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[特集]

姉妹で営む「0VNDアオザイ店」、女性に夢を

2023/04/23 10:10 JST更新

(C) vnexpress
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 仕立て屋の仕事をして20年以上になるドアン・ティ・グエットさん(女性・46歳)は、アオザイが欲しくても金銭的な余裕がない女性たちを数多く見てきた。そこで、妹と一緒に「0VND」のアオザイ店を開くことに決めた。

 無料のアオザイ店のアイデアは、4年前に視覚障害のある少女がアオザイを仕立てにグエットさんの店を訪れた時に生まれた。少女の母親は、アオザイを着たいという娘の夢を叶えるために丸1年かけてお金を貯めたと言ったのだった。

 母親の話に心を打たれたグエットさんは妹と話し合い、自分の店を、困難な状況にある人たちに無料でアオザイを提供する店に変えることにした。「どんな人であろうと、どんな境遇の人であろうと、ベトナムの女性にアオザイを着てもらいたいんです」とグエットさんは語る。

 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で計画は2年延期になった。グエットさんはさらに1年かけて、常連客や友人、知人などから古いアオザイの寄付を集めた。「我が家にあったアオザイの8割以上はお店用にして、必要な時に着る1~2着だけを残しました」とグエットさん。

 グエットさんは寄付してくれた人からアオザイを受け取ると、ほつれなどがないか確認し、修繕、洗濯、アイロンがけをする。さらに、顧客が自分に合ったアオザイを見つけやすいよう、色ごとに分け、3か所の寸法を記したタグをつける。

 そして2022年3月8日、グエットさん姉妹の「0VNDアオザイ店」が、ホーチミン市直轄トゥードゥック市チュオント街区ダンバンビー(Dang Van Bi)通りに正式にオープンした。

 初日は300着のアオザイが新しい持ち主に手渡された。当日は忙しく、グエットさん一家は17時にようやく朝食にありつけたという。「皆さんのアオザイへの想いがこれほどまでに大きいものだとは思ってもいませんでした。疲れましたが、とても幸せな1日でした」とグエットさんは振り返る。

 ある日には、南部メコンデルタ地方ロンアン省から夫婦がアオザイを選びに店を訪れた。2人はしばらくアオザイを選んでいたものの、ちょうど良いサイズのアオザイが見つからなかった。そこで、グエットさんは新しくアオザイを仕立てることにし、2日後に届けた。

 グエットさんによると、顧客の多くは宝くじ売りや雇われで皿洗いをしており、人生でアオザイを着ることなど夢にも見ていなかった女性たちだという。「他の人たちにとってはただの古着かもしれませんが、彼女たちにとっては死んでもあの世に持っていきたいと思うほど貴重な贈り物なんです。それを聞いて、胸が詰まる思いでした」とグエットさんは打ち明けた。

 3月初め、トゥードゥック市チュオント街区に住むフン・ティ・トゥイ・バンさん(女性・44歳)は、3月8日の国際女性の日に着るアオザイを選ぶため、娘と孫娘を連れてグエットさんの店を訪れた。バンさん一家の経済状況は厳しく、今後の心配事も多いため、娘用のアオザイを仕立てるお金もなかった。そんな中、グエットさんの0VNDアオザイ店は、バンさん一家にとって救世主となった。

 15歳のフン・ティ・アイン・トゥーさんは、好みにぴったりのピンク色の蓮の柄のアオザイを選んだ。モダンなデザインのアオザイを好んで着る若者が多いが、トゥーさんは伝統的なアオザイの店が好きなのだという。「このお店には色々なデザインのアオザイがあり、お店に足を踏み入れると、贈り主の温もりを感じるんです。今回選んだアオザイは、また別の人が着られるように、着終わったら返しに来るつもりです」とトゥーさん。

 ブー・ティ・ティエンさんと近所の人たちは、誘い合って、昼食を抜いて東南部地方ビンズオン省からグエットさんの店を訪れた。ティエンさんはベトナムの国の形が描かれた赤いアオザイを選び、「最後にアオザイを仕立てたのがいつだったか、思い出せません。今日はこうしてアオザイを着て、皆からも褒めてもらえて幸せです。少女時代に戻ったみたい」と興奮気味に語った。

 しかし、活動を始めてから半年が経ったころ、条件に満たない人も0VNDのアオザイを求めに店を訪れるようになったため、グエットさんは0VNDアオザイ店の営業を週に1日だけとすることに決めた。

 グエットさんの0VNDアオザイ店は、1年間で5000着以上のアオザイを必要な人に手渡してきた。「離島や山間部から送られてきたアオザイを手に取ると、皆さんの分かち合いの気持ちを感じて涙が出てくるんです」とグエットさんは話す。

 店を訪れた60代の女性がアオザイを受け取り、涙を流したこともあった。そのアオザイは、彼女が人生で初めて手にするアオザイだったのだ。その時グエットさんは、どうしてこの活動をもっと早くに始めなかったのかと自責の念に駆られたという。

 「与えることよりも与える方法が重要」というのが、グエットさんの活動のモットーだ。老若男女問わず、0VNDアオザイ店を訪れる人たちに、グエットさんと仲間たちは熱心にアドバイスし、気に入ったアオザイを選んでもらえるようにサポートしている。持ち帰られたアオザイは、受け取った人がずっと着続けることもできれば、交換することもできる。

 0VNDアオザイ店を始めてから、グエットさんの仕立て屋の収入は減ったものの、だからと言ってこの活動をやめるつもりはない。もし、仕立て屋の後継者がいなければ店を閉じてもいいと思っているが、「0VNDアオザイ店」はずっと続けていくという。「力が尽きるまではこの活動を続けていきます」とグエットさんは力強く語った。 

[VnExpress 11:29 06/03/2023, A]
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