VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

配車アプリ運転手の労働組合長として活躍する「U70」女性

2025/04/20 10:11 JST更新

(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
 ボー・ティ・トゥー・スオンさん(女性・68歳)は、南中部沿岸地方ダナン市の中心部で、シンガポール系配車アプリ大手グラブ(Grab)のバイクタクシーの運転手をしている。彼女は労働組合関係者の間ではよく知られた存在で、ダナン市の配車アプリの運転手たちのリーダー的存在でもある。最近、ダナングラブ配車アプリ運転手労働組合の委員長に選出された。

 スオンさんはふくよかな体格で、68歳になっても若者のように活発だ。自分と同じように年配の女性で配車アプリの運転手をしている人は他にもいるのかと尋ねられると、スオンさんは「配車アプリの運転手をしている女性はたくさんいますが、白髪まじりの年配で、それも労働組合の委員長を務めている女性なんて私だけですよ」と笑って答えた。

 スオンさんがグラブの運転手になる前はホーチミン市の病院で働いていたことを知る人はほとんどいない。ダナン市出身の彼女は学業と仕事のためにホーチミン市に移り、市内の病院で調剤補助員として長年勤務していたが、医療施設の組織改編により職を失った。

 2003年に病院を退職した後、スオンさんは野菜や果物の露天商として働き、生計を立てようとしたものの、家族を養うには稼ぎが不十分だった。そして2017年、新たな仕事を探すため、故郷のダナン市に戻った。

 故郷に戻ると様々な仕事に挑戦したが、満足のいくものはなく、収入も少なかった。ちょうどその頃、グラブがダナン市でサービスを拡大しており、緑色のユニフォームを着た運転手たちが道路を行き交う様子を見て、スオンさんは運転手の仕事に応募することを思いついた。

 2017年初頭のある日、スオンさんはレズアン通りにあるグラブのオフィスを訪ね、運転手に応募したい意思を伝えた。しかし、朝から晩まで外を走り回る過酷な労働は年配の女性には合わないと、多くの人はスオンさんの意思に疑念を抱いたという。

 「何度も足を運んで、働きたいこと、体力は十分にあること、ダナン市の道路や路地に詳しいことを繰り返し伝えました。ようやく信じてもらい、採用されてから今日までずっと続けています」とスオンさんは振り返る。

 この7年間、ダナン市内でスクーターを機敏に走らせるスオンさんの姿は、多くの運転手仲間にとってすっかり見慣れた存在となった。また、頻繁にオンラインショッピングを利用する常連客とも顔なじみになった。

 スオンさんがグラブの運転手の仕事を始めたばかりの頃は、仕事に慣れず、戸惑いがあったという。しかしすぐに慣れ、今では毎日忙しく走り回っている。運転手は大変な仕事で危険も伴うが、それでもスアンさんは情熱を持ってこの仕事に取り組んでいる。

 「今まで色々な仕事をしてきましたが、グラブの運転手の仕事が一番好きです。いつも忙しく街中を走り回り、路地の隅々まで知ることができ、毎日たくさんの運転手仲間と交流することができるので、外出しない日は何だか物足りない気持ちです。時々、配車の予約をしたお客さんのところへ迎えに行くと、お客さんが私を見て驚き、本当に私が運転手なのかと尋ねてくることがあります。私は『そうですよ。ナンバープレートも名前もアプリの通りです』と笑って答えるんです。乗車後にチップをくれる方や、電話番号を交換してくれる方もいますよ」とスオンさんは笑いながら語る。

 グラブの運転手のチン・ゴック・ズンさん(男性)は、女性のスオンさんよりも男性の自分のほうが頼りなく感じることが多いと話す。「スオンさんは年配でしかも女性ですが、本当に元気なんです!彼女は1日の終わりにしかアプリをオフにしないので、我々はとてもじゃないですが彼女に追いつけません。いつでもどこでも街中で見かけますし、誰かが助けを求めればすぐに駆けつけてくれるんです」とズンさんは語る。

 スオンさんはそのしっかりした性格と熱意から、運転手仲間たちにとってリーダー的存在となっている。病気やトラブル、支払い拒否や受け取り拒否などの問題が発生すると、運転手仲間たちはスオンさんを頼りにする。助けを求められれば、スオンさんは即座に解決策を講じ、周囲に協力を呼び掛ける。

 グラブの運転手たちによると、スオンさんを中心に、長年かけて苦しみを分かち合いながら、仲間としてのコミュニティが築かれたのだという。そして、投票などはなかったが、満場一致でスオンさんがグループリーダーに選出された。

 ダナン市ではオンラインショッピングの普及に伴い、配車アプリの運転手の数も急増し、2022年以降は配達中の事故やトラブルも続発している。

 ダナン市にはグラブを含めて数千人もの配車アプリの運転手がいる中、リスクの高まりを感じたスオンさんは、ダナン市労働連盟を訪ね、運送業の運転手に特化した労働組合の設立手続きについて指導してもらった。

 「私は国の機関で働いた経験があり、教育も十分に受け、様々な環境も経験してきたので、配車アプリの運転手に特化した労働組合があることは知っていました。ダナン市ではまだ新しいですが、大都市ではすでによく知られた存在です」とスオンさんは話す。

 2024年7月10日、ダナン市労働連盟の主催により、ダナングラブ配車アプリ運転手労働組合の発足式が開催された。委員長に選ばれたのは他でもないスオンさんだ。式典でスオンさんはグラブのユニフォームを着てステージに上がった。ステージの下では、200人近い運転手仲間がその姿を見守っていた。

 「決定書を受け取り、自分の名前と『委員長』という肩書きが並んで書かれているのを見て、思わず笑ってしまいました。『委員長』というと誰もが富や権力を連想しますが、私みたいな委員長には誰もなりたがらないでしょう」とスオンさんは笑う。

 スオンさんはダナングラブ配車アプリ運転手労働組合の委員長の職に加え、運転手仲間たちの推薦でダナン配車アプリ運転手協会の会長にも選出された。「委員長」と「会長」の肩書きがありながらも、スオンさんは今もなお毎日市内のあちこちを走り回り、商品や乗客を目的地まで送り届けている。

 配車アプリの運転手は、風雨や日差し、土埃の中で働かなければならない過酷な仕事だが、収入は食費やガソリン代を除くと月に1400万~1500万VND(約7万6500円~8万2000円)ほどにしかならない。さらに、運転手は常に事故や受け取り拒否、支払い拒否のリスクにさらされている。

 「私たち運転手の集まりはまさに『共に苦しむ人々の集まり』です。労働組合ができたことで、皆で声を上げてお互いを守れるようになりました。トラブルの解決を手伝ったり、仲間の家族が困っている時にはお金を出し合ったりして助け合っています。私自身もお客さんに支払いを拒否されたり、商品の受け取りを拒否されたりというケースに何度も遭遇してきました。以前は自分で損失を被っていましたが、今はグラブの方針が変わり、多くのサポートを受けることができるようになりました」とスオンさんは語る。

 データによると、ダナン市には現在、約1万6000人の非公式部門で働く労働者がおり、このうち数千人が配車アプリの運転手だという。スオンさんが委員長を務めるダナングラブ配車アプリ運転手労働組合には約300~400人のドライバーが加入しており、互いにつながり、リスクを回避するために専門的なスキルを共有している。

 スオンさんは、当局や配送会社との会合にも運転手仲間を代表して参加し、運転手の権利向上に向けた提言を行ってきた。

 「会議には必ずダナン市労働連盟と、労働組合執行委員の代表者が同席します。以前は代表組織がなかったので提言もなされませんでしたが、今は政府の支援もあり、発言力が増しました。運転手を雇用する企業は、提言に耳を傾けなければなりません。そうでなければ、私たちは関連当局に支援を要請します」とスオンさんは力を込めて語った。 

[Tuoi Tre 05:45 05/03/2025, A]
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる