VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

深夜のバックパッカー街、路上で火を吹き生計を立てる子供たち

2023/12/10 10:37 JST更新

(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
(C) dantri
 「眠らない街」、ホーチミン市1区ブイビエン通りのバックパッカー街に音楽が鳴り響き、カラフルなライトが通りを照らす午前0時、それは、子供たちが路上で火を吹く見世物を始める時間でもある。

 午前0時、南部メコンデルタ地方ティエンザン省出身のカンくん(12歳)は、通りの真ん中に出て行った。頬を膨らませて大きく1口分のガソリンを口に含み、あらかじめ準備しておいた、布を巻いた鉄の箸に火をつけた。

 近くに立っていた観光客のグループがゆっくりと後ずさりした数秒後、少年の口から炎が噴出し、ディスコクラブの2階の高さまで燃え上がった。すると、まるでプロのサーカスのパフォーマンスを観賞しているかのような歓声と感嘆の声が通りに響いた。

 2分間の火吹きパフォーマンスを終えると、カンくんは空き缶を持って通りを歩き回る。パフォーマンスが面白かったと思ったら、客が空き缶に少しばかりのチップを入れてくれる。もちろん、空き缶が空っぽのまま1日が終わることも珍しくはない。

 「これは生計を立てるための仕事で、チップがもらえない日だって受け入れないといけないんです」とカンくんは屈託なく笑った。

 火吹きパフォーマンスは今や、大都市の路上で生計を立てるための仕事となっている。特にホーチミン市では、ガソリンを口に含み、火を吹いている子供たちの姿が観光客の間でもおなじみとなっている。

 子供たちは火吹きパフォーマンスを終えると、客にチップを求めたり、物を売ったりしてお金を稼ぐ。さらに、パフォーマンスをより面白くしようと、ヘビを飲み込んだり、剃刀の刃や電球を噛んだりといった芸までする子供たちもいる。

 客に頭を下げてお礼を言いながら、カンくんは口の周りに残ったガソリンを手で拭った。そして、客たちが自分の顎の傷痕に驚いている様子を見て、火を吹く時に何度かうっかり火傷をしてしまったが、薬は塗らなかったのだと笑って話した。

 「火を吹く仕事を始めてまだ数日しか経っていないんです。少し前は宝くじや飴を売っていたんですが、買ってくれる人はほとんどいませんでした。火を吹いている友達のほうがもっとお金を稼いでいたので、何度か教えてもらって僕も火吹きができるようになりました」とカンくん。

 ホーチミン市直轄トゥードゥック市在住のタイくん(16歳)もまた、2か月前にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でいくつか動画を見て、火を吹く練習を始めた。タイくんは何度も失敗を繰り返しながら、火傷をしない動きをマスターした。タイくんとカン君は友達同士で、2人は毎晩路上で火を吹いて、仕事を終えると一緒に家路につく。

 観光客で混み合う深夜のブイビエン通りで、子供たちは毎晩10~15回の火吹きパフォーマンスをして20万~40万VND(約1200~2400円)を稼ぐ。しかし、どこにでも競合はいて、縄張りをめぐって口論や争いに発展することも日常茶飯事だ。そこで子供たちは、グループを作ってお互いに助け合っている。

 「宝くじ売りや資源回収などの以前の仕事に比べれば、今はもっと稼げています。時々10万VND(約600円)もくれるお客さんもいるから、少しくらい大変でも大丈夫です」とカンくんは語る。

 カンくんの母親は、カンくんを出産してすぐに亡くなった。父親は、カンくんが4歳の時にカンボジアに出稼ぎに行って以来、戻ってきていない。

 小学3年生を終えたカンくんは、父方の祖母に頼んでティエンザン省ミトー市で宝くじを売るようになったが、数か月には生活費が尽き、カンくんは仕事を探すため、バスに乗ってホーチミン市に向かった。「ホーチミン市に来てすぐの頃は、飲み屋の手伝いをしてお金を稼いでいました。お金がない時は、夜はインターネットカフェや公園で寝ていました」とカンくん。

 火吹きパフォーマンスを習得してから、カンくんとタイくんは一緒に行動するようになった。20時、2人は道具を持ってホーチミン市4区ビンカイン通りに出て火吹きパフォーマンスを行い、それからブイビエン通りに移動して午前2時まで仕事をする。

 「お客さんがいなくなったら2人で自転車に乗ってトゥードゥック市に帰り、そのまま寝るか、インターネットカフェにゲームをしに行くんです」とタイくん。タイくんもまた、4歳の時に父親を亡くしている。

 父親を亡くした数年後、タイくんは母親と一緒にホーチミン市に移り住んでオレンジジュースを売るようになり、夜になると1人で街に出て、歩き回ってお金を稼いでいる。「毎日、数十万VND(10万VND=約600円)は稼いでいます。稼いだお金は、ゲームに使う以外はお母さんのために貯金しています」とタイくんは笑う。

 深夜の路上で火を吹いてお金を稼いでいる子供たちには、少なからぬ苦難がある。カンくんは、路上で寝ていたがために、せっかく稼いだお金を次々と奪われてしまったこともある。ただ、グループを作るようになってからは、こうした事態を多少なりとも防げるようになった。

 「グループは、他のグループの縄張りでお金を稼ぐことは許されません。トラブルは避けたいので、同じような境遇の人たちと積極的に友達になるようにしています」とカンくんは語る。グループの誰かの稼ぎがなかった日には、食事を分け合う。彼らにとって最も嬉しいことは、路上で働く皆が知り合いで、いつでもお互いを助け合えることだ。

 午前0時15分、1人の客がカンくんの空き缶に10万VND(約600円)を入れてくれ、カンくんは大喜びだ。ホーチミン市に来てからというもの、カンくんはまだ家族に電話することもできておらず、携帯電話を購入するために毎日こつこつ貯金しているのだという。

 カンくんに家族や故郷についてたずねると、「もちろんお父さんが恋しいですよ!お父さんがいてくれて、一緒に暮らせていたら、こんなに大変な仕事なんてしなくてよかったのに」と笑い、「それに、また学校に通いたいんです」と付け加えた。

 カンくん自身、自分がどうして学校に行きたいのかはわからないというが、「たぶん、学校に行ったら、将来は今よりもっと苦労の少ない、別の仕事に就けるんじゃないかな」と想像している。

 ホーチミン市1区ファングーラオ街区の当局も、ブイビエン通りで火を吹くパフォーマンスをしてお金を稼いでいる子供たちが多数いることを把握しており、最近はそのうちの1グループを補導した。当局によれば、路上で生計を立てている子供たちは、片親または祖父母と生活していたり、親に捨てられたりと、特別な事情がある。

 当局の担当者は、「こうした子供たちは、ファングーラオ街区には住んでおらず、別の場所からお金を稼ぎに来ているんです。我々が彼らを社会保護センターに連れて行っても、間もなくして家族が彼らを連れ戻し、また火を吹く仕事に行かせてしまいます。このいたちごっこが、ずっと繰り返されるんです」と話す。

 当局は子供たちに対し、ガソリンを口に含んで火を吹く行為の危険性について繰り返し注意喚起し、説明してきた。また、観光客に対してもこうした子供たちにチップを渡さないよう呼び掛けるなどして、子供たちがこの危険な仕事を続けることのないよう、キャンペーンを行っている。 

[Dan Tri 08:51 22/11/2023, A]
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる