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[特集]

車いすでピックルボールに打ち込む人々

2025/12/07 10:11 JST更新

(C) VnExpress
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 グエン・バン・フアンさん(男性・40歳)は毎週、東北部地方クアンニン省からハノイ市まで100km以上の道のりを三輪バイクで走り、ピックルボールに打ち込んでいる。フアンさんにとって、ピックルボールは障がいへのコンプレックスを忘れさせてくれるスポーツなのだという。

 11月中旬のある日の午前9時、ハノイ市ナムトゥーリエム街区トゥーホアン通りのピックルボールコートで、フアンさんは車輪の角度を調整しながら、試合前に仲間と一緒にウォーミングアップをしている。

 コートの上では、スポーツ用車いすがフアンさんの「足」だ。右手にラケットを握り、左手でホイールをつかんで方向をコントロールする。ラリーの最中、相手がネット際にドロップショットを打ってくると、フアンさんは上体をぐっと前に伸ばし、肩の力で車輪を前方に強く押し、ネット越しにボールを軽く返した後、反則にならないよう急ブレーキをかける。

 「一番難しいのは判断です。1秒でもためらったら、車いすを切り返すのが間に合わず、すぐにポイントを落としてしまいますから」とフアンさんは話す。ダブルスになると、連携の難しさがはるかに増す。広さの限られたコートの中を2台の車いすが動き回るため、ポジションを正確に分担しなければならない。意思疎通がうまくいかなければ、車いす同士が接触したり、ボールを拾いそこねたりする場面は避けられない。

 フアンさんは建築士で、2011年に労働災害で脊髄損傷を負って以来、車いす生活を送っている。心のバランスを取り戻そうと、ゴルフやアーチェリー、テニスなどさまざまなスポーツに挑戦してきた。しかし、2025年3月にベトナム障害者スポーツクラブ(VDADC)がピックルボールを試験的に導入すると、フアンさんはピックルボールにすっかり心を奪われた。

 フアンさんによれば、ピックルボールは、他のスポーツのように一部の筋肉だけを使うのではなく、全身の運動を必要とする。プレーするときは、背中、肩、腕をフル稼働させなければならない。激しい動きが続くことで神経が圧迫され、痛みが出ることもあり、長距離移動の負担もあって家族からは練習量を減らすよう勧められているが、それでもフアンさんは変わらず続けている。

 「このスポーツは、何かを『攻略する』ような感覚があって、やればやるほど『ハマる』んです。だから、痛みがあってもコートに出たくなります」とフアンさんは話す。事故をきっかけに内向的になっていたフアンさんは、ピックルボールのおかげで自信を取り戻し、「超えられない限界などない」と信じられるようになった。

 フアンさんだけではない。ハノイ市バックマイ街区在住のホアン・ハイ・イエンさん(女性・54歳)も、7月にピックルボールを始めた。自ら三輪バイクを運転して、練習コートに通っている。

 先天性の運動障害があるイエンさんにとって、ピックルボールは身体への負荷がちょうど良いのだという。イエンさんにとって、コートは健康づくりの場であると同時に、コンプレックスを払拭してくれる空間でもある。

 「障がいのある人だって、普通の人と同じように『国民的スポーツ』に参加し、楽しむ権利があることを証明したいんです」とイエンさんは語る。

 クラブで、フアンさんやイエンさんたちは我流で練習しているわけではない。ルールからラケットの握り方、車いすでの動き方や戦術に至るまで、プロの指導者から体系的に教わっている。

 イエンさんによれば、最初の頃は複数の筋肉を同時に使うことに慣れず、頻繁に痛みに悩まされたという。帰宅後、半日寝てようやく回復するという日もあったそうだ。

 VDADCのルオン・ティ・ミン・グエット会長によれば、クラブがピックルボールを広め始めたのは4月からだという。現在、クラブの会員150人のうち、実際にプレーしているのは40人で、平均年齢は20〜40歳だ。車いす利用者と手足に障害のある人の割合は半分半分だという。

 安全を確保するため、クラブは専属のコーチを雇い、海外の教材をベトナム人の身体に合うように編集し直している。しかし、最大の障壁は用具だ。

 ピックルボール専用の車いすは1台あたり1億VND(約59万円)もする。資金に限りがあるため、クラブで購入できたのはわずか数台で、他はテニス専用の車いすを改造して使用している。多くの会員は依然として日常生活用の車いすでプレーしており、車いすは重く、アシスト機能も不足している。

 また、練習コートの確保も課題だ。スポーツ用車いすのタイヤは特殊なゴムで作られているにもかかわらず、多くのコートのオーナーが「車輪でコートが傷むのでは」と懸念しているため、利用の受け入れを渋られることが多い。

 こうした物理的な困難を乗り越えながら、フアンさんと仲間たちは、間もなく開催されるパラピックルボールの大会に向けて、練習に励んでいる。

 障がい者によるピックルボールのムーブメントは、ハノイ市だけでなく、全国各地に広がりつつある。先頭を走るのはホーチミン市で、2023年6月にパラピックルボールクラブが設立され、現在は約30人のメンバーが活動している。

 2024年の「車いすピックルボール選手権」や、2025年の「ホーチミン市障がい者スポーツ選手権」など、規模の大きな大会も続々と開催されている。こうした中、ピックルボールは、障がいの有無を超えて共に楽しめる、意義ある交流の場となることが期待されている。 

[VnExpress 06:00 03/12/2025, A]
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