[特集]
建国80周年にカントーからハノイへ、夫婦で2000kmの自転車旅
2025/09/07 10:29 JST更新
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南部メコンデルタ地方カントー市ニンキエウ街区在住のチュオン・クアン・タイさん(男性・43歳)とホー・ゴック・トゥイさん(女性・40歳)の夫婦は、2025年9月2日の建国記念日80周年を祝うため、カントー市からハノイ市まで約2000kmの道のりを自転車で縦断した。これは、英雄烈士への感謝と、心からの愛国心を表すためのものだった。
秋の気配が漂うハノイ市では、建国記念日を祝って金星紅旗が旧市街の通りを埋め尽くしていた。そんな中、タイさんとトゥイさんは、自転車での長い長い旅を終えて、首都の地を踏んだ。
額には汗がにじみ、手は古びた自転車のハンドルをしっかりと握りしめていた。しかし、2人の目は輝いていた。それは、神聖な旅を終えたという、ただそれだけの理由からだった。
2人は7月22日にカントー市を出発し、8月27日にハノイ市に到着した。
この1か月余りの間、2人は共に自転車でベトナムを縦断した。焼けつくような日差し、嵐、洪水の中、険しい峠を越えてきた。何かを征服するためでも、誇示するためでもない。家族の願いを叶えるため、英雄烈士への感謝を表すため、そして、9月2日の建国記念日を自分たちなりの方法で祝うためだった。
トゥイさんはこう話す。「祖母は抗戦中に幹部をかくまっていて、叔父は傷病兵、伯母は連絡係だったんです。祖母は以前、ホー・チ・ミン廟を訪れたいと願っていましたが、機会ができた時にはもう身体が弱っていて行けずじまいでした。今は叔父も伯母も70歳を超えています。だから、私たちが代わりに行って、家族を代表してその願いを叶えようと思ったんです」。
この旅は、ちょうど2人の結婚15周年とも重なった。2人は観光や保養の代わりに、烈士墓地や歴史遺跡区、英雄記念碑を巡り、線香を供え、追悼し、感謝の意を表すため、自らの脚と心で国を体感する旅を選んだのだった。
2人はプロのサイクリストではない。出発前に中古の自転車を2台購入し、20日間ほど練習した。出発の日、忙しい仕事の合間を縫って練習していたその2台が、そのまま長旅の相棒となった。
「最初はもっと軽くていい自転車に買い替えようと思っていました。でも、もう脚もこの古い自転車に慣れてしまって。だからそのまま行くことにしました」とトゥイさんは語る。
南部メコンデルタ地方からハノイ市までの道中、焼けつくような日差しから絶え間なく降り続ける雨、大嵐まで、ありとあらゆる過酷な天候を経験した。北中部地方フエ市と南中部地方ダナン市の間にそびえるハイバン峠では、2人とも自転車を押して歩くしかなかった。カー峠やガン峠でも同じだった。
「ゲアン省(北中部地方)のあたりでは台風5号(アジア名:カジキ、日本では台風13号)に遭遇しました。ハノイ市に到着するのが建国記念日に間に合わないのではないかと心配で、嵐の中を進みました。風雨の中、11時間半も自転車を漕ぎ続けて、脚がくたくたになった日もあります。地滑りが起きたあたりを通った時は、冠水して水がサドルの近くまできていて、バイクは何台もエンストしていました。それでも、私たちの古い自転車2台は不思議と無事に通過できたんです。まるで誰かが守ってくれているような気がしました」と、トゥイさんは話す。
旅の間、2人は節約のために1日に夜の1食しかとらず、あとは水だけでしのいでいた。それはお金がないからではなく、節約した分を「恩返し基金」に寄付したかったからだ。
トゥイさんは、旅の様子をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿し始めた。最初はほんの数人が関心を示すだけだったが、徐々にフォロワーも増え、多くの人が2人の旅に感銘を受けて応援の寄付金を送ってくれるようになった。
数万VND(1万VND=約56円)を送金してくれる人もいれば、11~12歳の子どもが励ましのメッセージを送ってくれることもあり、年配の人からも寄付があった。
「個人的な金儲けのためにやっているのではないか」という噂も立ったが、彼女は黙って何も言わず、旅を続けた。2人が台風も峠も乗り越え、質素で誠実に暮らしている様子を見て、人々は次第に疑いの声を収めていった。
2人が集めた寄付金は9月3日までに1億0455万VND(約58万4000円)に達した。「私たちはお金を『もらう』つもりはありません。親切にしてくれた方にも、普通の金額を請求してもらって、自分たちで払います。でも、誰かが『感謝の気持ちを表したい』と言ってくれるなら、受け取ります。でもそれは、私たちのためではなく、この国のために命を捧げた人たちのためです」とトゥイさん。
2人が得た最も大きなものは、集まった寄付金でも、SNSでのシェア数でもない。それは、「感謝の気持ちに満ちた心」だ。その心は、自転車のペダルを漕ぐごとに、峠を吹く風を感じるごとに、烈士墓地で線香を手向けるごとに、育まれていった。
トゥイさんはこう締めくくる。「今の平和な世の中に暮らす多くの人たちは、『感謝の気持ちに満ちた心』の価値を忘れてしまっています。私たちは、それを皆さんに思い出してほしくて旅をしたんです。理屈ではなく、行動で、心で伝えるために」。
9月2日に建国80周年の軍事パレードを無事に見ることができた2人は、翌9月3日に銀行に立ち寄り、集めた寄付金の全額を「恩返し基金」に振り込んだ。そして、振り込み手続きを終えた2人は列車でホーチミン市に戻り、そこからカントー市の自宅へと帰って行った。
[PLO 19:41 01/09/2025, A]
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