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[特集]

「世界で最も美しい老婦人」と称されたホアイ川の船頭

2026/03/08 10:36 JST更新

(C) VnExpress
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 南中部沿岸地方ダナン市(旧クアンナム省)ホイアン街区のホアイ川で船頭として生計を立てていたブイ・ティ・ソン(Bui Thi Xong)さんは、「隠された微笑み(Hidden Smile)」という写真で国際メディアに登場し、ホイアンの人々の姿を世界に広めた。

 ソンさんは、ホイアン街区に住んでいる。広く知られるようになる前の彼女の人生は、長年にわたり旧市街の人々の馴染み深い生計手段の一部である、ホアイ川の小さな木造の小舟と共にあった。

 ソンさんが船頭の仕事を始めたのはかなり遅く、60歳を過ぎてからだった。2000年代にホイアンの観光が大きく発展し、多くの観光客が小舟に乗ってホアイ川から旧市街を眺める体験を望むようになった。当初、ソンさんは小舟に座って観光客向けに小物を販売していたが、その後、観光客を案内する船頭の仕事も兼ねるようになった。

運命を変えた日常の瞬間

 2014年、ホイアンを訪れたフランス人写真家のレハン(Rehahn)氏が、ソンさんの漕ぐ小舟に乗り込んだ。彼がカメラを構えると、ソンさんは反射的に口を手で覆って微笑んだ。この行動は年配の女性のとても自然な習慣のようで、恥ずかしさからでもあり、年とともになくなった歯を隠すためでもあった。

 その一瞬が写真に収められ、「隠された微笑み」と題された特別な写真となった。フレームの中には、平凡な労働者の輝く瞳、たこのできた手、そして控えめな微笑みがあった。この写真は瞬く間に国際メディアに広まり、多くの賞を受賞し、多くの国で展示された。

 一部の米国の新聞はソンさんを「世界で最も美しい老婦人」と呼んだ。この呼び名は外見からではなく、写真に表れた素朴さと誠実さから来ている。ソンさんは当時、自分の写真が広く掲載されたことにとても驚き、自身の質素な労働生活がこれほど多くの人に関心を持たれるとは考えてもいなかったと語った。

 写真が有名になった後、ソンさんの生活には多くの変化があった。多くの観光客がソンさんに会うためにホアイ川の船着き場を訪れ、小舟に乗ったり記念写真を撮ったりした。彼女の肖像は写真集やホイアンの土産物店に登場し、ベトナム女性博物館でも展示された。

 2018年3月、故グエン・フー・チョン書記長は、フランスとベトナムの友好45周年を記念する公式訪問において、ソンさんの肖像を収めた写真「隠された微笑み」をフランスのエマニュエル・マクロン大統領に贈った。フランスの大統領は、この写真の意味を、ベトナムの笑顔の美しさと両国の協力関係における笑顔の象徴として認識した。

 しかし、注目を集めたことでプレッシャーも生じた。ソンさんは、一部の同業者からの嫉妬や噂話に直面したこともあるという。観光客が優先的に彼女の小舟を選ぶことで、船着き場での活動が緊張した時期もあった。

 中傷や嫉妬の態度、さらにはいじめに対しても、彼女は沈黙を選んだ。ソンさんは、これまで客を奪い合ったり、誰かと競い合ったりしたことは一度もないと断言する。「私はもう年をとっているし、このようなご縁を持てたことは貴重なことなので、誰とも争うべきではありません」と彼女は語った。

優しい芸術と国境を越えた関係

 ソンさんへの感謝の気持ちとして、レハン氏は作品の収益の一部をソンさんの支援に充てている。ソンさんがまだ仕事をしていた時、レハン氏はソンさんに約1500万VND(約9万円)の新しい小舟を贈った。現在でも、ソンさんが高齢で体力が衰える中、安定した生活を送れるよう、レハン氏は毎月の経済的支援を続けている。

 2人の関係は徐々に仕事の枠を超えていった。レハン氏は頻繁に訪ねてきては、ソンさんをホイアンのファンボイチャウ(Phan Boi Chau)通りにあるギャラリーに招いて語り合った。文字も外国語も分からないソンさんだが、彼の接し方には常に誠実さと自発的な思いやりを感じているという。

 80歳を超え、ソンさんはオールを置いた。レハン氏から贈られ、生計を立てるために長く連れ添った小舟は、人に頼んで岸に引き上げてもらい、旧市街の郊外にある馴染み深いニッパヤシの木々の下、ホアイ川のそばにひっそりと置かれている。

 仕事が懐かしくなるたびに、彼女は家の裏に行き、再びオールを手に取り、長年自分を養ってくれた仕事への感謝を伝え、記憶を留めるかのように静かに小舟を拭き清める。

 毎日、彼女は午前5時頃に起き、理学療法センターまで歩いて行き、骨や関節の痛みを和らげるために腰の振動マシンやウォーキングマシンで運動する。その後、帰宅して簡単な朝食をとり、休息する。

 生活の利便性のために一人暮らしをしているが、子どもや孫は皆近くに住んでいる。彼女は今でもキンマを噛む習慣を保っており、写真撮影、特にテト(旧正月)の写真撮影に引き続き参加できるだけの健康を保ちたいと願っている。

 ソンさんはまた、多くの写真家に求められるモデルにもなっている。彼女は、古い家でお茶を淹れたり、花を担いで街を歩いたり、家の軒先に座ってホアイ川を眺めたりと、旧市街の馴染み深い生活風景の中での写真の撮影に参加している。報酬は固定されておらず、交渉と客の気持ち次第だが、彼女によれば、最も重要なのは喜びと皆からの敬意だという。

 有名になったことについて、ソンさんはそれが老後における「貴重な名誉」だと考えている。小さな家の中で、彼女は自分のポートレート写真をよく見えるところに飾り、訪れる人々に披露している。

 ソンさんをよく旧市街に連れ出して写真を撮っている写真家のグエン・アイン・クオン(Nguyen Anh Cuong)氏は、ソンさんについて、ホイアンの都市のアイデンティティを構築するのに貢献している「生きた遺産」の一人だと語る。

 クオン氏は、国内外の写真家界にソンさんの「トレードマークの笑顔」を紹介できることを常に誇りに思っているという。その笑顔こそが、彼女にさらなる収入源をもたらしている。「最も印象的なのは、キンマを噛みながらとても魅力的に明るく笑う瞬間です」と彼は語る。

 クオン氏によれば、ソンさんは古い家や歴史的遺跡を所有しているわけではないが、彼女の笑顔は世界中に広まり、ホイアンの人々の親しみやすさと優しさの象徴となっている。 

[VnExpress 00:00 03/01/2026, A]
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