VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

無料のピアノ教室、シニアの「眠っていた夢」を育てる場に

2025/08/03 10:00 JST更新

(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
(C) tuoitre
 毎週火曜日と金曜日の午前9時から11時まで、ホーチミン市ヒエップビン街区(旧トゥードゥック市の一部)リンドン通りにある「無料のピアノ教室」には、美しいピアノの音色が響きわたる。

 このピアノ教室は、チャン・ティ・トさん(女性・41歳)がもともとは子どもたちのために始めたものだが、今では年配の人々にとっての「眠っていた音楽の夢」を育てる場所になっている。

 ホーチミン市チャインフン街区(旧8区の一部)在住のブイ・トゥアン・キエットさん(男性・71歳)は、「子どもの頃、ギターを少し弾いたことがありますが、ピアノは夢のまた夢でした。老後を迎えた今、こうしてピアノに触れることができて幸せです」と語る。

 火曜日と金曜日の朝はいつも、キエットさんは自宅から17km離れた教室までバイクで通い、6年近くもこの習慣を続けている。キエットさんは、教室に最も長く通っているというだけでなく、初心者にも手取り足取り教えていることから、他の生徒たちに「クラス長」と呼ばれ、慕われている。

 初心者の年配の生徒たちは、音符の読み方などの基礎から学んで、徐々に難易度を上げていき、一定期間の練習で1曲を演奏できるようになる。

 マック・バン・ミーさん(男性・76歳)と、ダウン症の息子のマック・ダン・ムンさん(男性・37歳)にとって、この教室は単なるレッスンの場というだけでなく、父と子の絆を深める特別な場にもなっている。

 教室がある日はいつも、父親のミーさんがムンさんをバイクに乗せて、自宅から15kmの距離を送迎している。ミーさんは、息子がピアノに夢中になっている姿をただ見守るだけでなく、息子と一緒に鍵盤を叩き、有意義な時間を共有している。

 「最初、息子のレッスン中は教室の外で座って待っているつもりでしたが、ト先生に誘われて私もレッスンに参加することにしました。私もピアノが好きですし、息子と一緒に学びたいと思ったんです」とミーさんは話す。

 この教室を始めたきっかけについて、トさんはこう振り返る。「76歳の女性を誘って試しに弾いてもらったところ、5~10分も教えただけで簡単な曲を弾けるようになりました。その女性は『思ったより難しくないわね』と驚いていました」。

 そこからトさんは、近隣のお年寄りを集めてピアノ教室を開くことにした。もちろん、年齢とともに手の震えや記憶力の低下などの健康上の問題が生じることも理解している。また、年配の人々は倹約的な考えを持っていることが多く、レッスン料を支払っても上達が遅かったり習ったことを忘れたりすると躊躇し、簡単にあきらめてしまいがちだ。

 「だからこそ、レッスン料は完全に無料にしました。お金の心配をすることなく、音楽への情熱を取り戻してもらいたいんです」とトさんは語る。

 この教室をインターネットで知ったホン・フオック・フウ・ファンさん(女性・60歳)は、2022年半ばに参加を申し込んだ。週2回のレッスンの日、ファンさんは午前7時30分には教室に到着する。「火曜日と金曜日が待ち遠しくて。ここは私にとって、第2の家のようなものですから」と語る。

 生徒たちがこの教室に通う理由は、音楽が自分にプラスの影響を与えてくれるからだ。ダオ・ティ・バンさん(女性・71歳)は、スマートフォンを使っていると目まいがして頭が痛くなるが、ピアノを習い始めてからというもの、頭がさえ、夜もぐっすり眠れるようになり、心も穏やかになったという。ピアノを練習することは、精神的にも身体的にもメリットがあるのだ。

 音符を覚える記憶力や両手を動かす柔軟性が必要なピアノの演奏は、年配の人々には難しそうにも見えるが、むしろその「壁」が健康の増進につながる。

 5年以上にわたりピアノを習っているキエットさんは、こう話す。「第1に、最初は硬かった関節が、ピアノを弾くうちに柔らかくなって痛みも和ぎました。第2に、音符を覚えることで脳が活性化され、老化による病気や認知症にもなりにくくなります」。

 トさんは生徒たちとの会話の中で、「年配の人々は、仕事に行くこともなくなり、自宅で四方の壁に囲まれて過ごすだけで、1日を長く感じている」ことに気づいた。年配の人々のこうした心の内を理解したトさんは、この10年間、オンラインとオフラインの両方の形式でレッスンを続けてきた。

 この4年間、トさんのアシスタントを務めているボー・ニャット・グエンさん(女性・28歳)も、年配の生徒たちが練習の進捗を嬉しそうに話してくれることが何よりの喜びだという。グエンさんは、「人の人生をより良くすることに貢献できたとき、自分自身の心も癒されるんです」と語った。 

[Tuoi Tre 12:58 21/07/2025, A]
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる