、夫の前では無意識に傷跡を手で隠していた。タトゥーを入れたことで、より自信と輝きに満ちた新しい人生を送ることができるようになると期待している。

 ゴックさんはタトゥーアーティストとして10年以上にわたり、傷跡を隠すためのタトゥーである「カバースカ」を2000件以上も施してきた。ゴックさんは自身のSNSで客やタトゥーについて共有し、作品のアルバムは日に日に増えている。そして、傷跡を覆って新たな人生を歩みたいと願い、ゴックさんのもとを訪れる客も増えている。

 2011年、ゴックさんは2番目に高い得点で舞台映画大学の衣装デザイン専攻に入学した。当時18歳の彼女がタトゥーと出会うことなくそのまままっすぐに情熱を追い続けていれば、衣装デザイナーになっていたかもしれない。

 ある日の午後、大学で親友に誘われ、皮にアートを施す授業を体験した。その親友こそ、ゴックさんにタトゥーのニードルの取り付け方や美しいタトゥーの施術などの基本的な技術を教えた最初の先生でもある。それから毎日午後になると、紙に絵を描く代わりに、合皮や豚の皮にタトゥーを入れる練習をした。

 大学2年生だったゴックさんは、タトゥーの道具の扱いにも慣れ、初めての客もできた。初めての客は、ゴックさんのテコンドーの先生だった。ゴックさんは「先生は私を信じてくれていたので、きれいに入れることができました」と語る。

 そのとき、ゴックさんは一晩中、細心の注意を払ってニードルを少しずつ動かし、先生の背中に牡丹畑を描いた。「朝が近づいたころには3分の2ほど完成していて、先生も思い通りの出来だったので喜んでくれました。私自身も、この仕事に向いていると思い、興味が湧いたんです」とゴックさん。

 しかし、ゴックさんのタトゥーアーティストとしての道は、決して平坦ではなかった。10年前にゴックさんがこの道を志したころはまだ、多くの人々、特に高齢者から共感を得ることはできなかった。タトゥーもタトゥーアーティストも、社会からは「罪悪の芸術」として閉ざされた存在だった。

 「私を疑ってかかる人にとって、時間が最も明確な答えになるでしょう。時間の流れの中で、すべての物事が変わっていきます。今日は期待通りにいかなくても、明日はわかりませんから」とゴックさんは打ち明けた。

 ゴックさんは、価値を生み出し、誰にも悪影響を与えることなく、法律に反さず、信念を持って粘り強くこの仕事に取り組んできた。あきらめる理由などなかった。

 ゴックさんの両親は娘を支え、応援した。父親は「自分が幸せでいられることをしなさい」と言い、母親は「若者の経験」を後押しした。

 当時19歳のゴックさんは、タイトなスケジュールの中で学業と仕事を両立させた。午前は授業に出て、午後と夜はタトゥーに没頭した。当時は常に睡眠不足で、「いつでもどこでも寝られましたね」と笑う。

 そして、彼女は大学を首席で卒業し、タトゥーアーティストに対する偏見を多少取り除くことができた。

 一般的なタトゥーから、ゴックさんはあるきっかけで徐々に傷跡を覆うタトゥーの施術に移行していった。

 忘れられないきっかけは、あるメールを受け取ったことだった。メールの送り主の女性の希望は、傷跡をタトゥーで隠したいということだった。ゴックさんはその女性と会い、最適なタトゥーを入れるために「一緒に頑張りましょう」と伝えた。

 施したタトゥーは、腹部の凸面のある傷跡を利用した、羽の絵柄だった。初めて手掛けたカバースカは、実に9時間を要した。麻酔を使わないタトゥーの施術には、客の努力と期待、そしてゴックさん自身の細心の注意にかかっていた。「悪くない出来でしたよ」と、ゴックさんは初めてのカバースカの作品についてコメントした。

 傷跡にタトゥーを入れた女性は、徐々に自分の身体に自身が持てるようになり、海に行ってビキニ姿で写真を撮ることもできるようになった。

 それぞれの傷跡には物語がある。客の話を聞いたり、傷跡に触れたりする中で、ゴックさんはネガティブな感情の沼から抜け出せなくなる時期もあった。人生のバランスが取れなくなり、ストレッチマークや帝王切開の傷跡を見ては、出産が怖くなったりもした。

 そうした感情に直面し、ゴックさんは自分の人生のバランスを取り戻すため、旅行に行って色々なものを見聞きしたり、自分のエネルギーと経験を満たすために副業をしたりした。

 そして、自分自身のバランスを取り、客と経験を共有しながら、ゴックさんは心を開いてあらゆる話に耳を傾けられるようになった。「タトゥーは美容的な方法というだけでなく、心理的・精神的な傷を治癒する方法でもあるんです。誰かの助けになれるなら、誰かと分かち合えるなら、いつでも受け入れる心の準備ができています」とゴックさんは語る。

 この10年間で、ゴックさんは傷跡を覆うタトゥーを2000件以上も手掛けてきた。客はベトナム国内だけでなく、海外からも訪れる。日々学ぶことを止めることなく、知識と技術を磨き、どんな複雑な傷跡にも対応できるように努力を重ねている。

 そんなゴックさんは今年、米経済誌フォーブス(Forbes)の「アジアを代表する30歳未満の30人(30 Under 30 in Asia)」2022年度版で「アーツ部門」に選出された。ゴックさんは「肩書にプレッシャーを感じることはありません。良い仕事をしていれば、価値が生まれるんです」と語る。

 ゴックさんは、将来的にビジネスを拡大し、スタジオを改修し、さらには仕事に役立つよう心理学も学びたいと考えている。また、タトゥーに関する自身の経験や技術、知識を、タトゥーアーティストを志す若者たちに伝えていきたいという。

 彼女は、母親から言われた「良いことをしているときは、それを続けなさい」という言葉の通り、有意義な仕事をさらに広げていくつもりだ。 

[VnExpress 10:00 22/11/2022, A]
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