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[特集]

老後に帰国、母国の老人ホームで暮らす越僑たち

2025/10/05 10:34 JST更新

(C) VnExpress
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 午前7時30分、越僑(在外ベトナム人)として米国で暮らしていたトゥー・ハーさん(女性・67歳)は、自分で車を手配し、「授業に行くの」と冗談を言いながら、自宅から7km離れたデイケアセンターに向かう。

 この5か月間、ハーさんはセンターに通い、10人以上の高齢者とともに関節痛を和らげるためのリハビリクラスに参加している。ボールをパスしたり、リズムに合わせて手足を上げたり軽く動かしたりしながら、深呼吸を交えて運動する。

 運動の後は仲間と談笑し、昼食をとる。午後は絵画やダンスのクラスがあり、彼女のこの「授業の日」は、薬草風呂で終える。「17時に家に帰ると、身体は軽いし、気分もすっきりしているんです」とハーさんは語る。

 ハーさんにとって、ベトナムでの今の暮らしは、米国にいたころに比べて格段に楽しいという。米国には10年以上も住んでいたが、結局異国の生活にはなじめなかった。

 息子夫婦はネイルサロンと美容院の経営で忙しく、母親であるハーさんとは夜にほんの一言二言交わす程度だった。7年前に夫を亡くして以来、ハーさんの孤独と郷愁は深まるばかりだった。

 2024年、ハーさんはベトナムへの帰国を決断し、ホーチミン市チョロン街区にある古い家でいとこと暮らし始めた。最初の数か月は友人もほとんどおらず、心細い日々を過ごした。

 スイスに住む娘は母親がうつになるのではないかと心配し、高齢者向けのケアモデルについて調べた。ハーさんはまだ健康で身の回りのことも自分でできるため、入居型の老人ホームは必要なく、午前に行って午後に帰る、デイケア施設が理想的な選択だった。

 ハーさんは、センターに通い始めて3週間で親しい友人が2人できた。長年の関節痛も和らぎ、5か月後には「退屈に感じる瞬間なんてもうありません」とまで言うようになった。

 在外ベトナム人企業家協会のピーター・ホン常任副会長によれば、現在、世界各国で約550万人のベトナム人が暮らしており、このうち20%以上が定年を迎えているか、間もなく迎えるという。

 その多くがベトナムに帰国し、生活を送り、投資を行い、自分のルーツとつながりたいと望んでいる。協会の内部調査によれば、オーストラリアでは約35万人の越僑が暮らしているが、このうち約17万人が老後に帰国を希望していることが分かった。

 米国ウェストバージニア大学で社会福祉学分野の修士号を取得したドアン・ティ・ゴック氏は、多くの越僑が老後に母国への帰国を選択する理由として、以下の3つを挙げている。

 第1に、「落葉帰根」の心理で、母国語を話し、郷土料理を食べ、同じ文化を共有するコミュニティの中で暮らしたいという渇望がある。

 第2に、ベトナムはインフラや利便性が日に日に発展しつつあり、現代的なライフスタイルを享受できる一方、海外よりも生活費が安いことがある。

 第3に、医療費、特に慢性疾患の医療費は、海外では保険があっても非常に高額であるのに対し、ベトナムでは多くの専門的な医療サービスが低コストで利用でき、アクセスもしやすいことがある。

 「ベトナムには親孝行や高齢者を敬う文化があります。多くの越僑は、家族の中で役割を持ち、子供や孫に話を聞いてもらい、尊重されたいと願っています」とゴック氏は語る。

 ナンシー・ホンさん(女性・73歳)とキエン・トゥオンさん(男性・78歳)の夫婦は、もともとベトナムで老人ホームへの入居は計画していなかった。夫婦は1978年に米国へ移住し、定年後はたびたび親族を訪ねてベトナムに帰国していた。

 しかし、2024年末の帰国中、トゥオンさんのパーキンソン病が急に悪化し、徐々に歩行が困難になっていった。米国で暮らし続けるなら老人ホームに入居しなければならず、月8000USD(約118万円)の費用がかかる。

 熟慮の末、夫妻はベトナムに留まることを決め、ホーチミン市にある施設を選んだ。個室と介助者がついて、費用は月約2000万VND(約11万円)だ。

 「ここは50人の高齢者が暮らす大家族のような雰囲気で、若いスタッフの子たちは我々のことを『お父さん』『お母さん』と呼んでくれるんです」とホンさんは話す。

 ハノイ市にある老人ホームのチャン・ティ・トゥイ・ガー所長によれば、これまでに10人以上の越僑を受け入れてきたという。多くは経済的に恵まれていたが、健康や境遇、または海外生活への適応の難しさからベトナムに帰国することを選んだ。

 その1人で、チェコから帰国したグエン・ティ・ホアンさん(女性)は、2018年に2人の娘に呼ばれて渡欧し、一生をそこで過ごすつもりだった。

 しかし、ホアンさんは2023年末、脳卒中を起こして入院した。言葉の壁で医師とのコミュニケーションに苦労し、治療は薬物療法のみで理学療法がなく、症状は改善しなかった。半月の入院と3か月の在宅療養を経ても、寝たきりの状態が続いた。

 「毎日、窓の外の灰色の空を眺めながら、何の治療もせず、薬を数錠飲むだけで、とても焦りを感じました」とホアンさんは振り返る。

 2024年3月、ホアンさんはベトナムへの帰国を決断し、ハノイ市リンナム街区にある老人ホームに入居した。理学療法や介護士、ソーシャルワーカーの支えのおかげで、現在は起き上がって飲食ができるまでに回復した。ただ、歩行だけはまだ困難だ。

 「人に頼らなければならず、子供や孫と離れて暮らすことに落ち込むときもあります」とホアンさんは語る。「でも、少なくともここでは、食べたいもの、話したい相手、受けたい治療を自分で選択し、それに応えてもらえるのだからと自分に言い聞かせています」と続けた。 

[VnExpress 06:00 26/09/2025, A]
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