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[特集]

「おかけになった電話は…」の音声案内で知られる「国民的声」の主

2025/09/14 10:25 JST更新

(C) vtcnews
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 キム・ティエンさんの「黄金の声」は、ベトナム国営テレビ局(VTV)の19時のニュース番組と共に長年親しまれ、電話がつながらなかったときに流れる「おかけになった電話は…(Thue bao quy khach vua goi...)」という音声案内でも広く知られている。

 1980年代から2000年代にかけて、数百万人のベトナム人視聴者にとって、ティエンさんの落ち着いた、明瞭で標準的な声は、VTVの19時のニュース番組の象徴だった。

 ティエンさんは、国営テレビ局のニュース番組で最も長く活躍したアナウンサーであり、さまざまな番組やドラマでも世代を超えて愛された「国民的声」の主でもある。彼女はベトナム政府から「優秀アーティスト(NSUT)」の称号を授与されている。

 1948年生まれのティエンさんは、VTVの初期に活躍した女性アナウンサーの1人だ。テレビの黎明期から30年以上にわたり、時事ニュースと共に歩んできた。

 ティエンさんの出発点はバレエダンサーであり、かつては舞台芸術の道を志していたことを知る人はほとんどいない。しかし、彼女は、縁があって放送業界という困難な道へと進むことになった。

 1970年、ティエンさんはベトナムの声放送局(VOV)のアナウンサー試験を受けるも不合格だった。翌年、ラジオ・テレビ部門に挑戦するも再び不合格。しかし1973年、努力の末に中央テレビ局の文芸部門に採用され、2年後に時事報道部門へ異動し、キム・ティエンという名前が広く知られるようになった。

 ティエンさんは、明るく舞台映えする容姿と、温かく表現力豊かな声で、たちまち人気アナウンサーになった。ニュース番組だけでなく、ドラマのナレーションでも名を馳せ、中でも1986年放送の中国ドラマ「西遊記」のベトナム語吹き替え版は、今でも多くの視聴者の記憶に残っている。

 ティエンさんの声は、「こちらはベトナムの声放送局です(Day la Dai Tieng noi Viet Nam.)」や、「おかけになった電話は現在おつなぎできません。後ほどおかけ直しください(Thue bao quy khach vua goi hien khong lien lac duoc, xin quy khach vui long goi lai sau.)」などの音声案内でもおなじみだ。そんな彼女は国営テレビ局の「伝説の声」として親しまれている。

 ティエンさんは、テレビの黎明期の苦労をこう振り返る。「当時は磁気テープすらなく、すべてフィルムで撮影していました。記者は重いカメラを担ぎ、フィルムを使って撮影し、それを持ち帰って現像し、やっと映像になったんです。ニュース1本を作るのに、アナウンサーから技術者、画像のタイミング係まで、数十人が関わっていました」。

 ティエンさんによれば、あの厳しい職場環境こそが、初期のアナウンサーたちに絶対的な慎重さとプロ意識を植え付けたのだという。スタジオでは、服装や座っているときの姿勢、マイクの位置まで厳しく管理され、ときには集中しすぎて咳やくしゃみを忘れることすらあったという。

 「読み間違えたり1文字でも噛んだりすればすぐに注意され、場合によっては厳しく叱責されました」とティエンさんは語る。しかし、そのプレッシャーこそが、仕事を愛し、仕事に生きる原動力になった。

 アナウンサーとして手本であり続けるため、彼女は毎日粘り強く練習を重ねた。鏡の前で、笑顔、目線、座り方、原稿の持ち方まで1つ1つを調整した。当時は養成学校もなかったため、ほとんどが独学と向上心、個人の努力に頼っていた。

 26年間にわたりテレビ業界に携わってきたティエンさんの名前は、「ゴールデンタイム」の19時のニュース番組と共にあった。2001年5月にニュース番組のアナウンサーを引退し、番組部門へ異動した。そして、「テレビのお便り(Hop thu truyen hinh)」の番組を担当した後、2002年には完全に退職し、30年以上にわたる国営テレビ局でのキャリアに幕を閉じた。

 ティエンさんは、現場を離れても、放送業界から離れたわけではなかった。ティエンさんは、ラジオ・テレビの養成講座を開き、若手に経験を伝授した。現在活躍する司会やアナウンサーの多くも、彼女の教え子だ。彼女は生徒にいつもこう伝えている。「声はただの道具。何よりも大切なのは、仕事に対する『心』よ」。

 80歳近くなった今、ティエンさんは夫のそばで、穏やかで幸せな生活を送っている。夫は化学博士で、知的で理解と敬意がある。彼女によれば、2人は信念と人生観が一致しているからこそ、何十年も自然と強い絆で結ばれてきたのだという。

 幼少期は水泳選手としても活躍したティエンさんにとって、スポーツは健康の源だ。今はあまり運動しなくなったが、自分の身体の声に耳を傾け、ゆっくりと落ち着いた生活を送るようにしている。

 ティエンさんの喜びは、養成講座の教室でさまざまな年代の生徒たちから「先生」や「おばあちゃん」と呼ばれることだ。家庭では、子どもや孫たちが素直で健康に育っていることに満足している。娘はすでに結婚しており、孫は大学生になった。

 ティエンさんの温かい声は、多くの視聴者の記憶に深く刻まれている。街中で声を発すれば、周りの人々がすぐに彼女だと気づいて微笑むことも少なくない。それこそが、アナウンサーという仕事の特別な幸せでもある。声だけで人々に愛され、人々の記憶に残るのだ。

 「声を維持するための特別な秘訣なんてありません。これは神様からの贈り物です。大切なのは、心を落ち着け、穏やかに生きることです」とティエンさんは語った。 

[VTC News 10:44 08/09/2025, A]
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