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[特集]

魚に昆虫…男性で賑わうホーチミンのユニークな市場

2023/11/19 10:24 JST更新

(C) tienphong
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 観賞魚の愛好家で、ホーチミン市5区にあるルウスアンティン市場を知らない人はいないだろう。この市場は、午前3時から6時まで賑わい、その後は市場ごとすっかり「消えて」しまう。午前6時以降になると、市場のあったチャンフンダオ通りとルウスアンティン通りの角は車両で混み合い始める。

 まだ日が昇らないうちから、この観賞魚市場は賑わい始める。グッピー、ブルーターザン、タイガー、フルゴールド、フルレッド、ベタ、ディスカス、キンギョなど、あらゆる種類の鑑賞魚が、50~60匹入りで1袋15万~20万VND(約920~1230円)で売られている。

 コイやフラワーホーンなどの高級魚も、酸素ポンプを完備した状態で路上に陳列されている。市場を訪れる客の大半が男性で、気に入った種類の鑑賞魚があれば暗闇の中で袋を懐中電灯で照らして確認し、購入する前に値段を交渉する。

 「この観賞魚市場のことは前から知っていましたが、今回初めて買いに来ました。ここの魚はきれいで種類も豊富だし、値段も普通のお店で買うより少し安いです。今日は家の水槽に足そうと思って、理想通りのキンギョを買いましたが、値段はたった20万VND(約1230円)でした」と、4区在住のフンさん(男性)は嬉しそうに語る。

 観賞魚市場は午前4時頃に最も混雑し、売り手と買い手で通り全体が埋め尽くされる。この市場で鑑賞魚を売っているビンチャイン郡在住のグエン・タイン・タムさん(男性・42歳)とタムさんの息子は、古いバイクの後ろにくくり付けた木の棒に吊るして運んできた観賞魚の袋を、1つ1つ慎重に路上に並べた。

 並べ終わると、すぐに買い手がやってきた。タムさんは顧客が魚を選びやすいように、懐中電灯を準備した。タムさんは、さまざまな種類の鑑賞魚を販売するため、自宅で飼育している魚のほかに、多くのブリーダーのもとを訪ねて商品を仕入れているという。

 「以前は観賞魚専門店に魚を卸していたのですが、次第に競合が増えて価格競争が激しくなり、さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって経営が厳しくなってしまいました。そこで、ここ3年ほどはこの市場に自分で鑑賞魚を持ち込んで販売しているんです。魚を売るのは楽しいですし、1日の利益も平均して50万VND(約3000円)ほどあるので、充分にやっていけます」とタムさんは話す。

 ある商人によると、この観賞魚市場は1975年以前に始まった。ビンチャイン郡やクチ郡、ホックモン郡、6区、8区など多くの区・郡から商人が自発的にこの通りに集まり、観賞魚の売買をするようになったという。

 初めは数人しかいなかったが、徐々に人数が増えていき、小さな通りは国内最大の取引量を誇る観賞魚市場として賑わうようになった。各種の観賞魚は、南部メコンデルタ地方のロンアン省、ティエンザン省、カントー市、ビンロン省などの各省・市から、またホーチミン市郊外の各郡からこの市場に集められ、ここから全国の観賞魚専門店に流通していく。

 この市場で観賞魚専門店を営んでいるムオイさん(男性)は、年齢と商売の規模の大きさから、この市場の「ボス」と呼ばれている。しかしムオイさんは「ボス」の称号を否定するように手を振り、優しく微笑んで「私も小さい商売ですが、私の場合は固定の店があるので昼夜問わず販売できるんです」と語る。

 「毎晩、この市場から何十万匹もの観賞魚がさまざまな場所に運ばれていきます。市場での値段は専門店よりも20%程安くなっています。市場は夜明け前の数時間しか営業しないので、売り手も買い手も暗闇の中で魚を精査するため、懐中電灯を照らすんですが、それが、この市場のユニークなところですかね」と、ムオイさんは冗談めかして言った。

 観賞魚市場からそれほど遠くない場所にある別の「男性市場」は、5区にある「トゥアンキエウプラザ(Thuan Kieu Plaza)」沿いの歩道に点在する、昆虫市場だ。

 夜明け頃から、商人たちは商品を並べ始める。幼虫からイナゴ、バッタ、コオロギ、ムカデ、ミミズ、トカゲ、ヘビまでが発砲スチロールの箱に詰め込まれており、心の弱い人は思わず身震いしてしまうだろう。

 ここの商人たちは、ホックモン郡やクチ郡などのホーチミン市郊外から来ており、中には東南部地方タイニン省から昆虫を持ち込んで売っている人もいる。問屋から仕入れる人もいれば、自分で直接捕まえた昆虫を売る人もいる。

 この昆虫市場がどうして「男性市場」と呼ばれているのかと尋ねると、ここで30年近く昆虫を売っているというティンさん(女性・48歳)は「お客さんの大半が男性だからよ」と笑った。客の男性たちは、趣味で鳥や魚を飼っており、餌としてミミズや幼虫を買いに来るのだという。

 ティンさんによると、ここではどの店も昆虫をビニール袋に入れて販売しており、1袋当たりの値段は2000~5000VND(約12.3~30.9円)だという。値段が安いため、買いに来る客は特に値切ることもせず、種類を確認するとすぐに支払って去って行く。

 日常的に昆虫を触っているため、黒ずんで臭いのする手をした60歳近いランさん(女性)は、ここで最も長きにわたり昆虫を売っている商人の1人だ。ランさんによると、1975年以前はこの場所では鳥や闘鶏用の鶏を売っていたという。その後、買った鳥を飼う人向けに餌となる昆虫を売る人が現れ、その売れ行きを見た人がさらに昆虫を飼育して持ち込んで売るようになり、現在の昆虫市場が形成された。

 この市場で10年ほど商売をしているホックモン郡在住のタムさん(男性)は、這いまわる昆虫の群れに真っすぐ手を突っ込み、記者たちが身震いする様子を見て笑った。タムさんは、初めはこの仕事にうんざりしていたが、商売を続けていくうちに慣れてしまったと話す。今ではトカゲ、ヘビ、ムカデ、幼虫など何でも素手で簡単に捕まえることができるという。

 「以前は郊外に無数のイナゴやバッタがいて、大した値段にはなりませんでした。数時間で2kg捕まえても、その『戦利品』の値段はたったの数万VND(1万VND=約62円)でしたから。ところが今では、1袋に数匹しか入っていないイナゴが、種類によっては5000~7000VND(約30.9~43.2円)もするんですよ。私は、人が育てた昆虫を卸売りする業者から買って、それを売って利益を得ています」とタムさんは語る。

 この場所に昆虫市場ができてからというもの、鳥を飼う人たちが毎朝各地からここに集まり、鳥の売買をしたり、世間話をしたりしている。鳥のさえずりやコオロギの鳴き声は、多くの人にとっていつか田舎で聞いた馴染みのある音だ。

 だからこそ、このユニークな市場は商売の場所であると同時に、ホーチミン市に住む人々にとって、都会の喧騒の中ではなかなか見つけることのできない、のどかな田舎の一角のような場所でもあるのだ。 

[Tien Phong 05:59 07/09/2023, A]
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