VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

ハノイ旧市街の共同便所の上で暮らして40年以上、夫婦の今

2023/04/30 10:18 JST更新

(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
(C) vietnamnet
 ハノイ市旧市街にある共同便所の屋根上で40年以上暮らしている夫婦がいる。

 グエン・フン・ハイさん(男性・88歳)とグエン・ティ・サムさん(女性・78歳)の「家」は、ホアンキエム区ハンバック(Hang Bac)通りの小さな路地裏の、共同便所の上にある。

 ハイさんは毎日、ハンバック通りの角で自作の自転車のそばに立ち、タイヤの空気を入れにくる客を待っている。ハイさんにとって、空気入れの仕事は大きな収入が得られるものではないが、老後の楽しみなのだという。

 ハイさんのはきはきとした話し声を聞いて、ほとんどの人は彼が90歳近いとは思いもしないだろう。「自転車の空気入れや修理は仕事であり、楽しみでもあるんです。通りを眺めたり、行き交う人を眺めたりするのはいいものですよ。家にいると窮屈で息苦しくて」とハイさん。

 かつて、ハンバック通りの小さな路地裏には、ハイさん一家しか住んでいなかった。それから数世帯が住むようになり、1975年にハイさんは同居していた家族に迷惑をかけたくないからと実家を出て、共同便所の上のスペースに1人暮らし用の部屋を作った。

 1989年にハイさんとサムさんは結婚し、手狭になったため、部屋を拡張した。以来、2人の子供が生まれても、この狭い家で、一家4人で暮らした。苦労も多かったが、夫婦で何とか乗り越えてきた。

 同じ路地裏に暮らす世帯の中で、共同便所の屋根上に住んでいるのはハイさん夫婦だけだという。部屋の広さは約10m2で、壁は剥がれ落ち、カビだらけだ。室内の棚の上は祭壇になっている。ベッドは1つしかなく、妻のサムさんは床にゴザを敷いて寝る。一家の生活のすべてが、この1部屋の中で行われる。

 夫婦は共同便所から漂う悪臭を少しでも軽減すべく、毎日こまめに掃除しなければならない。夏場は特に臭いがきつく、日々の掃除も大変だ。

 「夫と結婚したときは、特に深く考えていませんでした。当時は結婚ってとてもシンプルだったんです。夫の家がどんなかなんて知りませんでしたし、家を訪ねたこともありませんでした。結婚して初めて夫の家を目にして、驚愕しました。でも、結婚したら夫に従わないといけないし、どうしよう、ってね」とサムさんはハイさんと結婚したころを振り返る。

 ハノイ市ホアイドゥック郡出身のサムさんはきょうだいが多いが、故郷に帰ることはめったにない。サムさんの経済状況を知っている甥や姪たちは、サムさんを母親のように大事にし、世話をしてくれている。

 かつてはサムさんも、生計を立てるために色々な仕事をしていた。若いころは野菜や果物を売り、その後はブンリエウ(カニ風味のトマトスープ米麺)やチャオ(お粥)の屋台を切り盛りした。しかし、何年も前に関節痛がひどくなり、歩くのも困難になって店を畳んだ。現在の収入は子供からの仕送りと、ハイさんが空気入れで稼ぐ小銭だけだ。

 家の上り下りには外付けの階段を使わなければならないが、これが不便で、トイレや料理の用事で下に行くたびにサムさんは立ち眩みを恐れて後ろ向きに階段を降りる。そのため、特に重要な用事でない限り、サムさんは家の中にただ座って周りを眺めている。

 ハイさんとサムさんには息子と娘が1人ずついる。以前は4人で暮らしていたが、息子は結婚して別々に住んでいる。娘は安定した仕事に就いており、今も夫婦と一緒に暮らしている。

 息子は別の家で両親と一緒に暮らそうとしたが、夫婦は息子に迷惑をかけたくないからと断った。それに、娘は未婚で実家暮らしのため、親としてはまだそばにいて面倒を見たいという思いもあった。

 経済的には困難な状況にあるものの、子供たちが優しく勤勉な大人になり、安定した仕事に就くために努力してきたことを、サムさんは誇りに思っている。子供たちは両親の心の内を理解し、これまで一度も文句を言ったり責めたりしたことはないのだという。

 「今の願いは、娘が理想の夫を見つけてくれることだけです。家族は苦労続きで罪悪感もありますし、家がこんな状況で恋人を見つけるのも大変だろうと娘のことも心配です。でも、娘にはいつも相手に自分の状況を隠さないように忠告しています。そうやって初めて、自分のことを心から愛してくれる人を見つけられるでしょうから」とサムさんは言う。

 共同便所の上で40年以上も暮らしてきたハイさんとサムさんは、自分たちの運命を受け入れている。今はただ、子供たちの人生が自分たちとは違うものになるように、ということだけを願っている。

 「私だって他の人と同じように、子供たちに養ってもらえたらと夢見ることもあります。でも、人生はわかりませんから。自分たちが苦労するのは構いませんが、子供たちが苦労しないで済むように願っています。そうすれば私たち夫婦の心配事も減り、安心して老後を生きられます」とサムさんは打ち明けた。



【過去の関連記事】
自宅は共同便所の上、8平米の小屋に住む老夫婦―悪臭に耐えて44年(2019年9月28日配信) 

[Vietnamnet 06:30 13/04/2023, A]
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる