[特集]
テト間近のホーチミン中心部、1日4万VNDで「寝床を買う」人々
2026/02/15 10:15 JST更新
) (C) thanhnien |
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ホーチミン市には今も、1日4万VND(約240円)で「寝床を買う」人々が暮らす集落が存在する。ここでは、旧ビンディン省(現在の南中部地方ザライ省)出身の行商人たちが、テト(旧正月)を目前に控えた夜ごと、重い天秤棒を担いで生計を立てている。
ある日の午前1時、ホーチミン市中心部の交通がまばらになった頃、ベンタイン街区(旧1区)のグエンチャイ(Nguyen Trai)通りにはまだ明かりが残っている。コンクイン(Cong Quynh)ロータリーの近く、黄色く薄暗い街灯の下で、10人ほどの行商人が天秤棒のそばに座っている。
彼らの多くは、旧ビンディン省のホアイニョン町の出身で、20代そこらの若い頃に故郷を離れ、職を得るために連れ立ってホーチミン市にやって来た。
天秤棒の屋台が並ぶ中で、赤い服を着た女性が、ライスペーパーやエビせんべい、チェー(ベトナム風ぜんざい)、ネム(春巻き)などを載せた天秤棒のそばに小さく座っている。目の前に商品を並べているにもかかわらず、客足が少なく、彼女はあくびを繰り返している。
この女性は、旧ビンディン省出身のボー・ティ・リエンさん(53歳)だ。リエンさんは、いつホーチミン市に来たのか正確には覚えていないが、20年以上前だろうと話す。その間、かつてのまばらだった家並みから高層ビル群へと街が大きく変貌していく様子を目の当たりにしてきた。
「今日の売り上げはどうだったか」と尋ねられると、リエンさんは首を横に振り、「あまり売れていませんね。午前1時にならないと分かりませんが」と答える。彼女にとっては、商品をすべて売り切って初めて利益になる。売れ残れば、すべてが無駄になるのだ。
リエンさんには3人の子どもがおり、子どもたちはいずれも安定した仕事に就いている。それでも、リエンさんが南部に出稼ぎに来た当初の日々の記憶は、今も鮮明に残っている。「当時は肩に天秤棒ひとつを担いで、路地という路地を歩き回り、日銭を稼いで、ただ子どもたちを育て上げることだけを考えていました」とリエンさんは語る。
子どもたちも大人になったのに、どうして故郷へ戻って暮らさないのか。リエンさんは軽く笑ってこう話す。「年を取って歩けなくなったら考えます。まだ身体が動くうちは働いて、自分のために少しでもお金を貯めておきたいんです。将来、自分が病気になっても、子どもや孫に迷惑をかけたくありませんから」。
2026年のテトは、旧暦12月20日(新暦2月7日)には帰省するというリエンさん。「早めに帰れば、交通費が安く済みます。普段は数十万VND(10万VND=約600円)で帰れますが、旧暦12月20日にもなると100万VND(約6000円)に跳ね上がります。テト直前まで待ってしまえばさらに高くなって、商売をしても交通費の足しにもなりません」と語る。
リエンさんによると、グエンチャイ通りやグエンバンクー(Nguyen Van Cu)通り、旧3区周辺で商売をしている行商人たちは、皆同郷で、同じ仕事をし、カウオンライン街区のオンライン(Ong Lanh)橋の近くにある共同下宿でともに暮らしている。
こうしたことから、この場所は「行商人集落」や「ビンディン集落」、あるいは旧ビンディン省のナンバープレートの番号にちなんで「77集落」と呼ばれている。彼らは同じ故郷に生まれ、同じ運命を背負い、狭い下宿のひとつ屋根の下で互いに支え合って生きている。
午前2時、彼らは夜の街を後にする。車通りの少なくなった道を歩き、慣れた角を曲がりながら、ブイビエン(Bui Vien)通りの歩行者天国から400mほど離れたベンタイン街区(旧1区)コーザン(Co Giang)通り17番地の路地裏へと黙々と帰っていく。
共同下宿の大家で、長年にわたりこの「行商人集落」に関わってきたソンさん(男性)は、この共同下宿について簡単にこう説明する。「ここは日貸しで、電気代と水道代込みで1人4万VND(約240円)です。半月ごとにまとめて支払う形です」。
ソンさんによると、現在この共同下宿には約30人が暮らしており、全員が行商で生計を立てている。住人たちは午前8時頃に天秤棒を担いで街に出かけ、深夜になると戻ってくる。
共同下宿は全体で約100m2の広さがあり、寝室として小さな区画に分けられている。1階には、天秤棒や籠など、長いこと使い込まれてきた住民たちの商売道具が所狭しと置かれている。
2階の生活スペースは窮屈で、床いっぱいに敷かれたござの上に人々が身を寄せ合って横たわる。周囲には衣類の入った袋がぶら下がっている。ここは、長い夜を過ごした行商人たちが身を休める仮の住まいとなっている。
またある日の午後、同じく旧ビンディン省出身のサウさん(女性・65歳)は、夜更かしが続いて目の下に深いくまを作りながらも、明るく客を呼び込んでいる。
サウさんは、旧暦12月26日(新暦2月13日)に帰省する無料のバスチケットを知り合いから手に入れることができた。「毎年、節約のために無料のバスで帰省しているんです」と話す。
サウさんにとって、テトは質素なものだ。贈り物もなく、買い出しもほとんどしない。「お金はあまりありませんが、家に帰って子どもたちと再会できれば、それで十分です」。年明けの数日間を皆で過ごせれば、それだけで心が温まるのだという。
サウさんは毎日欠かさず、オンライン橋からグエンバンクー通りまで約50kgの商売道具と商品を担いで行き、夜には飲み屋を回って商売をする。そして、23時近くになってようやく歩いて共同下宿へ戻る。
「バイクタクシーを使えば楽なのでは」と言われると、サウさんは笑って首を横に振る。「30分も歩けば着きますから。バイクタクシーを使えば1回3万VND(約180円)はかかります。そんなお金は払えませんよ」。特にここ数か月は売れ行きも低迷しており、稼いだお金は食費と下宿代で消えてしまう。
サウさんの2人の子どもはすでに結婚し、それぞれ家庭を持っている。サウさんは、60歳を過ぎても、故郷へ完全に戻るつもりはない。「子どもたちは自分の家庭のことで精一杯ですし、私は私で、自分のことは自分で何とかしなければなりませんから」と語る。
「行商人集落」に暮らす人々にとって、テトは家族と過ごすほんの数日の団らんにすぎない。その後はまた、慣れ親しんだ天秤棒とともに、都会の喧騒の中で休みのない日々を過ごすのだ。
[Thanh Nien 05:00 07/02/2026, A]
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