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[特集]

「我が家」を夢見る18歳の少女

2025/09/21 10:28 JST更新

(C) VnExpress
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 南部メコンデルタ地方ドンタップ省に住むファン・ゴ・ジエム・フオンさん(女性・18歳)には「我が家」がない。フオンさん一家は「自宅」を持ったことがなく、フオンさんはこの18年間、母方の祖父母や叔母の家などを転々としながら暮らしてきた。

 フオンさんの母親であるファン・ティ・トゥー・タムさんは、フオンさんが生まれる前に結婚生活が破綻し、実家に戻って子育てをしながら、カオライン市場で露天商をして生計を立てていた。しかし、フオンさんが生後間もない頃、露天商の売り上げでは日々の生活費が賄えなくなり、タムさんは兄の嫁であるレ・ビック・ゴックさんに娘を託した。

 「露天商の仕事中に何度も倒れたので、彼女は仕事を辞めて工場労働者になり、年をとってから家政婦になりました。フオンが生後1か月と17日の時から今までずっと、私がフオンの面倒を見ています」とゴックさんは話す。

 当初、ゴックさんとフオンさんは母方の実家で暮らし、生計を立てるために出稼ぎに行く親たちが置いていった何人もの子供たちと一緒に、苦しい生活を送っていた。ゴックさんも貧しかったが、脳性麻痺で娘を亡くしたばかりだったこともあり、夫側の親戚の子供たちのことを気の毒に思っていた。

 「近所の人がいつも市場で野菜を拾ってきて豚に食べさせていたのですが、まだ新鮮な野菜があった日には、私に声をかけてくれたんです。いくらか選んで持ち帰り、きれいに洗って茹でてから子供たちに食べさせていました。それでも、みんなよく食べていましたよ」とゴックさんは当時を振り返る。

 子供たちはお粥と野菜を食べて育った。世の中には、両親が自分で育てられず、他人に預けられる子供や、送り迎えをしてくれる人がおらず、学校に通えない子供もいる。そんな中でも、フオンさんと他の子供たちはどんなに貧しくても学校に通い、勉学に励んだ。

 7年前には、フオンさんの姉であるゴ・トゥエット・ズンさんが、大学の観光学専攻に合格した。ズンさんは、学費を稼ぐためにアルバイトにも勤しんでいたが、フオンさんと、年老いて病気を抱えながらも家政婦として働きに出ている母親を思い、大学2年生のときに休学し、海外派遣労働者として日本で働く道を選んだ。ズンさんが母国に送金するわずかな金額が、フオンさんと母親の生活費や医療費に充てられている。

 中学生時代、フオンさんは授業のかたわら母親の露天商の仕事も手伝い、洗い物や配膳をこなしていた。両親に見守られながら楽しそうに過ごしている友人の姿を見ると、フオンさんは一瞬だけ悲しさを感じたが、すぐにまた生活のために働く人々の中に溶け込んでいった。

 激しい雨が降った日には、母子は雨宿りをする場所も見つけられず、全身ずぶ濡れになってしまった。それでも、出費がかさむ中で収入を途絶えさせるわけにはいかず、2人は1日も休むことなく仕事をした。

 フオンさんの記憶に残っているのは、母方の祖父母の家だ。わびしい路地裏にあるトタン屋根の家は隙間だらけで、雨が降ると四方八方から雨漏りした。床で寝ていたため、雨の夜は家族全員が眠れぬ夜を過ごした。

 幼少期の悲しい思い出から、フオンさんは小さな「我が家」を持つことを夢見ている。自分が稼ぎ手になり、母親の負担を減らし、姉も復学して学業に専念することができる環境を整えたいのだ。

 高校生になると、フオンさんは学校に通いやすい叔母の家に引っ越した。学業に加え、時間を見つけては叔母の家事を手伝い、週末には工業団地の近くにある母親の下宿まで自転車で行き、掃除を手伝った。

 フオンさんは、叔母の家の小さなロフトに、勉強と就寝のためのわずかなスペースを設けている。これまでにもらったたくさんの賞状や証明書も壁には貼らず、引き出しの中にきれいにしまっている。

 節約のため、フオンさんが着ている服も母親が中古市場で買ってきたものだ。大きな袋に数十着の古着が入っており、数万VND(1万VND=約56円)でまとめて買うことができる。

 学校に通い始めた頃から、フオンさんが使う教科書やノートなどの学用品もすべて、彼女自身が獲得した賞や奨学金、あるいは地方当局から贈られたもので賄ってきた。学費については、フオンさんの家族が貧困・準貧困世帯に該当するため、免除されている。

 姉が働くために休学することを決めた日、フオンさんは、姉が自分を学校に行かせるために夢を諦めたのだと理解し、涙をこらえてその決断を受け入れた。そして、姉の犠牲を無駄にしないよう、さらに努力して学業に取り組むようになった。

 12年間の在学中、フオンさんは常に成績優秀で、クラスの模範的な学級委員としても活躍してきた。高校2年間は、地理の科目で優秀な生徒として省から表彰されるまでになった。

 フオンさんは今後、家の近くの大学でコミュニケーション学または教育学を学ぶ予定だ。また、学費を工面するためにアルバイトも探すつもりだという。 

[VnExpress 00:25 11/07/2025, A]
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