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[特集]

気持ちを伝えたい人をサポートする「告白屋」、得たのは利益ではなく愛の価値

2023/04/16 10:11 JST更新

(C) vnexpress
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 ある日の夜、グエン・タオさん(女性・22歳)はパソコンの前に座り、一言一句を入念にチェックしながら、顧客のラブレターを完成させていた。

 「告白屋」としてラブレターの校正をしているタオさんは、自分のサービスについてこう説明する。「内容はお客さん自身の気持ちですが、私は文字や音によって、それをより甘く表現するという任務があります」。

 告白屋というアイデアは、2022年3月にタオさんが友人に「ひそかに好きな相手がいても、気持ちを伝える勇気がなかったら?」と聞かれたことがきっかけで生まれた。

 友人の「恋愛アドバイザー」を何度か務めたタオさんは、他にも多くの友人が同じような状況にあることに気づいた。好きな人がいても、自分の言葉で相手を説得する自信がなく、あえて告白しようとしないのだ。

 2022年7月、タオさんはSNSの学生グループに、手紙や音声で告白のお手伝いをします、と投稿した。わずか12時間で、この投稿は700件余りのリアクションと130件のコメントを集め、次々と「注文」が入った。

 タオさんは、「告白屋」はお見合いサービスでもなければ告白代行サービスでもない、と付け加える。タオさんのサービスは、顧客が自分の好きな人に向けてしたためたラブレターをより誠実でより甘い言葉に直したり、よりスペシャルな告白の音声を作ったりするのを手伝うというものだ。料金は手紙や音声など種類によって1件につき7万~16万VND(約390~900円)となっている。

 当初の目標は、顧客が告白する際に緊張したり混乱したりしなくて済むように、そして関係を始めるにあたって自信を持って愛を伝えることができるようにサポートすることだった。

 しかしタオさんは、このサービスを1年余り続けていくうちに、利用者は好きな人に気持ちを伝えたいという人だけではないことに気づいた。昔の恋人や親友、はたまた自分自身に気持ちを伝えたい、というケースもあった。

 「最近は、昔の恋人に気持ちを伝えるサービスが人気ですね」とタオさん。こうしてタオさんは、サービスの対象を拡大することに決めたのだった。

 このサービスについてSNSに投稿した当初、タオさんはからかうようなメッセージをたくさん受け取った。タオさんの投稿を見た人の中には、タオさんがいたずら心ででたらめな投稿をしていると思う人もいたのだ。さらには、タオさん自身への告白のメッセージを冗談で送ってくる人もいた。

 「信頼を得て、私が本当に真剣であることを証明するまで1~2か月かかりました」とタオさんは語る。タオさんは1年間で100人以上から注文を受けたが、顧客から伝えてこない限り、告白の結果をたずねることはしないという。

 ベトナムではこれまでにも「告白屋」がいたが、ラブレターの執筆代行が主だった。タオさんは自分にしかできないサービスを構築し、もっと価値を持たせたいと考えている。そんなタオさんの「告白屋」は、人々が自分の傷と向き合い、癒す場所にもなっている。

 「メールで打ち明け話を夜通し聞いてアドバイスをしても、結局サービスは利用してくれなかった、という人も中にはいますよ」とタオさんは笑って言う。

 タオさんは、最初の顧客のことを今でも覚えている。妻に気持ちを伝えたいという、シャイな男性だった。内向的だったその男性は、第一子を妊娠した妻に感謝の気持ちを伝えるため、心のこもったラブレターを書きたいとタオさんに依頼したのだった。タオさんはその依頼を、ラブレターと音声をセットにして25万VND(約1400円)で請け負った。

 3月8日の国際女性の日には、男子大学生から母親に向けた手紙の依頼を受けた。彼の手紙を読んだタオさんは、思わず泣き出した。この学生はタオさんに、父親は自分が生まれてすぐに妻子を捨てたこと、自分はずっと母親の言うことも聞かず悪さばかりしていたことを明かした。

 彼は大学に入って、これまでの母親の犠牲に気づき、母親の愛に感謝してこなかったことを後悔している、と言った。そこで彼は人生で初めて母親に手紙を書こうと思いつき、タオさんに依頼することにしたのだった。

 「そのときはお客さんが多かったので、彼の依頼を断ったんです。それでも彼は食い下がってどうしてもとメッセージを送ってくれました。それで、依頼を受けることにして、その日の午後のうちに手紙を完成させたんです」とタオさんは語る。

 その数日後、タオさんは彼からのメッセージを受け取った。「母は感動してたくさん泣いていました。23年間心にしまい込まれていた気持ちを引き出してくれてありがとう」。このメッセージを読んで、タオさんは自分の仕事の意義をより強く感じた。

 タオさんの「告白屋」への注文は日に日に増えているが、サービスの質を確保するため、週に3~4人からしか依頼を受けないことにしている。現在はタオさんと同級生2人の3人で対応している。

 このサービスを使用したことがあるホーチミン市3区在住のグエン・ルアン・ソンさん(男性)は、最初にSNSの投稿を見たときは冗談だと思ったという。しかし、友人の話を聞いたソンさんは、この「告白屋」に依頼することにした。ソンさんは過去に2回告白して失敗していた。「あきらめきれず、タオさんに励ましてもらって再び気持ちを伝え、ついに好きな人に受け入れてもらえたんです」。

 顧客と向き合う中で、タオさんが得たものは利益ではなく愛の価値だった。愛は数学の問題とは違い、答えがなく、正解も不正解もない。「人はただ人を愛する、それだけなんです。間違った愛もあるかもしれませんが、それでも人はまた人を愛する。愛は薬のようなもので、傷も癒してくれるんです」とタオさん。

 ただし、告白屋は、タオさんの主な収入源ではない。タオさんは南部メコンデルタ地方ドンタップ省のドンタップテレビ局に勤めており、外部イベントで司会を務めたりもしている。タオさんは、告白屋で得た利益の10%を毎月コミュニティプロジェクトに充てるつもりだという。また、告白屋のサービスを向上し、実生活に広げていく計画だ。 

[VnExpress 06:30 08/04/2023, A]
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