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[特集]

貧しい人々の「最期の眠り」を見届けて20年、無償で葬儀を行う男性

2025/11/30 10:41 JST更新

(C) thanhnien
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 ホーチミン市ニャーベー村には、貧しい人々や身寄りのない人々の最期を見送ることに人生のすべてを捧げてきた男性がいる。

 地元の人々は、ニャーベー村74集落の長であるレ・バン・サンさんを、親しみを込めて「チン・サンおじさん」と呼んでいる。

 白髪が混じり始めたサンさんは、20年以上もの間、昼夜を問わず電話番を続けてきた。誰も選びたがらない仕事を黙々と続け、ただただ、貧しい人が安らかな「最期の眠り」につけるようにと願っている。

 真夜中、ニャーベー村の小さな家に電話が鳴り響く。サンさんは、20年間で身についた反射のように、跳ね起きる。「どこから呼ばれても行きますよ」と、しわがれながらも力強い声で短く言う。サンさんにとって、どの電話も「お願い」であり、「安らかに眠りたい」という1つの人生からの声でもあるのだ。

 この仕事との縁について問われると、サンさんは穏やかに微笑みながらこう話す。「家族の中で、この仕事に関わっているのは私だけです。たぶん、人生が私に、この道を与えたんでしょう。この仕事は、心がなければできません。縁や運命があってこそ、できるんです。誠心誠意取り組めば、自分の心も穏やかになりますし、亡くなった人も安らかに眠れます」。

 もともとは雇われ仕事から始まり、棺を担ぎ、作業の工程を1つずつ覚えていった。1993年、知人と共同でホーチミン市旧7区タンキエン街区(現在のタンフン街区)に棺屋を開いた。2020年には独立し、棺屋をニャーベー村の自宅近くに移した。

 貧しい人々がきちんとした葬儀もできずに亡くなっていく姿を何度も見てきたサンさんは、2005年から、貧しい人々のために無償で葬儀を行うことに人生を捧げてきた。半生を経たが、これまでに何人の葬儀を無償で引き受けたのか、もはや思い出せないほどだ。ただ、「最期くらいは誰もが穏やかに逝けるように」と自分に言い聞かせ、その一心で人々を助けてきた。

 サンさんは、平均して月に5~7件の葬儀を無償で引き受ける。多い月には昼夜を問わず、ひっきりなしに依頼の電話が鳴り響くこともあるが、それでも断るという選択肢はない。

 「棺を仕入れたら仕入れただけ、全部使います。人々が助けを求めてひっきりなしに電話をかけてくる月もありますが、頼まれたら断りません。大切な人を失った悲しみを前にして『できません』とは言えませんから」と、サンさんは遠くを見つめてゆっくりと語る。その姿には、今もなお心に焼き付いて離れないであろう、たくさんの別れの思い出が垣間見える。

 サンさんが行う葬儀は、棺、葬具、線香、喪服、香炉など一式を揃え、さらに貧しい家庭にはテントやテーブルと椅子も無償で提供する。1件の葬儀につき、およそ1000万VND(約5万9000円)ほどを自費で負担するという。身寄りのない人の場合は、葬儀から火葬、遺骨を寺に納めるところまで、すべてを引き受ける。

 葬儀の流れは、遺体の清拭、納棺、死者の氏名や死亡した年齢と日時の記録、入棺・出棺の儀式の日時の選定、儀式、祭壇の設営のほか、埋葬・火葬するまでご飯をお供えし、線香を絶やさないようにするなど、細部まで丁寧に行う。何百回も繰り返している作業だが、手を抜くことは一度たりともない。

 最近では、早産で亡くなった赤ちゃんの葬儀を無償で引き受けた。母親は心臓病を抱え、家庭も経済的に苦しかったため、サンさん夫婦が自ら家へ赴き、赤ちゃんに旅立ちの準備を整え、ぬいぐるみを買い、僧侶を招いて儀式を行い、火葬までを見送った。

 サンさん自身、経済的な負担にはなっているが、この仕事をやめようとは思っていない。貧しい家庭にとって、サンさんの存在は悲しみを和らげる最後のよりどころなのだ。

 サンさんは、貧しい人々の葬儀を行うだけでなく、地元の人々にとって頼れる存在でもある。サンさんは「困ったことがあれば、私のところに来ればいい。私にできることは何でもやりますよ」と優しく笑う。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応でホーチミン市全体が苦しんでいたころ、サンさんはあちこちをバイクで走り回り、必需品を届けていた。また、自治体と協力し、新型コロナで亡くなった人々の葬儀も行った。

 それだけではない。サンさんは、貧しい家庭のために家を建てる支援をし、寄付をし、急に困窮した家庭にもすぐに駆けつけてサポートしている。さらに、毎年旧暦7月16日には、地元の貧しい人々に計1t以上の米をひっそりと配っている。

 「地元の誰もが私の電話番号を知っています。呼ばれれば、すぐに駆けつけますよ」とサンさんは笑う。現在は地元の草の根治安維持チームの一員として、警察と協力して治安問題にも対応している。サンさんは、どんなことでも嫌がらず、たとえ深夜であっても必要とされれば現れる。

 そんなサンさんを支えてきたのは、陰で働き、理解し、寄り添ってきた妻の存在だ。サンさんによれば、妻は最初のころ、棺屋の前を通るだけで怖がり、顔をそむけて見ようともしなかったという。しかし、年月が経ち、サンさんへの思いと理解が深まるにつれ、妻は夫の仕事を受け入れ、静かにその重荷を一緒に背負うようになった。

 今では、唯一の息子と孫も、貧しい人々の葬儀を支える仕事を少しずつ受け継いでおり、サンさんにとっては何よりの喜びになっている。

 サンさんは、長年にわたる貢献により、地元の人々から愛され、尊敬されている。サンさん自身は、身体が動く限りはこの仕事を続けるつもりだ。そして、周りの貧しい人々の負担が少しでも減り、困難を乗り越える力を持てるようにと願っている。 

[Thanh Nien 06:13 24/11/2025, A]
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