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[特集]

ホーチミンのバインセオ店、弟妹を支える13歳の「料理長」

2024/03/03 10:01 JST更新

(C) dantri
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 父親は早くに亡くなり、母親は家を出て行った。今年で13歳になるドン・ハー・アインさんは、弟と妹を支える大黒柱でもある。毎日、父方の祖父母のサポートを受けながら、アインさんは生計を立てるためにバインセオを焼いている。

 ある日の真昼間、ホーチミン市ゴーバップ区のバインセオ店では、七輪の火でうだるような暑さの中、アインさんが額に流れる汗をひっきりなしに拭いていた。右手でバインセオの液を鍋に流し入れ、左手で鍋を傾けながら液を均等に広げていく。

 時折、強い風が吹くと、まるで13歳の「料理長」の顔に襲い掛かるかのように、火が燃え上がる。「バインセオの作り方を学んだばかりのころは、火がとても熱いので焼いている間は遠くから眺めるだけでしたが、何度かやってみるうちに慣れてきて、いくつかの鍋で同時に焼けるようになりました」とアインさんは笑う。

 毎日、店は13時から22時まで営業し、170~200枚のバインセオを販売する。1枚あたり3万~5万VND(約180~300円)だ。毎月、満月の日と1日には、精進料理のバインセオを無料で提供する。その2日間は、アインさんは休む暇もなくバインセオを焼き続ける。

 「疲れますが、楽しいです。だって、たくさんの人がうちのバインセオを食べにきてくれるんですから」とアインさんは嬉しそうに話す。

 アインさんの隣に立っているのは、10歳の弟と9歳の妹だ。この「小さな」従業員たちには、アインさんが焼いたバインセオを客のテーブルまで運ぶ役目がある。店が混んでいたり、姉のアインさんが疲れていたりすれば、2人もキッチンに立って、バインセオを焼く姉の手伝いをする。

 アインさんは、自分たちきょうだいを養うためのお金を稼いでくれる祖父母を手伝って、11歳のときからバインセオを焼いて売っている。父親は8年ほど前に亡くなり、その後に母親は事情があって家を出て行ってしまった。

 幼いころに両親との別れを経験し、弟妹2人の支えとなり、自立して生活してきたアインさんは、実際の年齢よりも強く、大人びている。

 故郷の南部メコンデルタ地方ティエンザン省で孤児となったアインさんたち3人は、ホーチミン市に暮らす祖父母から仕送りをもらいながら、互いに助け合って故郷で暮らしていた。

 今から2年前、祖母のチュオン・ティ・キム・ニさんは、3人をホーチミン市に呼び寄せ、祖父母と孫で一緒に暮らすようになった。

 ホーチミン市のバインセオ店は、祖父母が10年余り前にオープンしたものだ。別々に暮らしていたころ、祖母のニさんは、孫たちに負担がかかることのないよう一生懸命に働き、仕送りをしていた。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で日に日に損失が増え、ニさんは店を閉めるしかないと考えた。

 家庭の経済状況はいよいよ行き詰まり、ニさんは涙を飲んで、3人の孫に故郷の学校を中退させ、荷物をまとめさせてホーチミン市に呼び寄せたのだった。きれいな服を着て両親に学校に連れて行ってもらっている他の子供たちを見るにつけ、ニさんは孫たちを想い、涙を流した。

 ニさんは何度も孫たちをまた学校に通わせたいと考えたが、十分なお金がなく、この願いは保留にせざるを得なかった。ニさんによれば、多くの人が孫たちに数億VND(1億VND=約60万円)の寄付を申し出たものの、全て断ったのだという。

 なぜなら、ニさんの一番の願いは、バインセオ店が繁盛して、3人の孫たちが学校に通うためのお金を自分たちで賄えるようになることだからだ。一生懸命に働くということはすなわち、他人のサポートに頼ることしかできない弱い人間にならないよう、運命を乗り越える力と強さを身につけてほしいというニさんの孫たちへの教育でもある。

 「故郷の学校を中退しなければならなかった孫たちを見ていると、申し訳ない気持ちになります。たとえどんなに大変であろうと、孫たちのより良い将来のために、私はもっともっと働きます」とニさんは涙を浮かべた。

 幸い、アインさんたちきょうだいは、幼いころから自分たちの家庭の状況をよく理解しており、何かを要求することもなかった。

 店のキッチンに立つアインさんは、祖父母から「交代しよう」と言われても構わずに何時間もバインセオを焼き続ける。それはひとえに、高齢の祖父母を助けたいという一心からだ。

 学校を中退したため、アインさんには友達があまりおらず、いつも弟と妹と一緒にいる。両親や故郷の友達、先生が恋しくなることも少なくないが、弟と妹のために強くいなければと自分に言い聞かせている。

 将来の夢について聞かれると、アインさんは困惑して頭をかき、まだ想像もできないという様子を見せた。アインさんはしばらく考えてから、微笑んで短くこう言った。「弟と妹がお腹いっぱい、美味しくごはんを食べられることかな」。

 来年度、アインさんたち3人は学校に戻り、勉強を続ける予定だ。そして、自分たちの力で将来を変えていくのだろう。 

[Dan Tri 13:04 20/02/2024, A]
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