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[特集]

カンヌ映画祭でカメラ・ドール受賞、ファム・ティエン・アン監督

2023/06/04 10:23 JST更新

(C) vnexpress、左:アン監督・右:ユン監督
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(C) vnexpress
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 5月16日から27日にかけてフランスのカンヌで開催された第76回カンヌ国際映画祭で、フランス越僑のトラン・アン・ユン(Tran Anh Hung=チャン・アイン・フン)氏が監督賞を受賞した。さらに今回、ベトナム人のファム・ティエン・アン(Pham Thien An)監督がカメラ・ドールを受賞した。

 今からちょうど30年前の1993年には、ユン監督がカンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞。ベトナム系の監督として30年ぶり2回目のカメラ・ドールを手にした1989年生まれのアン監督が、閉幕式後にベトナムの大手ウェブメディア「VNエクスプレス(VnExpress)」のインタビューに応じた。

―――カメラ・ドールを受賞したときの気持ちを教えてください。

 カンヌでの受賞スピーチは、ベトナム人としての誇りを持って母国語で話しました。 2015年に米国に移住しましたが、今もベトナム国籍です。

 閉幕式が終わって記者会見後、初めてトラン・アン・ユン監督にお会いしました。お互いに受賞を祝い、ユン監督が「よくやったね。今年のベトナムは最高だよ」とおっしゃったんです。ユン監督が30年前に受賞した賞を自分が受賞できたことを、心から誇りに、光栄に思っています。

 2019年にカンヌ国際映画祭でイリー短編映画賞を受賞したときと比べると、今回はさらに大きな舞台で、多くの世界的な監督やスターの目の前で受賞することができました。受賞は映画への情熱を強めるモチベーションになる一方で、次の作品へのプレッシャーも感じています。

―――ホーチミン市の大学で情報技術(IT)を学び、映画業界に足を踏み入れる前は様々な職に就いていたそうですが、監督が映画に駆り立てられる理由は何でしょうか?

 私は、本能からわき起こる情熱と興味をもとに映画を作っています。(今回のカンヌに出品した)「Ben Trong Vo Ken Vang(Inside the Yellow Cocoon Shell)」の脚本の大きなアイデアはすべて、「聖なる呼び声」によるものだと思っています。その声は、社会のどの階級に属しているかに関係なく、すべての人の中に常に存在し、様々なタイミングで現れるものだと思うんです。その内なる衝動から、過去と現在の自分の経験や行動に基づいて、キャラクターを作っていくんです。私が映画に敬意を表する理由は、映画は自分の観点を最も明確に表現できるからです。

 ―――監督ご自身の「聖なる呼び声」について教えてください。

 大学を卒業して就職活動をしているとき、いつも迷いや孤独を感じていました。私が編集の仕事を選んだのは、技術的な要素と個人的な趣味のバランスを取りたかったからです。そこで、作品ごとに様々な感情を伝えたくて、結婚式の動画の撮影と編集を勉強し始めました。この仕事はオフィスワークよりもクリエイティブではありましたが、結局のところ自分のやりたいようにできるわけでもなく、お客さんの意見に合わせて修正しなければならないなどの制限があって、つまらなくなってしまいました。

 そのとき、心の中の「呼び声」が私を映画の道に導いてくれたんです。映画の世界には制限がなく、具体的なルールも公式もありません。映画では、作り手が独自の世界を創造し、そこでキャラクターや感情、柔軟に変化する時間とつながることができます。短編映画をいくつも作るようになって、だんだんと自分が創造した世界に対してもっと誠実でいるべきだと気づくようになりました。それで、自分の人生と視点を映画に組み込むことにしたんです。

―――監督の作品のキャラクターは、自分が誰なのか、どこにいるのか、「方向性」がない人物が多いですが、「Ben Trong Vo Ken Vang」の主人公であるティエンもまた同じでした。なぜですか?

 ティエンは、かつての自分を反映しています。友人との酒盛りが好きで、マッサージに行くのが好きで、結婚式の動画の撮影と編集に苦労し、友人を喜ばせるためにマジックをし、過去の恋愛が忘れられず、時に空想に耽り、過去の記憶に触れたくて故郷に帰る、そんな自分です。でも、私の映画のジャンルは自伝でも回顧録でもありません。私の個人的な経験は、状況が異なるだけで、多くの人と似ていると思います。

 私の映画はリアリズムとシュルレアリスム、そしてファンタジーが混ざっていると言えるでしょう。ルイス・ブニュエルやタル・ベーラなどの多くの巨匠の作品を観て、これらの概念を知りました。

 映画制作のインスピレーションは、自分のルーツへの愛から生まれます。今回の受賞作の中で、私はベトナムの社会における都市と現代、農村と伝統といった対比の表現に意図的に焦点を当てたわけではありません。私は南中部高原地方で生まれ育ち、勉強と仕事でホーチミン市に移り住みましたが、田舎と都会の文化的要素とライフスタイルを組み合わせると、地域のコントラストがごく自然に浮かび上がってくるんです。

 私の目標は、映画を観る人が、それぞれの地域の文化や人々をより身近に感じ、キャラクターに寄り添ってくれることです。だからと言って、私の観点を観客に押し付けたいわけではなく、映画を観終わった皆さんが、それぞれ自由に答えを探してもらえたらと思っています。

―――この映画の映像は欧米のメディアや専門家からも肯定的に評価されていますが、撮影監督であるディン・ズイ・フン氏とのコラボレーションはいかがでしたか?

 私たちは子供のころからの親友で、ラムドン省(南中部高原地方)のバオロック市で一緒に育ったんです。2人とも、映画という共通言語で理解し合い、また仕事に対しても同じ観点を持っているので、困難や衝突はあまりありませんでした。シーンのレイアウトやカメラの動きは技術的な効果を濫用しないほうがよいので、実在の場所に基づく必要があります。私たちはあらゆるフレームでできる限りシンプルに、自然に表現するよう心がけました。

―――映画が完成した後、監督が最も実感したことはどんなことですか?

 友人でもある仲間たちと一緒に仕事をすると、自由な気持ちになりますし、お互いにたくさんの学びがあります。映画が完成して、仲間の何人かがこれまでのプロジェクトでは得られなかった知識や経験を私の映画制作の過程でたくさん得ることができたと言ってくれて、とても幸せでしたね。

 私からすると、誰にだって並外れたことを成し遂げられる独自の強みとエネルギーがあるんです。映画というのは、作る人たちが一緒になって情熱と力を捧げてこそ、成功できます。私たちは皆、アマチュアの作り手ですが、若さゆえの好奇心と、目新しいものを見つけたいという欲求が、私たちを力の限界まで押し上げてくれたと思っています。

―――困難に直面したときに監督を励ましてくれるのは誰ですか?

 妻ですね。彼女は映画のプロデューサーでもあり、映画の背景デザインも担当しています。技術や映像にこだわるあまり、時間と労力を費やすこともありましたが、そのときに彼女は、そういった要素に集中するよりも、キャストたちの映画に対する信頼を築くこと、そして演技についてフィードバックすることに時間を使ったほうがいい、とアドバイスしてくれました。

 妻はどんなプロジェクトでも私をサポートしてくれます。彼女は私と一緒に映画を作ったり、ロケハンに行ったり、脚本を書いたりするのが好きなんだそうです。妻は女性で、さらに韓国映画もよく観ているせいか、キャラクターの内面がよくわかっているな、と思いますね。


ファム・ティエン・アン監督プロフィール

南中部高原地方ラムドン省バオロック市出身。2014年開催の「48 Hour Film Project(48 HFP)」で第2位に立ったほか、2018年には短編映画「Cam Lang(The Mute)」がパームスプリングス国際短編映画祭で上映され、さらにスイスのヴィンタートゥールやフィンランドのタンペレ、香港など約15の映画祭にも出品された。7分間の短編映画「Hay Tinh Thuc Va San Sang(Stay Awake, Be Ready)」は2019年の第72回カンヌ国際映画祭の「監督週間」に出品され、イリー短編映画賞を受賞した。同作品はその後、釜山国際映画祭やロカルノ国際映画祭、シンガポール国際映画祭、ストックホルム国際映画祭、ミラノ国際映画祭、バンクーバー国際映画祭など、40余りの国際映画祭で上映された。 

[VnExpress 00:39 30/05/2023, A]
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