[特集]
湖の上の「越僑集落」、カンボジアから帰国した人々の暮らし
2025/12/14 10:22 JST更新
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東南部地方ドンナイ省ディンクアン村のスオイコー地区に面するチアン湖では、カンボジアから帰国した越僑(在外ベトナム人)150世帯以上が、電気も上水道もない水上家屋で暮らし、網漁で日々の生計を立てている。
レ・バン・サインさん(男性・46歳)は、兄と2人の娘とともに、夕暮れから夜明けまでチアン湖で網を引く。漁は9人家族の主な生計手段であり、大人も子どもも、男女を問わず湖に出て生活を支えている。サインさんの上の娘3人はすでに結婚しているため、12歳と13歳の下の娘2人が父親と一緒に漁に出ている。
チアン湖は、南部最大規模の水力発電所であるチアン水力発電所に併設された貯水湖で、面積323km2、貯水容量27億m3を誇り、ドンナイ省の旧4郡にまたがっている。貯水湖は発電だけでなく、下流域の水量調整や、ドンナイ省とホーチミン市の約1200万人に供給される上水用の原水源としても重要な役割を担っている。
サインさんの家族は、スオイコー地区のチアン湖の上で暮らす155世帯の1つで、その多くがカンボジアから帰国した越僑だ。
サインさんによると、漁は水位や天候に大きく左右される上、近年は漁獲量が急減しているという。「5~6年前は、1隻の舟で一晩に100~200kgの魚を捕ることができましたが、今はせいぜい40~60kgほどです」と語る。
漁を終えると、サインさんと他の住民は湖の上でそのまま魚を売る。かごに入れられたパンガシウスやライギョ、レンギョなどのさまざまな種類の新鮮な魚が、待機している商人の大型の舟に移され、計量と選別が行われる。
漁船1隻あたりの収入は、平均して1日30万〜50万VND(約1780~3000円)ほどだ。子どもが多かったり、扶養する家族が多かったりする家庭にとっては、日々の生活を何とか賄える程度の収入にすぎない。
漁場から約3km離れたところには、広さ20〜60m2の水上家屋が何十軒も立ち並ぶ集落がある。サインさんは、広さ約50m2の水上家屋に、老いた母親、兄、妻、子どもたちとともに暮らしている。ここに移り住んで1年ほどしか経っておらず、身分証明書もなく、不漁の日には家族全員が食べ物に困り、知り合いもいないため借金もできないという。
隣の水上家屋には、ハイ・ムオイさん(女性・44歳)一家が暮らしている。ムオイさんは14人の子どもを産んだが、病気で6人を亡くし、現在は広さ約20m2の水上家屋に10人がひしめき合って生活している。家族に病人が出るたび、医療費が払えず苦労が絶えない。魚を売って得る収入だけでは食費にも足りず、薬代が重くのしかかる。
他の多くの世帯に比べると、ムオイさんの家族は身分証明書を持っている点でまだ恵まれている。ムオイさんは、「漁が安定し、子どもたちが病気にならず、少しでもお金を貯めて家族全員で陸に上がり、子どもたちを学校に通わせたい。それだけを願っています」と打ち明ける。
この「越僑集落」に暮らす子どものほとんどは、兄弟姉妹が多く家計が厳しいため、小学校を卒業しても中学校には進学せず、働いて家計を支える。ムオイさんの娘であるルー・ティ・トゥーさん(17歳)は現在、弟妹を養う稼ぎ頭だ。サインさんの娘であるレ・ティ・フオンさん(12歳)は、家計が苦しく学校に通えずにいる。
ホー・イエン・ニーさん(12歳)は、小学3年生のときに学校を辞めたが、今も古い教科書を大切に持っており、いつか教室に戻ることを願っている。
波が高く、両親について漁に行けない日は、教科書を広げて弟に勉強を教え、「文字を忘れないようにしている」のだという。しかし、夜な夜な網引きを手伝った後は疲れ切り、体力を回復するために眠らなければならないため、そのようにして勉強できる機会はまれだ。
この集落に移り住んで6年になるというブイ・ティ・タインさん(女性)夫妻は、息子が2人いたが、長男は2024年に交通事故で亡くなった。次男は6歳だ。「今はとにかく、早く身分証明書の手続きをサポートしてもらって、下の子を友だちと一緒に学校へ通わせたいです。親と一緒に漁に行かせたくありません」とタインさんは語る。
「越僑集落」の多くの住民は、陸に家を建て、安定した生活を送り、子どもたちが通学しやすくなるよう、何らかの支援を望んでいる。
タインさんの夫であるフオンさんは、仕事を終えると急いで食事を取る。食卓に並ぶのは魚だけだ。夫妻は、亡くなった息子に茶碗1杯のご飯と1杯の水を供えるのを欠かさない。
この湖は、子どもから大人まで、集落に暮らす人々の水浴びや洗濯などの洗い場でもある。飲料水と調理用の水については、住民は陸上から浄水を購入しなければならない。雨水を利用する家庭もあるが、雨もたまにしか降らないため、あまりあてにならない。
祝い事があるときは、住民たちは水上家屋を岸に寄せ、仮設のテントを張って宴会を行う。バン・クアンさん(男性)の結婚式も、集落の約30人が出席し、簡素な形で行われた。式が終わると、新郎新婦の家族はそれぞれ水上家屋を元のところに戻した。
夕暮れ時、グエン・バン・チョンさん(男性)夫妻は携帯電話でカラオケを楽しんでいる。チョンさんは1995年からここに住み、身分証明書も取得している。「ここでの静かな暮らしが気に入っています。病気をせず、元気でいられればそれでいいんです」と話す。
夜になると、水上家屋には充電式バッテリーや太陽光パネルによるほのかな明かりが灯る。家には主に女性と子どもが残り、男性たちは生計を立てるため、再び網を投げに湖へ出て行く。
ディンクアン村人民委員会によると、近年、カンボジアから帰国した越僑がチアン湖に多く居住しており、書類が揃っている人については警察が身分証明書を発行している。現在も警察や司法局と連携し、残る世帯の身分証明書の作成を進めているが、規定に従う必要があるため、時間を要するという。また、教育訓練局とも協力し、住民、特に子どもを対象とした識字教室の開設も検討している。
[VnExpress 00:00 10/12/2025, A]
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