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[特集]

8人兄弟の学者一族「グエン・ラン家」、故クオン氏を偲ぶ【前編】

2025/06/22 10:19 JST更新

(C) dantri
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 ベトナムを代表する考古学者・人類学者で、音楽家としても知られるグエン・ラン・クオン(Nguyen Lan Cuong)氏が2025年5月6日、ハノイ市のベトナム国家大学ハノイ校(ハノイ国家大学)医科薬科大学附属病院で死去した。84歳だった。

 クオン氏は、辞書編纂者・作家で「人民教師」の称号を授与された故グエン・ラン(Nguyen Lan)氏の息子だ。クオン氏は兄と姉、弟たちとともに、きょうだい8人で父親に倣い、学者一族としての伝統を築き上げた。

 クオン氏の弟で、一家の七男であるグエン・ラン・チュン(Nguyen Lan Trung)氏は、家族の写真を静かに見つめながら、この世を去ったばかりの兄を思い、感情を抑えきれずにいる。

 現地紙の取材に対してチュン氏は、兄の死は家族にとって大きな喪失であり、病気の発見が遅れたことを皆が悔やみ、悲しみに暮れていると語る。

 チュン氏によれば、クオン氏が亡くなる3か月ほど前、一家の六男で、元ハノイ医科大学学長・元ベトナム心臓血管研究所所長であるグエン・ラン・ベト(Nguyen Lan Viet)氏が、クオン氏の健康状態に異変を感じ、病院を受診させたのだという。

 「検査の結果、兄は末期の胃がんと診断されました。家族はその知らせを聞いて悲しみましたが、それでも兄は『大丈夫だよ』と私たちを励まし、家族があれこれ考えたり心配したりしないよう、明るい話をして笑わせてくれました。おそらく、兄は科学の力を信じ、病は乗り越えられると楽観的だったのでしょう。でも、医療従事者が家族にいながら、末期になるまで病気に気づけなかったことが残念でなりません」とチュン氏は話す。

 チュン氏によれば、きょうだいの中で最も陽気だったのがクオン氏で、彼はいつも家族に笑いをもたらし、きょうだいの絆を強め、その明るさとポジティブさで誰からも愛される存在だったという。

 クオン氏は80歳を過ぎてもバイクで仕事に出かけ、子供や孫が「危ないから」と送迎を申し出ても、故ホー・チ・ミン主席の名言を真似て「独立と自由ほど尊いものはない。自ら動くことほど楽しいものはない」と冗談交じりに話していたそうだ。

 クオン氏は、考古学者・人類学者として1093体もの人骨を研究した功績から、ベトナム版ギネスブックのベトナム・ブック・オブ・レコード(ベトキングス=Vietkings)から、「ベトナムで最多の1093体の古代人の骨を研究した人物」として認定されたこともある。

 クオン氏は、類まれなる情熱で全国各地の遺跡や洞窟に足を運び、古代人の痕跡を収集・復元・保存するために奔走した。そして、古代人の骨を扱うクオン氏の手は「黄金の手」とも呼ばれた。

 「考古学研究所の多くの研究者や職員が、兄は古代人の骨の研究の分野で傑出した人物だったと認めています。兄はまた、ハノイ市のダウ寺の2体の像のような即身仏を調査し、『像葬』という形式を発見しました。研究者チームを率いてこの即身仏の修復も手がけました。最近では、彼の著書『人骨は私たちに何を語るのか?(Bo xuong nguoi noi voi chung ta dieu gi?)』が、2024年の第7回国家図書賞でB賞を受賞しました」と、チュン氏はクオン氏の研究への情熱と貢献について語る。

 クオン氏は、末期がんと判明する数か月前までハノイ市ホアイドゥック郡キムチュン村のブオンチュオイ(Vuon Chuoi)遺跡で数百体の人骨を発掘していた。この古代の墓地には、青銅器時代にあたる約4000年前の先ドンソン文化(フングエン文化後期~ドンダウ文化初期)と、約2000年前のドンソン文化に属する墓が集中しており、クオン氏はこれらの研究を通じて、現在のハノイ市の地域に先史時代から人類が存在したことを証明し、その歴史を解き明かすことを目指していた。

 人生の大半を研究に捧げたクオン氏だが、その一方で、過酷な発掘現場や研究室での徹夜作業の合間には、音楽にも情熱を注いでいた。

 チュン氏によれば、若かりし頃、クオン氏はハノイ市のリートゥオンキエット3A高校(現在のベトドゥック高校)の合唱団のリーダーとして地域の生徒たちの間で有名だったといい、生徒・学生向けの作曲コンテストでも数々の賞を受賞していた。

 きょうだいたちも皆、音楽が好きだったが、長男のトゥアット氏を除けば、クオン氏が最も多くの楽曲を生み出したのだという。

 「兄は音楽で20もの国家賞を受賞し、ハノイ音楽協会の常任副会長も務めました。ここ数年の間にも、兄はハノイ市の数々の舞台に立っていました。兄は、若々しくて明るくて、常に皆に元気と笑顔を与えてくれる、そんな存在でした」とチュン氏は語る。

後編に続く
 

グエン・ラン家の7男1女◇(長男)故グエン・ラン・トゥアット(Nguyen Lan Tuat)氏:元ロシア・ノヴォシビルスク音楽院理論・作曲科主任、ベトナム人初のロシア功労芸術家

◇(長女)故グエン・テー・チン(Nguyen Te Chinh)女史:元ハノイ師範大学教員

◇(次男)グエン・ラン・ズン(Nguyen Lan Dung)氏:元応用微生物学センター所長、第10〜12期国会議員、ハノイ国家大学傘下自然科学大学教員、ベトナム祖国戦線中央委員会科学・教育諮問評議会副議長

◇(三男)故グエン・ラン・クオン(Nguyen Lan Cuong)氏:ベトナム考古学協会事務総長、ハノイ音楽協会常任副会長、ベトナム古生物学・層位学協会副会長、ハノイ芸術文化連合協会検査委員長、ハノイ国家大学教員

◇(四男)グエン・ラン・フン(Nguyen Lan Hung)氏:ベトナム生物学協会事務総長、ハノイ師範大学教員

◇(五男)グエン・ラン・チャン(Nguyen Lan Trang)氏:ハノイ工科大学教員

◇(六男)グエン・ラン・ベト(Nguyen Lan Viet)氏:元ハノイ医科大学学長・元ベトナム心臓血管研究所所長、元ハノイ医科大学心臓血管部門主任、ベトナム心臓血管協会副会長

◇(七男)グエン・ラン・チュン(Nguyen Lan Trung)氏:元ハノイ国家大学傘下外国語大学副学長、ベトナム言語学協会会長、ハノイ市越仏友好協会会長

 さらに、8人兄弟の子供と孫、すなわちグエン・ラン氏の孫とひ孫たちもまた、一族の伝統を継承し、学術分野で多くの功績を残している。グエン・ラン家には、婿や嫁も含めて約20人の教授・准教授・博士がいる。  
 

[Dan Tri 05:58 09/05/2025, A]
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